第47話


オオオオオオオオオォォォ


遠くから防衛戦に参加している冒険者たちの雄叫びが聞こえてくる。


『緋色の剣士』のパーティーホーム。


リビングのソファに腰を下ろしたカイルは、目の前の火のついていない暖炉を空な瞳で見つめていた。


ギルドでBランク冒険者にタイマン勝負で大敗し、逃げるようにしてここへ帰ってきてからもうずっとこの状態である。


窓の外から聞こえてくる戦闘の音も、彼の耳には届いていなかった。


「ねぇ、カイル!どうするの!?戦闘に参加しないとまずいんじゃないの?」


ミシェルがカイルに声をかける。


「私たちだけ戦闘に参加しないのはまずいわ!きっと後々面倒なことになる!もしかしたら降格されるかもしれない!!ねぇ、カイルってば!!」


「…」


何度も何度もミシェルはカイルに呼びかけるが、カイルは答えなかった。


何か大事なものが抜け出てしまったかのように、カイルは座ったまま沈黙する。


そんなカイルを見て、ミシェルはついに、完全にカイルを見限った。


「あー……そっか、もうこれはダメそうね(ボソッ)…うん…それなら…あー、カイル?ところで私、ちょっと用事を思い出したから、外に出てくるわね?もしかしたら二、三日は帰らないかもしれないわ。うん、とても大事な用事なのよ。それで…アンリが帰ってきたら、二人で今から防衛戦に参加すればいいと思うわ。そしたら降格は免除されるかもしれないわよ」


「…」


「じゃ、そういうことだから」


ミシェルはそう言った後、自室から持ち運びのできる金目のものだけを持って、すぐに『緋色の剣士』のホームを後にした。


彼女はもう2度と『緋色の剣士』のもとへ帰ってくるつもりはなかった。


別の街で、新たに冒険者として人生をスタートさせるつもりでいた。


またそのことは、沈黙していたカイルにも分かっていた。


だが、彼にはすでに、去っていく仲間を止めようという気力すら失われていた。


カイルは完全に自信を喪失していた。


冒険者として、ほとんど再起不能のところまで追い込まれていた。


少なくとも、これだけ悪評が広まってしまった以上、この街でSランクとして冒険者を続けるのは無理だろうと思っていた。


「…」


静かなパーティーホームの中、カイルは沈黙する。


どうしてこうなったのか、ここまで落ちぶれてしまったのか。


それを彼が反省することはない。


なぜなら流石のカイルにも薄々、自分たちのパーティーがおかしくなったのはアルトが抜けてからだと気づいていたからだ。


しかし、そのことを完全に認めてしまうと、もはやカイルは正気を保てなくなるだろう。


だから、無意識のところで、こうなった原因を探ることを避けていたのだ。


「…」


カイルは沈黙する。


ミシェルはすでにパーティーを去った。


逃げたアンリはいつ戻ってくるかもわからない。


こうしてアルトを追放したSランクパーティー『緋色の剣士』はアルトの知らないところで崩壊したのだった。



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