第30話
あくまで自分の利益のために街を救うことにしたカイルは、ギルド職員とともに街へ帰還、すぐにギルドへと向かった。
「ったく…Aランクのパーティーが出払ったこのタイミングでモンスターの襲撃かよ…」
「運がないな…だが、怖気付くわけにはいかねぇ…俺たちでこの街を守るんだ」
ギルド内には街の至る所から集められた冒険者たちが集って、モンスター討伐のための作戦を練っていた。
ギルド職員の言った通り、ギルド内にいるのは大抵がBランク以下の冒険者であり、実力者と呼ばれるもののほとんどが出払っていた。
そんな様子を見たカイルが、周囲に聞こえるぐらいの声量で言った。
「なんだ、雑魚しかいないじゃないか」
途端にギルド内の空気が変わった。
「あぁ?」
「なんだと?」
「なんだその乱暴な物言いは」
カイルの言葉に、冒険者が噛み付く。
以前であれば、多少高圧的な態度を取ったくらいでSランクのカイルに歯向かう冒険者などいなかっただろうが、現在は違う。
2度のクエストの失敗で、Sランクパーティー『緋色の剣士』の実力が疑問視されるようになっていたのだ。
「うるさい。雑魚が俺に口答えをするな。安心しろ。この街は俺が守ってやる。お前らなど必要ない。ありがたく思え」
冒険者たちを見下しながら鼻を鳴らすカイル。
ブー、ブーと冒険者たちがブーイングをする。
そんな中、一人の冒険者が前に進み出てきた。
「言わせておけば、随分と俺たちを愚弄してくれるじゃねーか。なぁ、Sランク様?」
「あ?」
大剣を背中に背負ったその男は『青銅の鎧』というBランクパーティーのリーダーを務めるルインという冒険者だった。
ルインは高圧的に接されるのが我慢ならない人間だった。
だから、格上とされているSランクのカイルの物言いに、真正面から反抗していった。
「何偉そうにしてんだSランク。聞いたぜ、お前、クエスト二回失敗してもう後に引けないんだろ?そんな奴がどの面さげて俺たちを雑魚呼ばわりしてんだ?」
「なんだと?」
カイルのこめかみがひくつく。
だが、ルインも一歩も引かない。
「こーゆーときは全員で協力して街を守るのが筋ってもんだろ?何士気の下がるようなこと言ってんだ?」
「じょ、上等だ…!」
世間的には自分の格下ということになっている冒険者に真正面から正論をぶつけられ、カイルがキレた。
「モンスターどもをぶっ殺す前に…世間知らずのバカに身の程をわきませさせる必要があるなぁ!?」
「上等だこら!!やってみろ!!」
「「「「うおおおおお!!!!」」」」
戦闘好きの冒険者たちが雄叫びをあげる。
たちまち二人の間をぐるりと冒険者たちが取り囲み、あっという間にリングが出来上がった。
「ちょ、皆さん!?今はそんなことをしている場合では!」
慌てて駆けつけてきたギルド職員の声も、一度その気になった冒険者には届かない。
隠して、冒険者ギルドのど真ん中で、Sランク冒険者とBランク冒険者のタイマン勝負が始まろうとしていた。
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