第6話


「国一の…魔法、使い…?」


理解ができない、というように首を傾げるエミリ。


「ああ、国一だ。いや、大陸一だって可能かもしれないぞ?」


「お、…お世辞は…いら…ない」


俯きながらそんなことをいうエミリ。


どうやら彼女は自分で自分の才能に気づいていないようだ。


「お世辞なんかじゃない。俺は本気でそう思ってるんだ」


「うそ…だって…エミリ…ゴブリン1匹…倒せない…」


「今はな。ただそれは威力が足りないだけだ。これから鍛えればいくらでも上を目指せる」


「じゃあ…国一を…目指せる…根拠…なに?」


エミリがじっと俺を見つめる。


「根拠は…エミリがその年で無詠唱魔法を習得してるってことだ」


「無詠唱…魔法…?」


「ああ」


俺は頷いて、彼女がどれだけ魔法の才能に満ち溢れた存在かを教える。


「さっきのファイア・ボール。エミリは詠唱なしに発動したろ?」


「それが…なに…?」


首を傾げるエミリに、俺は真実を伝える。


「いいか、エミリ。無詠唱魔法を習得している魔法使いってのは、一千人に一人ぐらいの割合なんだぜ?ましてや、誰に教えられるわけもなく自然に習得するやつなんて、一万人に一人ぐらいの割合だ」


「い、いちまん…!?」


エミリの瞳が大きく見開かれる。


「これでわかっただろ?無詠唱魔法なんて、誰にでも習得できる技術じゃないんだ」


「ほ、…本当…?」


エミリが確認するように聞いてくる。


「ああ。本当だ。事実、俺は無詠唱魔法が使えない。いままで使えるやつを見たこともない。お前が初めてだよ、エミリ」


「そう、なんだ…無詠唱は…普通じゃ…ない…」


「今まで誰にでもできると思ってただろ?」


「…うん」


コクリと頷くエミリ。


そんな彼女にユートが抱きついた。


「はははっ!よかったじゃないかエミリ!国一の魔法使いになれるって、アルトさんに言ってもらったんだぞ!ね?言った通りだったでしょ?エミリは絶対にすごい魔法使いになるって」


「ちょ…ユート…ち、近い…」


ユートに抱きつかれたエミリが頬を赤らめる。


「ちょっ!?二人ともひっつきすぎだからっ!!」


カンナが慌てて二人を引き剥がそうとする。


「なんだよカンナ!エミリが魔法の逸材だってわかったんだよ?君も喜びなよ!!」


「う…それは嬉しいけど…抱きつくのはちょっと…」


頬を赤らめてそっぽを拭きながらカンナが言う。


おお、これは…


ユート少年。


君も罪な男だ。


「で、でも…いくら…無詠唱がすごくても…やぱり…エミリは…だめ…」


そんな中、まだ自分の才能に自信が持てないのか、エミリがそんなことを言ってくる。


「どうしてそう思う?」


「エミリの…魔法…威力が…弱すぎる…」


「そんなのこれからいくらだってあげられるさ」


「今まで…たくさん練習した…でも…ダメだった…いつまで経っても…魔法の威力…あがら、ない…」


「ふむ…どうするかな…」


俺はなんとかエミリが自身を持てる方法を考える。


「そうだな…魔法は魔力もそうだが、イメージもとても大切だ。エミリ。自分が大魔法を行使しているところを頭の中にイメージするんだ」


「大…魔法…?」


「そうだ。例えば…直径が数メートルはあるファイア・ボールを自分が撃っているところを想像するんだ」


「そんなの…無理…出来っこない…」


「本当にそうかな…?もう一度ファイア・ボールを撃ってみろ」


「…?」


俺を訝しむように見ながらも、エミリは杖を前方に構える。


俺はそのタイミングで、エミリに『魔法威力増加』の支援魔法をかけた。


ボオオオオオオオ!!!


「「ええええええっ!?」」


エミリの無詠唱魔法により、ファイア・ボールが発動する。


が、今度は規模が違った。


エミリが生み出したのは、先程の手のひらサイズの火球ではなく、直径1メートルはある巨大な炎の球だった。


「うそ…なん、で…?」


エミリが首を傾げる。


「まー、種明かしをすると、俺が支援魔法をかけた」


「…」


途端にエミリの顔がしゅんとなる。


「まぁ、聞いてくれエミリ。確かに今のは俺の支援魔法のおかげだが、いくら支援魔法とて、限界がある。少しも才能のないやつに支援魔法をいくら施したところで、魔法が極端に強化されることはない。つまりだな」


「エミリは…才能…あり…?」


「そういうことだ」


俺はニヤッと笑って頷いた。


クシャッとエミリの顔が歪む。


「うれ、しい…そっか…エミリ…には…魔法の才能…ある」



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