第6話

「……こほん。ま、結界についてはこれから協会の方から調査員が来るらしいからそれに任せる――――いえ、そうね」


 と、アイシャさんが何やら考え始めた。協会というのは、『魔導師協会』というもので、魔法を戦いに活かすのではなく、身の回りの生活を便利で豊かにするためという信条の元に、構成されている魔法使いの集団である。


 その際に生まれたのが魔道具という、擬似的な魔法を再現してくれる素晴らしいもので、魔法を使えない人でも魔法を使え、操作できるのだと言う。


 結界を発動させているのも魔道具なのだろうか。協会の人が来ると言ってるのだから魔道具だと思うのだが。


「うん……そうね。新人クン!」


「っ、はい!」


 ビシっ!とアイシャさんが指を指してきたので自然と背筋が伸びる。多分だけど、これから何らかの仕事が割り振られるのだ。何となくそんな気がする。


「本当なら、校舎の見回りをさせて、場所を覚えさせるつもりだったけど、予定変更よ!点検が終わるまで、あなたには協会から派遣される人物の護衛の任を命じます!」


「ハッ!」


 と、反射で左手を胸に当てたのだが、敬礼してから思った。


 俺、協会の人知らないんだけど。


「うん、いい返事ね!」


 きちんと教えて貰えました。


 協会から派遣されるという人物はメーテさんといい、女性の方。協会の方の制度はどうなっているか知らないが、なんでも『賢者』の称号を持っている人らしく、ここの結界装置を作った人もメーテさんなのだとか。


 一ヶ月に一回は定期検査でここに来るらしく、顔を覚えておいて貰った方がいいとのことだった。


 なので、俺は現在校門の前でメーテさんを待ってます。見たら絶対に分かるということなので、詳しい外見の方は教えてもらってないのだが……本当に大丈夫か?


 あぁ、それと装備いらないという件についてはしっかりとアイシャさんに話しておいた。サイズが違ったのかな?と言われたが、ただ単純に邪魔なのでと答えた。


 攻撃は基本、全部防御するか回避するから装備なんて要らないし、もし怪我をしてもセルシウスが治してくれる。更に、俺はどっちかと言うとスピード型の剣士なので、装備が多ければ多いほどスピードが下がるので、本当は胸当てとかも邪魔である。


 まぁ結論としてはセルシウスってすげー!ということである。


「……んお?」


 そんなことを考えていたら、手を振りながらこちらによってきている人が目に入った。体が俺の方に向いているため、俺に向かって手を振っているのかと思うが、念の為に左右をキョロキョロと見回してから後ろをくるりと向いてみる。


 うん、周りには勿論誰もいなし、後ろはそもそも俺が壁に寄りかかっていたため、真っ白な壁があった。


 しかし、見れば分かると言っていたのは……うん、多分こういうことだろうな。あの人はいつもこちらに向かって手を振るからか、予想だけど。


「こんにちは!君がアイシャが言っていた今日の護衛くんかな?」


「はい、ユキナっていいます。よろしくお願いしますね、メーテさん」


「うん!私のことは既に聞いてると思うけど、メーテだよ!よろしくね、ユキナくん!」


 と、メーテさんが手を出してきたので、こちらも握手に応じる。アイシャさんのことを呼び捨てで呼んでいるということは、仲がいいのかな?聞いてみよ。


「アイシャさんと仲がいいんですか?」


「うん!アイシャとは同郷でね、同じ時期にこっちに来たし、お家もお隣同士なんだ!」


 へー!同じ時期にこっちにきて、しかも二人とも結構高い役職――――賢者は役職と言っていいかは分からない――――に就いているなんて、中々ない偶然じゃないですか!


「それは凄いですね!」


「でしょでしょ!」


 と、嬉しそうに笑うメーテさん。態度と、アイシャさんの名前が出てきたあたりで露骨に喜ぶ辺り、相当アイシャさんの事が好きなんだろうな。


「そんなアイシャが押した君の実力、期待してるね!」


「分かりました、団長の期待を裏切らないように、しっかりと護衛させていただきます」


 と、左手を胸に当てて敬礼。「それじゃ!着いてきてね!」と意気揚々と校門をくぐったメーテさんの後を着いて行った。

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