第9話

「どうしますか?奴は」


「あいつは抹殺対象だ。色んな国で指名手配をされているからな。生かしておく必要は無い」


 と、ヴィクトリア様が剣を構える。つまり、遠慮なく殺っちゃって構わないと言うわけか。


「ハッ!やれるもんならやってみな!今の俺はいくら聖騎士が相手だろうと―――んあ?」


 何やら大仰に手を広げて話し出した瞬間に、奴の片眉がピクリと反応した。


「はぁ!?もう撤退だと!ふざけるな!ここから面白く―――おい!待て!」


 そして、奴の足元に魔法陣が展開して一瞬で消えた。あまりの急展開に俺とヴィクトリア様はポカーンとしてしまったが、次の瞬間に体全体にのしかかるようなプレッシャーを感じ、片膝を着いてしまう。


「なっ……!?」


「この感じ……なんだ……?」


 ヴィクトリア様でさえ頬に冷や汗をたらりと流していた。


 ……まさか、この重圧を出している正体は……。


「まぁ、十中八九アバドンだろうね」


「セルシウス……」


「シュトラム……?」


 ぬるり、と体の中からセルシウスが出てきた。顔を見ると、彼女の顔にも汗が出ていた。


 ……セルシウスがこうも分かりやすく焦っている姿を初めて見た。


「一体何を触媒としたのかは知らないけど……急いだ方がいい。あいつが寝ぼけているうちに、しっかりととどめを刺すんだ」


「そうだな……」


 膝を着いている足をべシッと叩き無理やり喝を入れてから立ち上がる。その際にブルブルと足が震えるが問題無し。


 なぜなら、隣には俺の憧れの人がいるからだ。絶対に、情けない真似はできない。


「行きましょうヴィクトリア様。アバドンさえ倒せれば万々歳です」


「そうだな。私達がいればきっと大丈夫だ……行くぞ」


「はい!」


 そして、俺はセルシウス。ヴィクトリア様はシュトラムの案内に従い、俺達足を進めるのであった。


「……おいおい、なんだよこれ」


「……なんと」


 そして、反応のあった場所へ行くと、そこにはなにかに荒らされたような後があった。


 木は中段からおられ、所々地面には穴が空いており、花は荒らされており酷い光景となっていた。


「おい、アバドンは?」


「……おかしい、確かに反応はここのはずなんだ……」


「シュトラム、アバドンは大きいんだったよな」


 ヴィクトリア様もシュトラムと会話をしてアバドンの正体を確かめている。


 昔の文献とかによれば、アバドンの全長はそれはもう大きいらしく、最初にセルシウスに見せてもらった時は山かと思った。


 だから、絶対にわかるはずなのだ。あんなにでかいのなら絶対に分かるはず―――ッ!


「うおっ!?」


「ユキナ!」


 本能に救われた。多分だが、俺はあのままあそこに立っていたら即死亡だったかもしれないと思うほど、俺の背筋が凍りついた。


 地面から飛び出てきたのは黒い物体。回避されたことが分かると、全長50cmくらいの鋭い牙の生えた化けも――――ん?


「は?」


「え………」


 全長………50cm位!?


「ちっさ!?うおっ!?」


「くっ!見た目に騙されるなユキナ!ちっちゃくとも間違いない!ソイツは正真正銘の悪食、『アバドン』だ!」


「グルルルルル………」


 千年ぶりに復活した災厄は、なんともこじんまりとした姿でした。


「ユキナ!この大きさならば氷柱地獄ニブルヘイムの世界に引きずり込める!」


「!確かに!ヴィクトリア様!」


「了解だ!」


 セルシウスからの提案に賛成し、ヴィクトリア様に声をかけた。特に何も合図なんて決めていないが、分かり合えた。


「こっちを向け!」


 そして、ヴィクトリア様が全力でアバドンの注意を引くために風を巻き起こしてアバドンを攻撃する。そしたら、イラついたのかアバドンがヴィクトリア様の方へ向かった。


 今だアンデルス!最大出力の氷柱地獄ニブルヘイム行くぞ!


「いけ!氷柱地獄ニブルヘイム!」


 剣を地面に突き刺すと、辺りが銀色に包まれた。





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新作出てます!良かったら見てください!

『スマホから出てきた剣が俺の人生を180度変えてしまった件(剣)について』

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