第63話


手っ取り早く自分の実力をギルドに認めさせるために、カイルは単騎でSランククエスト、石竜の討伐に挑むことにした。


いくら傲慢なカイルでも、単騎でもSランクモンスター討伐はそう簡単にいかないと考え、クエストに挑む前にポーション類を買い込んだ。


その後、いよいよ石竜討伐のために、街付近にある石山へと登った。


「どこにいる石竜…かかってこい。この俺が相手だ」


石山に登ったカイルは、数時間の間、石竜を探して辺りを彷徨いたのだが、なかなか遭遇することはない。


おかしい。


石竜ほどのモンスターであれば、その存在感の大きさからすぐに発見できるかと思っていたのだが。


首を傾げるカイルだったが、突如、周囲に強大な気配を感じとる。


「来た!石竜だ!!」


抜刀し、辺りを見回すカイル。


だが、いつまで経っても石竜は現れない。


「む?気配は感じるが…」


訳がわからず混乱する中、突如として、カイルの立っている地面が動いた。


「うおおおおおわああああああああ!?!?」


カイルはバランスを崩し、転倒する。


地面はカイルを乗せたまま、どんどん盛り上がっていく。


「そうかっ!!地面に擬態していたのか!!!」


『グオオオオオオオ!!!!』


擬態して岩山の一部となっていた石竜が、姿を表し、天高く咆哮する。


なんとか地面に着地したカイルは、石竜に向かって剣を構えた。


「来い!石竜!!俺はここにいるぞ!!」


『グオオオオオオオ!!!』


カイルの姿を認め、威嚇の鳴き声をあげる石竜。


そんな中、岩のような硬い鱗へと、カイルは渾身の一撃を繰り出した。


「うおおおおおおおお!!!」


ガキッ!!


「いっつ!?………っ」


鈍い音と主に弾かれる剣。


あまりの硬さにカイルはバッと後方に飛びのいた。


じぃいいんと手の中に広がる痛みに歯を食いしばる。


「流石に硬いか…しかし、Sランクの俺の攻撃を受けたんだ。ダメージは入っているはず…このまま連続して攻撃してダメージを蓄積させて行ってやる!!!」


カイルは再度石竜へと向かっていく。


「うおおおおおお!!!」


ガキッ!


「…っ…う、うおおおおおお!!!」


ガキッ!


「ぐあああっ……くそっ、うおおおおお!!!」


ガキッ!


幾度となく石竜へ向かっていくが、その攻撃は悉く弾かれた。


石竜に目立ったダメージは認められない。


しかし、カイルは自分の攻撃が石竜に通じていると思い込み、何度も攻撃を続ける。


やがて、体力が底をつき、ついには足を止めた。


「はぁ、はぁ、はぁ…これだけ攻撃すれば相当なダメージが」


『グオオオオオオオ!!!!』


カイルの言葉を、巨大な咆哮が打ち消した。


「そ、そんな…」


カイルは絶望する。


石竜はなんのダメージも受けた様子なく、最初と変わらず躍動していた。


「くっ…」


ここまでか。


そう思い、カイルは目を閉じる。


「…?」


しかし、いつまで立っても石竜からの攻撃がくることはない。


恐る恐る目を開けると、そこにはカイルを睥睨し、黄色い眼球を細めている石竜がいた。


「あ…」


その瞬間、石竜の意図がカイルに伝わった。


『なんだ、この程度か?』


カイルには石竜がそう言っているように見えた。


知能のあるモンスターは、格下と遭遇した時に、すぐに殺さず、弄び、いたぶって殺すと聞いたことがある。


カイルは、自分が石竜から完全に格下と認識され、遊び殺されようとしている事をはっきりと自覚した。


「こ、このおおおおおおおお!!!」


その事実がカイルに火をつけた。


最後の力を振り絞り、石竜へと向かっていく。


「モンスターのトカゲ如きがああああああ!!!!俺をそんな目で見るなぁああああああああ!!!」


激昂し、石竜の足に向かって突きを繰り出した。


ギィイン!!


バキッ!!


「あ…」


カイルが短く声を上げた。


手の中の剣が、その半ばからぽきりと折れて地面に落ちたからだ。


『グオォオオオオ…』


それまで動きを止めていた石竜がようやく動き出した。


「あ…あぁ…」


武器を失った。


負けた。


完敗だ。


俺は死ぬ。


カイルはそう思った。


『…』


石竜は遥か頭上から、カイルを見下ろす。


なんだお前は、その程度か。


そう言わんばかりにその巨大な眼球を細め、ゆっくりとカイルを踏み潰すための前足を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る