姫騎士

第1話

「んっ……んん……」


 パチリ、と目が覚める。時刻は分からないが、体感的に四時間程度しか寝てはいないだろう。


 四時間前、俺が捕まえた『スネイクドラゴン』の襲撃者を捕まえ、アーディさんに引き渡してから「ユキナくんは寝てていいわよ。活躍したからね」と言われたので、拠点に戻り、交代する先輩とバトンタッチしてからそのままベッドで寝た。


 若干の眠気は否めないが、騎士団になったからには仕方ないことである。それに、毎朝の日課もしないといけないしな。


 部屋に備え付けられてある手洗い場で、軽く顔を洗い、パンっ!とそこそこな力で頬を叩いて眠気をぶっ飛ばすと、壁に立てかけた剣を持って部屋の外に出る。


 今から何をするのかというと……まぁ端的に言うとランニングである。ヴィクトリア様に憧れた次の日から、毎朝起きてやることはランニングと決めているのだ。


「あら、新人クン、もう起きたの?」


「おはようございます、団長」


 玄関から出るためにエントランスに向かうと、机にはアイシャさんがおり、報告書らしきものを見ていたのだが、俺の存在に気づくと顔を上げた。


「どうしたの?剣なんか持って」


「いえ、これから朝の日課であるランニングをしようかと思うついでに、校舎まわりをもう一度見ておきたいなと思いまして」


「なるほどね……スネイクドラゴンの件もあるから、気をつけて行くのよ」


「ありがとうございます。行ってきます」


 いってらっしゃ~いというアイシャさんの声を背後にして玄関からでる。今日もいい天気である。


 二、三回ほど屈伸をしてからゆっくりと歩き出し走り始める。長年走っていると分かることなのだが、長期的に走るためには遅すぎず、早過ぎずの一定のペースで走るとあまり疲れにくくなる。最初は村一周するだけでもヘロヘロだったのだが最終的には何十周しても疲れない体になっていたな。これもセルシウスの魔改造のおかげである。


 未だ、厳戒態勢で見回り中の先輩達と出会ったら、おはようございますとお辞儀しながら背中を抜かしていく。周りの光景を確認し、少しゆっくりめに校舎を走っていると、アワレティアに通っている学園の生徒が泊まる寮にまでやってきた。


 あんまり、男の俺がここを通るのは良くないかな?と思い少しだけ遠回りでもしようかと思った瞬間、中から綺麗な水色な髪の持ち主が現れた。


 というか、アーディさんだった。あ、目が合った。


 何やら、おいでおいでとしてきたので、一瞬だけ躊躇ったが副団長の命令みたいなものなので。という言い訳をして寮に近づいた。


「おはようユキナくん」


「おはようございます、アーディさん」


 徹夜のはずなのに、相変わらずアーディさんの笑顔が眩しい。ぺこりと頭を下げると、アーディさんの後ろに人がいた。


 歳は俺と同じくらいだろうか。透き通るような銀色の髪に青色の瞳。アーディさんやアイシャさんにも負けず劣らずな美少女である。


 確か、ここには13歳~18歳までのご令嬢の皆さんが通っており、13~15までが中等部、16~18までが高等部と別れているらしい。


 アーディさんの後ろから、俺を見定めてるかのようにじっと見つめてくる少女からスっと目を離してアーディさんと目を合わせた。


「それで、どうしましたか?」


「ユキナくんランニング中だったでしょ?もし良かったら、この子のランニングに付き合って欲しくて」


 と、アーディさんが横にズレると、今度こそこの少女と目線がバッチリとあった。


「……えっと、ユキナっていいます。よろしく?」


「はい。ルミネ・ファンバードといいます。よろしくお願いします、ユキナ様」


 と、俺がぺこりとお辞儀をしながら自己紹介すると、俺が思っていた以上に丁寧なお辞儀と自己紹介をされたので、少し見蕩れた。


 スカートの端を指でつまみ上げる行為―――確か、カーテシと言うんだっけ。彼女は今動きやすいようにズボンを履いているのだが、完璧過ぎてスカートを幻視した。


「いいかな?ルミネちゃん」


「……分かりましたアーディさん。私も少し、気になることが出来ましたの」


「ほんと?それじゃあユキナくん、ルミネちゃんをお願いね」


「よく分かりませんけど、分かりました」


 一応、副団長からの指名なので、左手を胸に当てる敬礼をやっておく。それをすると、アーディさんがにっこりと笑って似合ってるわと言ってくれた。嬉しい。


「それじゃあ、私はまだこの辺の警備の仕事だからこの辺で。一時間で戻ってくるのよ」


「分かりました、アーディさん」


「一時間ですね。了解しました」


 俺の頭の中には、一時間後にルミネさんを寮に返すというのがしっかりとインプットしたあとに、ルミネさんを見る。


「それじゃ、よろしくね、ルミネさん」


「はい、よろしくお願いします、ユキナ様」


「様はいいよ。そんな付けられるほど大層な人間じゃないしね」


「いえ、癖みたいなものですから気にしないでください」


 そして、俺とルミネさんはゆっくりと走り出した。

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