第7話

 翌日、騎士団の方から学園への避難勧告が出された。ヴィクトリア様からの証言もあったので、学園側は頷き、生徒たちの避難をさせる。なんでも、この学園の地下にはドラゴンが暴れても傷一つつかない特別性の素材で出来たシェルターがあるらしく、そこでこのアバドンの件が終わるまで隠れるらしい。


 そのシェルターには、全校生徒3年分くらいなら普通に快適に生活できるくらいの物資が、なんでこの施設がここにあるのか凄く気になったが、スルーしておくことにした。


 そして、襲撃者の方から新たな情報が盛れたとのことなので、一旦全員と共有。


 どうやら、スネイクドラゴンの元に、ルミネさんの殺害依頼と同時に、この王都も潰せという依頼もあったらしく、アバドンを召喚したら全員が急いで退却して暴れさせるという事だったらしい。


 それを聞いて一時はやばめな雰囲気が漂ったが、希望も見えた。なんでも、復活したアバドンには制限が掛かっているらしく、二時間でまた消滅するらしい。セルシウス曰く、神の封印を解くには何かしらの代償が必要であり、アバドンの場合それがこの世界の顕現時間だったらしい。


 他にも何か代償があるみたいだが、それはアバドンが出現しないと分からないらしい。出来ればアバドン弱体化がいいなぁ……。


「なるほど、二時間……それならユキナでもギリッギリ耐えることができるね」


「………え?」


「……なるほど」


 隣にいたヴィクトリア様も何事か頷く。彼女と自身の神と会話をしているのだろうか。


 ヴィクトリア様に宿っている神、シュトラムも女神らしい。全体的にすっごい緑色らしい。


「アイシャ。ちょっといいか」


「どうしました?」


 そして、ヴィクトリア様がどうやって二時間犠牲もなく守らせるかという布陣を考えていたアイシャさんに声をかける。俺の手を握って。


 ……ふむ。何となくすっごい嫌な予感がするし、何となくこの後ヴィクトリア様が言うセリフも分かるなぁ……。ま、やると言われたら全力で遂行しますが。だってヴィクトリア様が言うんだもの。


「アバドン討伐の最前線、私とユキナに任せてくれないか?」


 はい、思った通りでした。とりあえず、俺も真面目な顔してこくんと頷いておく。俺の意思?ヴィクトリア様がやれると言ったんならやるんだよ。


「……正気ですか?」


「あぁ。私とユキナの実力があれば、絶対に死者は出ないと断言出来る」


「……根拠は?」


「そうだな……神のお告げ、とでも言っておこうか」


 ヴィクトリア様がフッと笑った。アイシャさんは俺に視線を投げる。


「………大丈夫なの、新人クン」


「……まぁ、そうですね。大丈夫だと思いますよ。何せ、俺にも神のお告げが降りてきてるんで」


 セルシウスが何を基準にしてギリッギリ耐えれると判断したのかは知らんが、俺一人だけでもギリギリなんだ。ヴィクトリア様が居ればそれが余裕になっても不思議ではないだろう。


「そう……ごめんなさい。一番危険な役目を与えることになってしまって」


「いいんですよ。寧ろ団長は、いつも通り後ろで見てるだけでいいですから」


 本当に。もうここまで来たら絶対に俺とヴィクトリア様だけで抑えてやるという気持ちが湧いてきた。


 よし、やるぞセルシウス。絶対に誰一人欠けることなく作戦を終わらせるために、力を貸してくれ。


 ――――当然さ。ボクの力、存分に奮って見せつけてやるんだ。ボクとキミの相性を。


 右眼が、熱くなった。







 そして、作戦決行の時間帯がやってきた。もうあと二分程度でここにたくさんのスネイクドラゴンの構成員がやってくる。奴らの目的はアバドンを復活させることで、ここに来る奴らは全員陽動。


 復活予定地から見て前線に俺とヴィクトリア様のツートップ。その1個後ろにアーディさんが司令塔を勤めているアバドンをちまちま削る遊撃隊。その後ろに、街や学園に被害が出ないように動く隊、そして一番後ろに全体の指揮をとるアイシャさんが構えている。


「新人クン」


「団長?」


 そして、ヴィクトリア様と喋りながらアップをしていると、アイシャさんがやってきた。


「どうしました?もうすぐ始まりますけど」


「ちょっとね……その、君におまじないをしようと思って」


「おまじない、ですか?」


「そう。新人クンが怪我をしないように、おまじない。目、瞑って」


 言われるままに目を瞑る。おまじない……どういうものかは知らんが、団長命令だから俺にはそもそも断るということ自体思い浮かばない。


 目を瞑ると、アイシャさんが近づくのが気配でわかる、そして何やら二回くらい深呼吸をした後に、「よしっ」と呟いて、両手を俺の胸に当てて――――何か柔らかい感触が俺の口に当たった。


「……ほう?」


 ――――小娘ぇぇ!!


「………え?」


「……おまじない。私のハジメテ……だから。きっと、効果あるよ」


 そして、赤くなった頬のまま走り去っていくアイシャさん。


「……え?」


「ふむ……ユキナ。君もなかなか隅に置けないじゃないか」


「あの小娘……これが終わったら絶対に凍らす。まだボクでさえやってないのに……っ!!」


 ヴィクトリア様が少しだけ興味深そうな感じでニヤニヤと隣にやってきて、セルシウスが先程の行為にブチ切れて体から出てきた。


 ……さすがに、田舎者の俺でも分かるぞ。さっきのあの感触は紛れもなく――――


「……キス?」


「忘れるんだユキナ!今すぐさっきの感触を忘れるんだ!!」



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明日、新作だしますので、宜しければ……

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