第3話


Sランクパーティー『緋色の剣士』を理不尽に追放された翌日。


俺は脱退手続きをするためにギルドを訪れていた。


「あ、アルトさん…本当にパーティーを抜けるんですか…?」


「ああ。あいつらとはもうやっていけない」


俺が資料に押印していると、顔見知りの受付嬢、ルーナが心配そうに聞いてきた。


「どうしてですか…?アルトさんはあんなにパーティーのために頑張ってきたじゃないですか…それを、今になって突然抜けるなんて…」


「…っ」


ルーナの言葉に、昨日脱退を告げられたときの悲しみや憎しみが蘇ってきて、俺は思わず唇を噛んでしまう。


「あ、アルトさん…?大丈夫ですか…?もしよければ相談に乗りますよ…?」


ルーナがぎゅっと俺の手を握ってきた。


伝わってきた温もりと柔らかさに、俺の激情はいくらか和らいだ。


「はぁ…」


俺は一息ついた後、俺の身を案じてくれるルーナにかくしごとはしたくないと、昨日あったことをルーナに伝えた。


すると、ルーナは肩を怒らせて憤慨した。


「なんですかそれ!?理不尽すぎますっ!!」


「ちょ、ルーナ!声がでかいって!」


あまりの声量に、一瞬ギルド内にいた冒険者たちが全員こっちを見た。


だが、ルーナは全然気にしている様子がない。


どうやら俺のために本気で怒ってくれているようだった。


「いつもいつもパーティーのために頑張ってるアルトさんが役立たず!?そんなはずありません!むしろ役立たずは彼らです!!緋色の剣士はアルトさんが支えていたも同然のパーティーです!!それなのに、アルトさんの真価に気づかずパーティーから追い出すなんて…信じられません!」


「あ、ありがとうルーナ。流石に俺に支えられていたってのは言い過ぎにしても、そう言ってくれるのは嬉しいよ」


ルーナが俺の中に溜まっていた何かを代弁してくれた気がして、俺は気持ちが軽くなるのを感じた。


「装備まで売り渡してしまうなんて…外道じゃないですか、あの三人…いつかきっと天罰が降りますよ…」 


「ははは…まぁ、装備を売り渡されたのは本当にショックだったなぁ…」


「げ、元気出してください、アルトさん!アルトさんの頑張りは私が一番知っていますから!力になれることがあったらなんでも言ってください!」


愛着のあった装備のことを思い出し、気を沈ませる俺に、ルーナが励ましの言葉をかけてくれる。


そうだよな。


いつまでもクヨクヨしていたって仕方がない。


「ありがとうルーナ。本当に気持ちが楽になった。今度何がお礼させてくれないか?」


「い、いいですよお礼なんて。受付嬢として当然のことをしたまでです」


「頼むよ。そうじゃないと俺の気が済まないんだ。何かないか?俺にできそうなお礼」


「そ、それなら…」


ルーナはもじもじと体を動かし、ちょっと躊躇いがちに…


「こ、今度一緒に食事に行ってくれればそれで…」


「そんなことでいいのか?わかった。必ず行こう」


俺がルーナの手を取ってそういうと。


「は、はい…」


ルーナは、なぜか赤くなって俯いたのだった。




「それで…今日きたのはだな…」


ルーナへのお礼の話が纏まったところで、俺は本題にはいることにした。


「は、はい…!なんでしょう!」


ルーナが我に帰ったように顔をあげる。


「非常に言いにくいのだが、装備を貸してもらえないだろうか…?」


「装備、ですか…?」


「ああ。ほら、カイルたちに装備を売られちゃったからさ…」


ギルドには装備一式を格安で貸し出すサービスがある。


非常に安い値段で、そこそこの質の装備を貸し出してくれるため、お得ではあるのだが、利用者はほとんど駆け出しに限られる。


それは冒険者を初めて半年も経てば、ほとんどの冒険者が自分専用の装備を購入するからだ。


仮にも、つい一日前まで最高位のSランクパーティーにいた冒険者が利用するサービスではない。


なので言い出すのがかなり恥ずかしかった。


「も、もちろんです!はい!すぐに持ってきますね!」


そういったルーナが、急いで奥へと引っ込んで、やがて貸し出し用の装備を持ってきてくれる。


「どうぞ、アルトさん!」


「ありがとう。これ、銀貨五枚」


「はい。確かに受け取りました」


ルーナに貸出料金を払う。


これで装備を最大十日間は借りることが出来る。


「それで次は…その、ソロで受けられるクエストはないだろうか?」


パーティーを追放された俺は現在、仲間のいないソロの冒険者である。


冒険者は基本的にパーティーを組むもので、ソロの冒険者は極めて少ない。


またソロ向けの依頼も少なく、あったとしても報酬が少ない。


…いずれはパーティーを組まなくてはならないが、それまではソロで食い繋ぐ必要があるだろう。


「ええと…待ってくださいね…」


ルーナがパラパラとクエスト用紙をめくり、ソロのクエストを探してくれる。


だが…


「申し訳ございません、アルトさん…ソロで受けられるクエストは現在出ていないみたいです…」


「まじか…」


予想していたことではあったが、まさか本当にソロで受けるクエストがないなんてな…


どうする…?


懐にそんなに余裕はない。


すぐにでもクエストを受けて金を稼がなければ、二、三日以内に干からびてしまうぞ…


「あ、アルトさん!一時的なパーティーを組むのはどうでしょう!!」


「おお、その手があったか!」


そういや失念していた。


ギルドには臨時パーティーを募ることのできるシステムがあり、他の冒険者たちと二、三日の間、即席のパーティーを組むことが出来るのだ。


そのシステムを利用すれば、パーティー向けのクエストを受けることが出来るようになるだろう。


「ちょっと待ってくださいね…現在臨時メンバーを募集しているパーティーは…あ」


ルーナさんの表情が固まった。


ま、まさか…


「メンバー募集は一件もない…?」


「い、いえ…一件だけありました…」


「そうか!ならそれに応募しよう!」


「で、でもアルトさん…これ…」


「ん?どうかしたか?」


何か問題でもあったのだろうか。


首を傾げる俺に、ルーナは言った。


「最低ランク…Dランクパーティーからの募集です…」





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