不穏

第1話

 次の日。いつものように朝の日課であるランニングをし、女子寮近くまで行くとアーディさんに捕まり、またもや今日もルミネさんを連れて一緒にランニングへ。手合わせしたらダメよと釘を刺され、アーディさんに迷惑をかけないようにしようと、ルミネさんと一緒に決めた。


 昨日は、ルミネさんを寮に送り届けた後に、セルシウスに言われた通りアバドンの体の一部らしい石を拾っては壊し、拾っては壊しを繰り返し、計100個は潰したと思うが、セルシウス曰く、まだまだ数はとても多いのだと言う。


 俺一人だけでは到底無理なので、アイシャさんに相談しようかと思ったが、アイシャさんの手元には既に、メーテさんが解析し、その結果の書かれた紙と、その石が手元にあった。


 確か、あの石って午前中に渡したやつなのだが、急ピッチで解析を終わらせたのだとか。メーテさんの才能を垣間見た気がした。


 メーテさんに書かれていた手紙曰く、この石には二つの魔力と呪術が掛けられており、魔力の一つがアバドン特有のなんでも破壊する魔力で、もう一つが誰かは分からないが、恐らくスネイクドラゴンの構成員の魔力。


 結界の認識方法は、魔力で認識しており、一度でも学園に入ったことのある魔力であれば、二日以内であれば入ることが出来るという性質を利用されたのだろうというのがメーテさんの予想である。


 そして、呪術についてなのだが、詳しいことは分からないのだと言う。どうやら、この石にかけられている呪術はほんの一部で、小さすぎて解析不可能なのだということ。


 その危険性を知らせ、騎士団の人達には詳しく学園中を探し、見つけ次第壊すことを伝えているのだと言う。アイシャさんに渡そうとしていたアバドンの一部は、さり気なくぶっ壊しておいた。


「……なるほど、そのせいで沢山の侵入者がいるのですね」


「あぁ。申し訳ないんだけどさ、ルミネさんには悪いけど出来るだけ寮の中にいて欲しいんだ」


 俺は、隣を走るルミネさんに昨日の件を伝えた。


 ルミネさんのことが心配ってこともあるが、寮の中がいちばん安全なのだ。敵の狙いが分かっている以上、寮にいればそこの警備を固めればいいだけだし、護衛の仕事も格段にしやすくなる。


 でも、きっとルミネさんは――――


「お断りします」


「ですよねー」


 うん、分かってた。絶対に断るってことを。


 だって、ルミネさんって三度の飯より鍛錬が好きってくらい、自分の腕を鍛えることに生きがいを感じているのだ。逆に、これで大人しく分かりましたって言ったらルミネさんを疑う。


「それに、何があってもユキナさんが守ってくれるので、心配してないです」


「うーん、信頼してくれてるのは嬉しいけど……」


 ルミネさんに傷一つでも着いたら首が物理的に飛ぶんでしょ?プレッシャー半端ないんですけど。


「頼りにしてます。私の護衛ナイトさん」


「……それは反則だよ、ルミネさん」


 護衛の心得その4。護衛主の信頼と期待には全力で応えよ。これで、俺はルミネさんのために全力で守らなければならない。


「………あの、ユキナさん。私が卒業したら……その、護衛ではなく、私だけの騎士に――――っ!」


「懲りないなぁほんとに!」


 空中から突如として飛来してきたナイフ。俺とルミネさんを正確に狙ったそれは、俺たちがバックステップをして回避したので、無様に地面に刺さった。


「躱されたか」


「油断するなよ。片方は剣の国の姫君に、もう片方はザザさんを強制撤退させた化け物だ」


 そして、俺たちの前に現れたのは二人の人物。同じようなフード付きマントに、ザザという名前が出てきたことにより、スネイクドラゴンの構成員であると確信した。


「ルミネさん、俺の後ろで大人しく―――は絶対にしないよな、うん」


 ちらりとルミネさんの方へ目を向けたら、なんだか凄くウキウキとした様子で、既に魔剣を作っており、構えていた。どうやら、殺る気満々である。


「お手伝いします、ユキナさん」


「言っても聞かないだろうから俺は何も言わないぞ!」


 腰に差してある剣を抜き、両手で持ち構えると、右眼がじわじわと暑くなる。


「確実に行くぞ。あの護衛は無視でいい。ターゲットを狙え」


「おうよ」


「ルミネさん、一人任せた」


「承知しました」


 こうして、配属日三日目の朝は、いきなりの襲撃で始まったのだった。


 ……俺、まだここ来て三日しか経ってなかったのか。体感的にもう二ヶ月くらいいた気だったわ。



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 新作の方投稿してますんで、よろしければ読んでください!これから面白くなります!

『天職:TAS』

 いつかケツワープをさせたい……

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