第13話
普段ならば、俺は直剣を両手で持つスタイルで戦闘をしているのだが、今回は片手でルミネさんを抱えているため、いつもの戦闘スタイルではないが、負ける気はしない。
俺は、そのままザザに向かって突撃を始めた。
「ぐっ……姫さん抱えてのハンデがありながらもこの実力か……っ!」
「鍛えが足りないんじゃないのか?後五年ほど鍛錬してから出直してこい」
まぁ、その場合俺も五年間鍛錬してるから、差は決して埋まらないとは思うがな。
いつもだったら剣を主体にして戦術を立てるが、今回の相手は小刀を主にして、体術も交えてくるスタイルだ。体術に関してでも負ける気はしないが、こちらはルミネさんがいるので余り激しい動きは出来ない。
よって、今回は相手のペースで戦わず、魔法を主軸にして戦う事に決めた。
「凍れ!」
「チイッ!」
剣を振ると、その延長線上に氷の柱が無数に産まれながらザザの元へと向かっていくが、
「
「っ!」
剣を地面に刺すと、辺りに冷気が撒き散らされ、世界は一瞬にして銀色の世界へと早変わり。急速に冷える体温にザザの動きがあからさまに鈍くなった。
勿論、術者である俺と、ルミネさんに関してはきちんと守っているので影響はない。
「これは……凄いですね」
「世界を閉じこめ、事象を無理やり改変させる魔法だ。俺のとっておきでもある」
ちなみに、俺は少しの範囲でしか展開出来ないがセルシウスは世界全てが対象になるらしい。ほんと、恐ろしいなこの神。
「ぐっ……!」
ドサリ、と身体が倒れる音がする。案の定、体温の冷えまくったザザのが無様に地面に片膝を着いていた。
「こ、れが……お前の全力なのか……?」
「いいや。こんなもの、俺の数ある手札のウチの1つでしかない」
他にも、セルシウスに無理やり覚えさせられたものなら何個だってある。
「それじゃあなザザ。次目を覚ます時は地下牢の中だな」
「……ッチ、ここまでか」
地面から氷柱が飛び出し、ザザが氷の棺の中に閉じ込められる。
「さて、無事に捕まえることが出来たな」
「お見事です、ユキナさん」
「ルミネさんは大丈夫だったか?怖い思いとかしなかった?」
なるべく恐怖を与えないように立ち回っていたつもりだが。
「大丈夫です、ユキナさんがしっかりと守ってくださいましたから」
「そっか。なら良かった」
剣を地面から抜くと、先程まで辺りに氷柱が咲き乱れていた光景が一瞬にして消え、冷気となって消滅する。その中心にはザザが捕まっている棺桶が一つ。
「降りれるか?」
「…………すいません。もう少しこのままで」
と言うと、何故か戦闘の時よりも強く首に手を回し始めた。……本当は怖かったのだろうか。ちょっと反省だな。
……さて、ザザを捕まえたことをアイシャさんに報こ―――
「ん?」
なんかザザの足元に魔法陣が―――魔法陣!?
「やべっ!!」
「!?」
急な加速で、ルミネさんが声にならない悲鳴を上げたが、今その事に意識を持っていかれる訳にはいかない。
「チッ!」
しかし、俺が魔法陣に剣を突き刺そうとする前に、魔法陣が発光。氷を利用されて光がさらに眩しくなり、一瞬目が光に奪われるが、セルシウスが直ぐに対応してくれた。
そのおかげで、はっきりと見えてしまった。ザザだけが消え、氷の棺には誰もいなくなってしまったことを。
「………やられたか」
――――転移魔法か。中々のやり手が向こうにいるようだね。
セルシウスが中から中々と称した。セルシウスの評価基準はイマイチ分からないが、初めてオレがセルシウスから『中々やるようになったね』と言われたのが、八歳の頃だったから、それくらいの実力だと思っておけばいいか。
「あん?」
「目が覚めたかザザ」
ザザが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。その事に不思議に思いながらも、一瞬にして心当たりが見つかったザザは舌打ちをうった。
「余計な真似しやがって……」
「仕方ないさ。彼は君を慕っているし、なんと言っても、今君を失う訳にはいかないからね」
「わかっているけどよ……」
と、ザザは頭をかき、目の前にいる男の顔を見た。
「けどよ『セブン』。俺は完全敗北したんだぜ?あの頃の様子見とは違い、完全な失敗をしたんだ」
任務失敗者は助けるべからず。それが闇ギルド、スネイクドラゴンの心得。
「いいや、君はまだ完全に失敗していないし、最低限の目標はこなしたさ」
「……お前、また脅したな?」
「さて、なんの事かな」
くすくすと笑うセブンは立ち上がり、ザザに背を向けた。
「それじゃあねザザ。君の次の出番はしばらく先だから、ゆっくりと体を休ませるといい」
そして、部屋を出ていったセブン。それを細めで見送ったザザはもう一度ベッドに寝そべった。
「『アバドン復活の儀式』ねぇ……依頼者の頼みだから引き受けるが、あんなバケモノ復活させてまであの嬢ちゃんを殺したいのか?」
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新作投稿しました。よろしければ読んでみてください。
『天職:TAS』
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