第39話
アルトとエレナがモンスター大量発生の原因が魔族であることを突き止めた一方その頃。
街では状況が変わりつつあった。
「くそ…数が多すぎる!!」
「Aランクたちの到着はまだなのか!?」
トールの考え出した作戦により、序盤の戦いを有利に進めていた冒険者たちだったが、時間が経つにつれて徐々に押され始めていった。
即席で掘った堀が、モンスターの死骸によって埋められていったのだ。
その結果、モンスターたちが簡単に堀を超えて侵攻してくるようになってしまっていた。
「うおおおおっ!」
「街に入れさせるなっ!」
「なんとしてでも食い止めるんだっ!!」
本格的なモンスターとの戦闘が始まる。
冒険者たちは必死の抵抗を見せるが、数が数であるため、一人、また一人とやられていく。
「ぐあああああっ!?」
「ぎゃあああああっ!!」
あちこちで上がる冒険者たちの悲鳴。
そんな中、冒険者の間を縫って進んだゴブリンが、後方で支援に徹していた受付嬢のルーナを襲おうとしていた。
「きゃああっ!?」
『グゲゲ…』
ルーナが尻餅をついてしまう。
ゴブリンは最弱の魔物だが、武器を持っていない非戦闘員にとっては十分の脅威だ。
周りを見るが、こちらに手を回してくれそうな余裕のある冒険者はいない。
「そんな…」
『グギーッ!』
ルーナは絶望するが、次の瞬間。
「させないっ!」
背後で少女の声がした。
同時に、炎の球がゴブリンの顔面を襲う。
『グゲッ!?』
まともに食らったゴブリンがよろめく。
「だ、誰…?」
ルーナは背後を振り返る。
「え、うそ…」
そして瞠目した。
なぜならそこに立っていたのは、まだ成人してすらいない未熟な少女だったからだ。
なぜこんな幼い少女が…無詠唱魔法を使っているのだろう…。
こんな時だというのに、ルーナは幼いながら無詠唱魔法を使う逸材に出会ったことに驚き、しばし動きを止めてしまう。
そんな中、今度は少年が飛び出てきて、ルーナを背に庇った。
「受付嬢さんは僕が守るんだ!」
少年は剣を構え、ゴブリンと対峙する。
「思い出せ…アルトさんの教えを…ゴブリンの弱点は、確か…あれ、なんだっけ?」
「あ、アルト…?」
なぜか少年の口から自分の思い人の名前が出てきて、ルーナは混乱する。
一方で、魔法のダメージから回復したゴブリンが、何かを思い出そうとするように顔を顰めている少年に攻撃しようとする。
「ちょ、馬鹿!今戦いの最中でしょ!何考えてるの!!」
次の瞬間、また別の少女が飛び出してきて、細剣でゴブリンの腕を貫いた。
『ギャアアア!?』
ゴブリンが悲鳴をあげて飛び退く。
細剣使いと見られるその少女は、剣を持った少年の後頭部をぱしんと叩いた。
「痛いっ!?」
「何ぼやっとしてんのよ!!やられるところだったでしょ!!」
「だって、アルトさんからの教えが思い出せなくて…」
「ゴブリンの弱点は、知能が低いこと。フェイントを混ぜながら攻撃すれば、簡単に仕留められる!これぐらい一発で覚えなさい
よ!」
「そ、そうだった!フェイントだ!」
そう言った少年は、「うおおおっ!」とゴブリンに向かって突進していく。
剣を上段に構え、あまりにも見えすいた大振りの攻撃。
と思いきや、すぐさま体制を変えて、横薙ぎの一閃。
『グギャッ!?』
知能の低いゴブリンは、少年のフェイントに見事に引っ掛かり、剣による一撃をまともに喰らう。
結果、断末魔の悲鳴と共に絶命した。
「すごい…」
未熟ながら、工夫のある戦いにルーナは思わずそう漏らした。
「大丈夫ですか?受付嬢さん」
「え、えぇ…おかげさまで。助けてくれたありがとう」
ルーナは少年が差し出してくれた手を取ろうとする。
「あっ」
すると、少年がさっと頬を赤らめて、手を引っ込める。
「ん…?」
ルーナは首を傾げ、少年がチラチラと見ている自分の胸元を見る。
「ああっ!?」
転んだ拍子にギルドの制服がわずかにはだけて、下着が見えてしまっていた。
慌てて、着崩れを直して改めて少年に向かい合う。
「う、ううぅん、ごほんごほん。助けてくれて、ありがとうね?」
「は、はいぃ…」
「何赤くなってるのよ!!」
スパンと、細剣使いの少女の平手が少年の頬を襲った。
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