第61話


「あ…?」


朝。


宿の一室でカイルは目覚めた。


見覚えのないところだ。


部屋を出て、宿主と会う。


「ああ。お客さん、やっとお目覚めになった。昨日は丸一日寝ていましたね」


「お前は誰だ…?」


「私、エギルと申します。イリス様より、あなたを預かってほしいとお願いされました。代金はすでにいただいておりますので、そのまま出ても構いませんよ?」


「は、はぁ…?」


カイルは首を傾げる。


記憶が朧げだからだ。


「俺は確か…ギルドへ行って…訓練場で誰かと戦って…その後どうなった?」


カイルは自分の要求を押し通すために、訓練場でギルド長であるイリスと戦い、あっさりと負けて気絶させられた。


気絶したカイルを、イリスは丁寧にも宿へと運び、代金を払って預けたのだった。


だが、記憶が飛んでいるカイルは、そのことをすっかり忘れていた。


「まぁ、いい。とりあえずギルドへ行くか」


代金は支払われていると言うことだったので、カイルはそのまま宿を出てしまって再びギルドへと向かうのだった。


「さて、どれにしようか…」


冒険者ギルドへと訪れたカイルは、クエスト掲示板をざっと眺める。


本当であれば、クエスト用紙を見る前に、まず冒険者としての登録が必要なのだが、彼からしてみれば、また新規登録でDランクからスタートすることなど論外だった。


最低でもAランクからのスタートは、カイルの中では必須条件だった。


だが、今の状態でそれを要求しても、前のように取り合ってもらえないかもしれない。


そういうわけで、カイルは手っ取り早く功績を作ってもらうことにした。


誰もが認める英雄的活躍を成せば、ギルドは自分を高ランク冒険者だと認めざるを得ない。


カイルはそう考えたのだった。


「石竜の討伐…ふむ、これでいいか」


カイルがクエスト掲示板から剥がしたのは、Sランククエストである石竜の討伐というものだった。


報酬は金貨1000枚。


これをたった一人でクリアすれば、それは誰もが認める偉業となり得るだろう。


「ふふ…今に見ていろ。吠え面をかかせてやる」


カイルは、自分を無碍に扱った受付嬢を恨みがましく見つめながら、クエスト用紙を手に、ギルドを出たのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る