第5話
そのセリフに、エントランスがザワついた。
「……まさか、団長が適当に言った言葉が本当になるとは」
「え、なにそれユキナくん。詳しく」
「いや、前にアバドンの体の一部を使って何を目論んでるんでしょうねって言う話になって、そしたら団長が適当にアバドン復活とか?みたいな話になったんですよ」
アイシャさんも多分、内心はすっごいびっくりしてると思う。ちらりと見ると、すっごい胸を撫で下ろしている。落ち着いているのだろうか。
……いや、本当に適当に言ってたことが当たるなんてなぁ。
さてさて、スネイクドラゴンが復活を目論んでいるアバドンについてもう一度詳しく纏めとくか。
アバドン。千年前に人間の文明を壊滅させ、とある神に倒され封印された化け物。その姿はカエルだとも亀だともなんか色々と言われているが、実態はよく分からない。
なんでもかんでも食べてしまう性質があるらしく、別名
「これは、私の耳でもはっきりと聞いた。これは嘘ではない。アバドンは必ず復活するとスネイクドラゴンの手下は言っていた」
「……まずいことになったね、ほんと」
――――セルシウス?
俺の体からヌッとセルシウスが出てきて、俺の耳元で囁く。
「なるほど、アバドンの復活ね……だったら色々と納得ができるし、あの呪術についても予想が着く」
セルシウス曰く、今まで学園内にポツポツと配置されていたアバドンの体の一部だが、アバドンの魔力と、スネイクドラゴンの構成員と思われる魔力、そして呪術らしきものがあると言っていた。
「あれはきっと、アバドンを復活させるための呪術だったんだろうね……全く、スネイクドラゴンとやらのバックにはどれだけ恐ろしい存在がいるんだ……?」
――――……そこまでなのか?
「あぁ。元々、アバドンの封印はハデス―――あぁ、封印に関することには右に出るものはいないと言われていた神がやっとの思いで封印したんだ。その封印を解くための術式で、粉々に砕け散ったアバドンを復活させるだって?そんな存在、ボクは聞いたことも見たこともないね」
セルシウスが今まで見た事もない顔をした。これは……恐れか?
「ねぇ、ユキナ……逃げよう?あのアバドンなら逃げたって文句は誰も言わない。ボクが入れば、あの災厄から逃げるなんて簡単なんだ」
「これを聞いて、私とアイシャは一つの結論を出した。これを聞いて恐れを抱いたものは別に逃げ出しても構わないと。私とアイシャはここに残ってアバドンを撃退するために動くが、あの怪物相手では私でも勝てるかは分からない」
「ほら、今まで憧れだった聖騎士が言っているんだ。逃げてもいいって」
「だから、逃げるのは恥ではない。逆に英断な一手だ。それゆえ、今から背を向けて出ていく者を、私達は罰することはしないし、逆によく判断したと諸手を挙げて褒めよう」
「ほら、だからユキナ。ボクと一緒に――――」
「それはダメだセルシウス。その判断だけは絶対に」
その言葉に、エントランスにいた全員が反応し、俺の顔を見た。
「ユキナくん……?」
「ヴィクトリア様。俺はあの日―――あなたに救われた日からずっと、あなたの隣で一緒に戦うことだけを目標に今まで生きてきました」
ゆっくりと歩き、ヴィクトリア様の前まで移動する。
逃げてもいい?それこそありえない。なぜ、憧れの女性が自分から命を賭けに行っているのに、俺がその隣にいない?
そんな光景―――死ぬよりも100倍嫌だね!
「あなたの隣で戦えるのなら、俺はこの命、喜んで差し出しましょう」
「そうよ団長。今まで一緒にやってきたのに、水臭いじゃない?」
そして、アーディさんが俺の隣にやってきて、肩に手を置いた。
「ありがとうユキナくん。あなたが先陣切ってくれたおかげで決心が着いたわ」
「いえ、俺は正直な気持ちを伝えだけですから」
ヴィクトリア様の為ならば天国でも地獄でも―――死に至る道だったとしても、喜んで隣に立とう。
それが、俺の信念だから。
「……全く、アイシャの部下は皆大馬鹿者ばかりだな」
「えぇ……本当に……」
後ろを振り向けば、先輩がた全員が決心を固めた目をしていた。
「所でユキナくん」
「はい、なんでしょう」
「セルシウスって誰?」
「…………え?」
「……キミ、さっき思いっきりボクの名前出してたからね?」
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新作書いてます!作者の好きなジャンルですので、絶対に面白い(はず)です!
『ヒロイック~戦場に花咲く一輪のイレギュラー~』
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