第12話
「ふぅ……はぁ……大丈夫?ルミネさん」
「だ、大丈夫です……けど、流石に疲れました……」
あれから、なんかめちゃくちゃ楽しくなって時間を忘れていたのだが、流石に何時間もやっていればルミネさんのパフォーマンスも落ち、疲れも見え始めたので今日は終わりにしておいた。
片膝をつき、木剣を支えにして立ち上がろうとしていたが、疲労からか中々上手くいかないので、手を差し伸べた。
「どうぞ、お姫様」
「……別に、今更護衛ぶらなくても大丈夫ですよ?」
「いや、今は正真正銘護衛ですが」
「どこの国に護衛対象と剣を交える護衛がいるのですか」
確かに。思わず納得してしまった。
クスリと笑い、ルミネさんは差し出した俺の手に、自身の手を重ねたのを確認し、しっかりと握って腕を優しく引っ張る。
「きゃっ」
「おとと……」
しかし、疲労で足がもつれバランスを崩してしまったため、咄嗟に体で受け止めた。
よしっ、とりあえず無事そうだな。
「大丈夫?怪我とかしなかった?」
「えぇ、大丈夫です。申し訳ありませんユキナさん」
「気にしないで。それよりもしっかり立てるか?」
「はい。少し、体をお借りしますね」
と言って、俺の手を握っていない方の手を俺の胴体へと添えて、それを支えにしてしっかりと立つ。パッと見、疲労以外の怪我はなさそうだな。
「一人で立てそう?」
「………すみません、ユキナさん。どうやら、少々はしゃぎ過ぎてしまいまして、ちょっと……」
うん、まぁ俺も久々に楽しかったから、その気持ちは非常にわかる。
手合わせって……こう、なんか楽しくなってはしゃいじゃうもんな。
「分かった。それじゃあ寮までこうして支えさせてもらう」
「迷惑をおかけます。ユキナさん」
「気にしないでいい。護衛として当然のことだ」
と、俺はそのまま右手はルミネさんを支えるように手を繋いだまま訓練場を後にした。
「……ユキナさんは凄いですね。私と同じ位剣を振っていたはずなのに、しっかりと立てているなんて」
「うーん……これは経験の差としか言いようがないなぁ」
俺は、どんな状態であろうと、いつもと同じパフォーマンスが出来るように、セルシウスに特訓させられていたからできることなのだ。特訓をすれば誰でもできるようになるが、その後の反動が物凄いため、あんまり使いすぎると、次の日は疲れで1歩も動けないということも有り得るので、気をつけた方がいい。
「まぁ、ルミネさんはとても努力をしますから、しばらくすればそんな心配もしないで――――危ない!」
「っ!」
疲れたルミネさんを的確に狙った投げナイフ。ルミネさんもその存在に気づいていたが、疲労で動けず、危うく刺さるところだったので、俺は内心謝った後にルミネさんを抱えあげて、そのまま前へ大きく跳躍した。
「すみませんユキナさん……私、今役立たずですね」
「気にしないでください。この状況は仕方ないです」
しかし、まさか昨日お仲間が捕まったばかりなのに、もう次の刺客が送り込まれるなんて……。
しかも――――
「お?なんだお前か。久しぶりだな、あの時の騎士」
「……ザザ・クラークか」
相手が、この前学園に侵入しようとしていたところを俺が発見し、逃げられたあの日の襲撃者だった。
「ザザ・クラーク……SSS級の国際的な犯罪者ですね」
「一国のお姫様に知られているなんて感激だな」
「狙いは当然、ルミネか」
俺は、腕の中にいるルミネを一瞬だけ見る。怯える様子はなく、むしろ逆に闘志をぶつけている所、そんな心配はしないで良さそうだ。
だがしかし、ルミネは現在疲れでまともに歩くことが出来ない。地面にでも置いて、俺が戦えるようにするという選択肢があるが、その場合、あいつら積極的にルミネさんを狙うだろう。
ならば、残る選択肢はただ一つ。
――――セルシウス!
――――分かった。存分にボクの力を使うといい。
右眼に熱が宿り、あの状態に。
「……っ、ユキナさん、目が……」
「へぇ?あの時は本気じゃねぇと、そう言いたげだな」
「まぁな」
と、俺はルミネさんと目を合わせた。
「少し、暴れるからしっかりと俺の首にまで手を回しておいてくれ」
「ユキナさん、まさか私を抱えながら戦うとは言いませんよね?」
「よく分かったな。その通りだな」
「無茶ですよ!?」
いやいやいや、全然無茶じゃない。初見相手だったらそんな無謀な真似はしないが、こいつとは一度軽くだが戦っている。
それだけ分かっていれば充分である。
俺は、両手で横抱きにしていたのを片手にして、少しでも衝撃が来ないように、俺へ密着させた。
「……本当にやるんですか?」
「勿論。後、戦闘中は喋らないことをオススメする。舌噛むぞ?」
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