第10話

 あれから、メーテさんにあの石を渡したら、めちゃくちゃを目を見開かせ、ほとんど取られるような形でメーテさんの手に渡った。別に、元々メーテさんに渡そうとは思っていたが、あの剣幕は凄かった。研究者って色んな意味でやべーと認識した。


 そして、一先ず与えられた仕事が終わり、休憩としてお昼ご飯を食べたあとは、座学が始まった。


 主な内容は、貴族の家名を覚えたり、闇ギルドの紋章を覚えたりとかそんな感じ。それと、更に詳しい仕事の内容とかも教えてくれた。


 例えば、護衛途中に襲いかかってきた襲撃者の対処法とか、護衛をする際の立ち位置とかその他もろもろ。


 後、なんかアイシャさんが付け加えるように「今年は他国のお姫様とか、ご立派な貴族様のご令嬢が沢山入学していて、絶対刺客が多くなるから覚悟しててね、新人クン!」と言われた。


 ぶっちゃけ、今言います?とか思った。まぁでも、俺はここに入ってまだ二日だし、男だし、アイシャさん達もいるから俺にはそんな依頼は来ないだろうと思われる。


「あぁ、そういえば新人クン。捕獲していた襲撃者がゲロった情報があるのだけれど聞く?」


「……あの、団長。団長も女性なんですからあんまり下品なことを言わない方が……」


 アイシャさんから『ゲロった』とか……すっごい似合わないのですが。


「大丈夫よ、今は新人クン意外誰も聞いてないもの。それで、今回のターゲットなのだけれど――――」


 そういう問題ではないと思うのですが……。俺は、アーディさんが言っていた『たまにガサツ』とはこのことなのかと思った。


「―――まぁ、もうそろそろ来るから説明するまでもないと思うのだけれど」


「へ?」


「ユキナさん!いらっしゃいますか!お迎えに参りました!」


 バタン!と勢いよく扉が開く音と、今朝聞いた上品さを残しながらもどこかワクワクが抑えきれない声が耳に入ってくる。


「ルミネさん?」


「いらっしゃいルミネちゃん。ナイスタイミングね、こっちにおいで?」


 現れたのは今朝約束し、俺を迎えに来てくれると言ってくれたルミネさんだった。急いで走ってきたのか、ほんの少しだけ息を弾ませていた。


 しかし、アイシャさんが俺の隣にある椅子を指さし、ここに座って?とは言っていないが、そんな雰囲気を醸し出している。一瞬だけ、俺と早く訓練したいルミネさんは頬をふくらませたが、雰囲気を察したルミネさんは、静かに俺の隣に座った。


「……団長」


「聞かなくても、新人クンならもうわかってるんじゃない?」


 こくんと頷いた。アイシャさんが、もうすぐ来ると言っていたのと、ナイスタイミングという言葉、そしてルミネさんを引き止めるということ。


 どんなに馬鹿でも、これだけヒントとピースが集まっていれば、誰にだって解けるだろう。


「ターゲットは、ルミネさんですね」


「ご名答」


「え?私ですか?」


 名前を呼ばれ、一瞬不思議そうな顔をしたルミネさんだが、最近の騒動を思い出したのか、直ぐに納得をした。


「ルミネちゃんには悪いんだけど、この騒動がひと段落着くまで、寮からの外出は禁止よ。それが嫌なら、誰か護衛をつけなさい」


「必要ないです。私より弱い人は、護衛にふさわしくありません」


 おおう……ルミネさん、めちゃくちゃ断言するな。確かに、ルミネさんの実力は相当だ。この騎士団でルミネさんに勝てる人なんて二桁にギリ届くくらいだろう。


「それじゃ寮からの外出禁止になるわよ?」


「それも嫌です。鍛錬したいです」


「……あのね?私達は貴方のことを思って言っているの。貴方が強いのは充分承知しているけれど、所詮15年生きているだけで、少しは場馴れしているだけの小娘よ」


「ちょ、団長!」


 流石にそれは言い過ぎなのでは!?


「静かにしてなさい、新人クン。自分の危機をきちんと理解していないこのくらいの年頃の子にはね、ちゃんとこうして叱ってあげないとダメなの」


 と、静かな口調で俺の言葉を圧殺したアイシャさん。今のアイシャさんは、いつものほんわかした雰囲気ではなく、氷のように冷たく、尖った威圧感を放っている。


 ……これが、アイシャさんの片鱗か。


「外出禁止か、護衛を付けるか選びなさい。なんなら、そこの新人クンでもいいから――――」


「じゃあユキナさんがいいです!」


「―――護衛を……え?」


「ん?」


 まだまだ話し合いが続くと予想していたのか、アイシャさんは予想外の反応にきょとんとした。


 無論、俺もである。


「ユキナさんを護衛として連れていけば、鍛錬してもいいですか?」


「……え、えぇ。きちんと新人クンの言うことを聞くなら」


「なら分かりました!ユキナさん、よろしくお願いします!」


「……………ん?」


 なんか、初っ端から重大そうな仕事を与えられた気がするんですが。

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