第35話


フクロウによって届けられたギルドからの手紙で、街が数千のモンスターに襲われそうになっていることを知った俺たち『彗星の騎士団』は、帰還の道を急いでいた。


「速いっ!!」


「すごいっ!?なにこれ!?」


「これならあっという間に街に着きそうだな!!」


支援魔法により走力を強化した俺たちは、街を目指して疾走する。


この分なら街まで数時間とかからずに到着するだろう。


左右の視界で景色が超スピードで後ろに流されていく中、隣を走る3人が驚きの声をあげている。


「アルト…あんたの支援魔法、一体どうなってるのよ…」


「支援魔法の息を逸脱しているわ…なにこの全能感…ソフィア、あんたがあんなふうになったのも頷けるわ」


「でしょー?」


俺の支援魔法に呆れるソフィアに、エレナが同調する。


またガレスも、


「すげーなこれ!!今ならなんでも出来そうな気分だ!!さっさとモンスターどもを蹴散らそうぜ!!」


と、自らの身体能力の向上に気分を昂らせている。


「ねぇ、アルト。こんな魔法があるなら、そもそも二日も森を歩く必要なんてなかったんじゃない?」


そんな中、ソフィアがそんなことを聞いてきた。


確かに、生きでもこの魔法を使えば、はるかに時間を短縮できただろうな。


だが…


「さすがにここまでの支援魔法は莫大な魔力を消費するからな…モンスターと戦うまでに魔力が枯渇したらやばいだろ?」


「それもそうか」


俺としてはブルー・アリゲーターの大量発生がどの程度の規模かわからなかったために、行きは出来るだけ魔力を温存したかった。


だが、今は一刻を争う事態だ。


魔力の消費など気にして街が壊滅したら元も子もない。


「うおおおおお!!待ってろ街の皆!!今俺らが行くぜええええ!!!」


先頭を走るガレスがぐんと速度をあげる。


「私たちも!」


「ええ!」


ソフィアとエレナがそれに続き、俺も3人の背中を追いかけた。


俺たちは街を目指して、森の中を疾走する。





「ん…なんだこの気配…?」


「え、どうかしたのアルト」


あれから2時間後。


もう少しで街にたどり着くと言うところまで来て、俺は不意に足を止めた。


近くに妙な雰囲気を感じ取ったからだった。


「奇妙な気配を感じる…近いぞ…」


俺は探知魔法を発動させ、周囲を索敵する。


はっきりとした気配は察知できなかった。


だが、近くに『莫大な魔力を秘めた何か』があるのは確実だ。


「近くに何かいる…とんでもない魔力だ…」


「魔力?モンスターか?今はそんなものに構っている場合じゃ…」


「モンスターじゃない…感じたこともない気配だ」


今は急がなくてはならない時なのはわかっているが、俺にはなぜかその気配が気になった。


もしかしたら、その魔力の気配がこの騒ぎの原因を解き明かす鍵になるのではないかという直感があったのだ。


「なぁ、3人とも、頼みがある。先に街に向かってくれないか?」


「え?」


「俺はこの気配の正体を探る…気のせいだといいんだが…何かが妙だ。もしかしたらこの騒ぎの元凶に何か関係があるのかもしれない…」


「だが…」


「頼む」


少しの間、考え込むガレス。


だが、やがて…


「わかった。もしなんでもなかったらすぐに街へ来いよ」


「ああ、もちろんだ」


ガレスが了承し、俺たちは一旦別れることになった。


しかし、なかなか3人が出発しない。


「ほら、3人とも、早く言ってくれ。街は任せた」


「いや、誰か一人残るべきだ…もしお前の直感が正しくて、その気配が騒ぎの元凶なら…戦闘になるかもしれないだろ?お前一人を残していくのは危険すぎる」


「そうね。アルトは近接戦も出来るけど…でも一人じゃ不安だわ…」


「そう言うことなら私が残る」


エレナが名乗り出た。


「エレナ…いいの?」


「ええ。大量のモンスターを始末するにはソフィアの魔法とガレスの戦闘力が不可欠だと思うから…」


「わかった。じゃあ、エレナ。アルトを頼んだぞ」


「うん。任せなさい」


「よし、じゃあ、俺たちはいくぞ」


「ええ」


ガレスとソフィアが走り出した。


あとに残されたエレナに俺は尋ねる。


「よかったのか?」


「ええ。あなたの支援魔法を受けたあの二人がいれば街は大丈夫でしょう。それともなに?私の助力なんて要らなかった?」


エレナがちょっと挑戦的な目で聞いてくる。


俺は首を振った。


「まさか。心強いよ。じゃあ、行こうぜ」


「ええ」


俺とエレナは頷きあい、街とは別方向へ向かって進んでいった。



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