第40話
エレナが魔族をひきつけている間に、俺はピンク髪の少女を助け出した。
離れた場所まで移動して、改めて少女を観察する。
「美しい…な…」
思わずそんな呟きを漏らしてしまうほどには、少女の見た目は美しかった。
人間にはない幻想的な美。
神話に登場する女神のようだとすら思った。
少なくとも、人間ではないのだろう。
「なぁ、おい。目を覚ましてくれ」
「…」
目を瞑ったまま少女は目覚めない。
どこか怪我をしているのだろうか。
俺は試しに回復魔法を使ってみる。
「ヒール!……って、うわっ!?」
回復魔法を使うと、まるで呼応するように少女の体が光輝き始めた。
パッと瞼が開かれ、髪と同じ色の瞳がこちらをみる。
「ふにゃ?」
「…」
その口から可愛らしい声が漏れた。
ぼんやりとした瞳で、俺のことを見つめている。
「起きたか…なぁ、あんたは誰なんだ?」
「ふにゅ」
俺の質問に、少女はキョトンとしている。
まるで俺の言葉が理解できていないようだ。
「俺はアルト。冒険者をやっている。あんたは誰だ?さっきの魔族と仲間なのか?」
「にゅう」
「…」
少女は答えない。
答えないというか、俺の言葉を理解していない節すらある。
どうしよう。
これでは事態の解決には至らない。
先ほど魔族は、この少女の体から魔石を取り出してモンスターを生み出していたが…あれが一体どういう原理なのか、突き止めなくてはならない。
「なぁ。どうなんだ?俺は敵じゃないぞ。何か喋ってくれよ。街がピンチなんだ」
「みゅー?」
だめだ。
全然会話にならない。
この少女は一旦置いて、ひとまず街の救助を優先させるか。
俺がそう考えた矢先。
「…!」
背後からものすごいスピードで近づいてくる気配を察知した。
俺は少女を抱いたまま、身構えるが…
「アルト!」
「エレナか!!」
駆けつけてきたのがエレナだとわかって警戒をとく。
「無事でよかった…魔族は…?」
「撒いてきたわ。あんたの支援魔法のおかげよ」
「そうか…お役に立てて何よりだ」
「うん。それで、その子は…?」
エレナが俺の腕の中の少女をみる。
少女は、やってきたエレナをじーっと興味津々といった瞳で見つめている。
「何者なの、一体全体」
「わからない。言葉が喋れないみたいなんだ。俺たちの言葉を理解しているのかすら怪しい」
「そっか…でも、大量発生の元凶が彼女と魔族なのは確実よね」
「可能性はかなり高いだろうな…しかし、このままだと何も情報を得られない…どうしたものか」
俺たちが手をこまねき、その様子に何もわかっていなさそうな少女が可愛らしく小首を傾げる最中。
ドゴォオオオオオオオオン!!!
轟音と共に、グラグラと地面が揺れた。
街の方角だ。
「今のは…」
「ソフィアの魔法だろうな」
おそらくガレスとソフィアが街に到着したのだろう。
そして、魔法が放たれたということは…
「街はもうモンスターに襲撃されているんだ!急がなきゃ!」
「ああ…だが…」
俺は迷っていた。
戦いの場に、少女は連れていけない。
だから、もし街に向かうならここに置いていかなくてはならない。
そうすれば、魔族が少女を見つけてまた利用するかもしれない。
それだけはだめだ。
この少女は、絶対に魔族に渡してはならない。
この少女が何か、重要な鍵となっている存在なのは明らかだからだ。
「エレナ。悪いが先に街に向かってくれないか?」
故に。
「俺はもう少しこの少女を調べてみる」
俺はエレナのみを街に行かせることにした。
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