第8話

「ふーん……なるほどなるほど……」


「なにか分かりました?」


 五分ほど、何やらカタカタカタと操作をして、時折画面と呼ばれる黒い板のようなものを確認したりすること約10分。


 セルシウスが興味深く結界装置について見ている間、俺は念の為に周りの警戒をしておいたが、勿論襲撃なんてものはなく、平和に終わった。


「残念ながら、なーんにも分からなかったとしか言いようがないなぁ……結界装置自体にはなーんの故障もなく正常。結界は正常に起動しているはず……なんだけどなぁ」


 と、メーテさんはキーボードをポチ、ポチと拗ねたように押す。すると、セルシウスの方も戻ってきたので、そちらにちらっと視線を移し、どうだった?と聞いておく。


「ボクも、そこの彼女が言っているとおり、この装置にはなんの異常もない。魔力が無駄に漏れているとか、一部分に集中しているなんてことはないよ」


 そうか。セルシウスでさえも見つけられないということは本当にこの装置は異常がないのだろうな。


 なら、別の視点で考えてみればいい。


 例えば……そうだな、外部から何かしらの干渉を受けているとか?


「メーテさん、外部からの干渉という線はないですか?」


「残念だけどないかな。もし、外部からの干渉があっても、この装置でなら気づけるし」


 と、メーテさんが端末をトントンっと叩きながら言う。うーむ、ハズレか……。


「あと考えられるとすれば、この敷地内からの干渉だけれど……」


「そもそも、この中に入ることも不可能なので、中に仕掛けるというのも無理なのでは?」


 となると、後はここと同じように地下とか―――――ん?


「メーテさん、結界の範囲は――――」


「勿論、地面にもきちんと展開済み。だから地下から忍び込まれるということもないよ」


「ですよねー」


 そりゃそうだな。俺程度でも思いつけるくらいの仮定とか、それの調査やらなんやらは既にしているよな。


「本当に謎だね……アイシャになんて説明しよう……」


「普通に異常はなかったですって言えないんですか?」


「いやぁ……アイシャだからねぇ……そう言って納得するかなぁ……」


 うーん、と顎に手を当てて考え始めたメーテさん。


「せめて、何か異常が見つかれば……あれ?」


「どうしました?」


「……今、結界の方に綻びが……でも、直ぐに直った……?」


「ふむ……ユキナ、今ボクが気づけたのはとても運がいい。原因が分かった。なるほどね……まさかに手を出すなんて、馬鹿な真似をする人間もいたものだ」


「……セルシウス?」


 あまりにも少し意味深な言い方をするので、思わずセルシウスの名前を呼んでしまったが、メーテさんは端末の方にかかりっきりになっているので、気づいてはいない。


「穴が空いた位置からして、訓練場らへん?よし、行くよユキナくん!やっと見つけたかもしれない!」


「え、あ、ちょ!メーテさん!」


 あまりにも急いで踵を翻し、ここに来る時に乗ってきた地面へと向かったので、俺も慌てて後を追う。


 メーテさんがまたもや石像に触れ、ガシャコン!という音が響くと、地面がゆっくりと上に上がって行った。


 ………セルシウス、一体何を感じたんだ?


「……なんというか、アレだよ。ボク達神にとっては世界で一番思い出したくもないし、名前を呼ぶことすらしたくもないほどに、嫌っているやつを感じたんだよ……きちんと封印したのに、馬鹿なことをする奴もいたものだ」


 と、結局は教えてくれなかったセルシウス。少し機嫌が悪く、怖かったのであんまり触れないようにした。


 ゴゴゴ、と言う振動音を鳴らしながら、地上に戻ってきた俺たち。完全に動かなくなる前に、メーテさんがとある方向に走り出したので、俺もきちんとメーテさんを追う。


「メーテさん!これってどこに向かってるんですか」


「訓練場だよ……っ!はぁ……端末からの反の―――ゲボっ、によると――うえっぷ」


「………あの、もし良ければ運びましょうか?」


「よろしく!」


 研究職のせいなのか、メーテさんの体力はびっくりするほど無かったので、俺がおんぶをして移動することになった。道案内はお任せである。


「ふぅ……よし、やっと落ち着いた……あ、そこ右ね」


「はい」


 メーテさんの案内で、敷地内を走っていくのだが……あの、疲れているからってあんまりのしかからないで貰えると助かります……っ!


「ユキナ、聞くだけでいい。意識はその女に向けたままボクの話を聞いてくれ」


 相変わらず、難しいことを仰る神である。あ、次左ですね。


「さっき、ボクが感じた反応だが、学園の至る所に放置されている。後で全部、残さず拾わないと――――手遅れになるよ」


 セルシウスが、ここ最近聞いたことの無い真面目な声で、そう言った。


 あ、行き過ぎました?

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