第11話
「いーい?新人クン」
「………ウッス」
「もし、ルミネちゃんの体にかすり傷ひとつでも付いたら――――その首、物理的にもはねられるからね?」
「っ!うっす!」
と、アイシャさんに物凄い威圧できょうは――――もとい、任務を受け取った俺。そんな俺なのだが、今は目の前で楽しそうにしているルミネさんに手を引かれ、訓練場へと移動をしている。
場所なら、今朝メーテさんと一緒に行って覚えているし、大丈夫なのだが、ルミネさんが「護衛なら主の言うことは聞いてください!」という謎理論を展開して俺の意見を封殺。
あれ……アイシャさんとの約束は俺の言うことをきちんと守ることだったような。
「ささ、着きましたよ。今日はたくさん手合わせ出来ますね」
「………そうだな!」
いや、これも仕事なのだ。護衛の心得その一、護衛対象から離れることはならないって習ったし、アイシャさんもそれが一番大事って言ってた!
だから………うん、これさえ守っておけば俺の言うことを聞かないくらい大丈夫だろ!
ルミネさんの、楽しみで仕方がないという笑顔に、俺も自然と頬を緩ませる。
今は、この人に集中だ。襲撃者や、危険性は一度、この瞬間は忘れよう。でないと、相手に失礼である。
「木剣があるので、それを使いましょう」
「分かった。楽しみにしてるよ」
「はい!私も楽しみです!」
そして、木剣の音が甲高く鳴り始めた。
「………どうして木剣同士の音なのにここまで響いているのかしら」
その頃、エントランスにて部下の報告書に目を通していたアイシャは、カァン!カァン!という音にピクリと眉を動かした。
確かに、訓練場の天井は吹き抜けで、青い空が見え、大きな音だったらそれなりに響くだろうが、騎士団本部まで届いた音は一つも無い。
「まぁ、どっちも
決して誤解して欲しくないのだが、別にユキナは戦闘大好きという訳では無い。
ただ、愚直に
全ては、憧れとともに闘う日の時のために。
ルミネも、ユキナと似たような所がある。王族として生まれ、自身が学んでいる魔剣流最強の使い手が身内にいるのだ。子は親の背中を見て育つとはよく言うが、ルミネの場合は若干それが振り切り過ぎているだけなのである。
「……まぁいいわ。えっと、これがこっちで、これがこれ……?メーテから?」
頭を一度振り、業務を再開したアイシャだったが、処理していく手紙の中に1つ、変なものが混じっていた。
表面にはアイシャへ、と書かれており、裏面を見ると、封をしてあったのでそれを開けて、紙に目を通し始めた。
「結界装置報告書……なるほどね………やっぱりどこも異常はないのね」
それじゃあ、どこか問題なのだろうとその下を読み進める。しかし、やはりこの紙にはどこにも異常は書かれていない。
「やっぱり異常はなしね。それだったら、一体何原因―――ん?」
最後の行。よくよく見てみれば、その下に何やら小さい字で書いてある。枠に入り切らなかったのだろうな。
「……別途資料あり?」
と、一度机に置いた手紙の殻をもう一度つまむと、逆さにしてからブンブン降り始める。
「あら、本当に何か出てきたわ」
カランコロン、と小さな音が響き、小粒ほどの石のような物が出てきた。
「……えっとなになに……?調べたところ、この石は大災厄アバドンの体の一部で、この石自体に結界を緩めさせれる能力がある……?」
(………………)
ことり、と手が机に置かれた。
「………うっそーん」
そしてそのまま、机にズルズルとうつぶせになった。
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