第10話


それから数日後。


ミノタウロスに完膚なきまでに打ちのめされた『緋色の剣士』の3人は、ギルドにクエスト失敗報告をしにきていた。


窓口で対応しているのは、アルトの顔馴染みの受付嬢のルーナだ。


「どういうことです?あなた方が負けたのはミノタウロスではないのですか?」


ルーナが不可解な表情で首を傾げる。


先ほどから、『緋色の剣士』のメンバーの失敗報告がどうも要領を得ないせいだ。


「ああっ、そうだ!確かに見た目はミノタウロスだったんだ!だが、俺たちの攻撃が全然通用しなかった!あれはおそらくミノタウロスに似た新種だ!!」


そう熱弁するカイル。


彼はあまりにプライドが高すぎるあまり、ミノタウロスに負けたという現実を受け入れきれず、自分の頭の中で事実を捻じ曲げてしまったのだった。


要するに、あれはミノタウロスじゃなかった。


もっと強い、別のモンスターだったのだと。


「新種、ですか…しかし、他の冒険者たちからはそんな報告は上がっていませんが…あなたたち、ただミノタウロスに負けただけなんじゃないですか?」


「そ、そんなはずないだろうっ!!俺たちはSランクだぞ!?ミノタウロス如きに負けるわけないっ!!」


口角に唾を溜めて、そんなことをいうカイル。


自らの地位を保とうと必死な『緋色の剣士』たちに、ルーナは辟易とした表情だ。


「まぁ、そこまでいうなら詳細を聞きますけど…戦闘の内容を覚えている限りでいいので教えてください」


「わ、わかった…」


カイルはルーナに、ミノタウロスとの戦闘の一部始終を話した。


本来ならミノタウロスを一撃で屠るはずの攻撃が、全く通用しなかった。


カイルもアンリも、ミノタウロスに酷似したそのモンスターに有効なダメージを与えることができず、また、ミシェルの回復魔法一回で治らないほどの傷を負わされた。


そう力説するカイルに、ルーナの目はますます胡散臭いものを見るそれに変わっていく。


「それって…ただ、あなた方の実力が足りていないだけじゃ…」


「そんなわけないだろうっ!?Sランクの俺たちが1匹も倒せなかったんだぞ!?じゃあ、今まではなんだったんだ!!」


カイルが怒鳴る。


ルーナはうんざりした表情になる。


「しかし、戦闘の話を聞く限り、あなた方が戦ったのはミノタウロスとしか思えないんですよねぇ…攻撃の方法は突進のみだったんでしょう?」


「そ、そうだが…」


「やっぱり実力で負けたんじゃ…」


「違うっ、断じて違うっ!!俺たちがミノタウロスに勝てないような雑魚なら、Sランクまで上がれるわけないだろう!!」


「それは、アルトさんが今まで居たからじゃないですか?」


「は…?」


ルーナの言葉にカイルがぽかんとする。


「今まではアルトさんが居たから、あなたたちのパーティーのレベルは底上げされていた…でも、そんなアルトさんが抜けて、あなた方の本来の実力が露呈した。そういうことなんじゃないですか?」


「そんなわけないだろうっ!!ふざけんのも大概にせいよ!!」


ダァンっ!とカイルが机を叩いた。


「あいつはただの雑魚だっ!!俺たちの足を引っ張るだけのなっ!!あいつが抜けたからって、俺たちのパーティーとしての実力は変わらないっ!」


「そうよ!あんたさっきからなんなのよ!一介の受付嬢の癖に生意気よ」


「うん…生意気…私たち、Sランク冒険者…口の聞き方に…気をつけたほうがいい…」


3人は、ルーナに猛反発する。


ルーナはこれ以上馬鹿に付き合っていられないとため息を吐いて…


「わかりました。ミノタウロスに似た新種の件については、一応一定の信憑性のある情報として上に報告します…ですが、あなた方がクエスト失敗した事実は変わりません。きっちりと記録させていただきます…そして…お分かりと思いますが、クエストを3度失敗すると、ランクは降格となりますから」


「ぐ…」


ルーナの言葉に、カイルは何もいうことができない。


結局。


「勝手にしろっ!」


負け惜しみのようにそう言って、ギルドを後にする以外に出来ることはなかった。



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