第54話


その日。


ギルドの応接室に10名弱の冒険者が集められていた。


ギルドからの要請でこの場に来た彼らは、全員、この街の冒険者ならば必ず顔を知っているようなメンツばかりだった。


それもそのはず、今日この場に集められたのは、ギルドに在籍するAランク以上のパーティーのリーダーたちだからだ。


召集の理由は、今後、前回のように大量のモンスターが一街を襲った際の対応についてだった。


「では、今後は最低でもこの街に半数以上のAランクパーティーを常駐させることになる。これは決定事項だ。違反したパーティーには、罰則を課すことも厭わないので注意してくれ」


2時間にも及んだ話し合いの末、出た結論をギルド長のガセットが確認する。


ガセットはきっちりとした服装に身を包んだ小柄な男で、ギルド長であると同時に、この街を統括する伯爵家の当主でもあった。


「構わないね?」


ガセットが冒険者たちの意思を問う。


「ああ」


「了解した」


「異論はない」


冒険者たちは口々に賛成の言葉を口にする。


そうして、話し合いの結論である『これからはAランク以上の冒険者パーティーの街の出入りはギルドが管理し、常に半数以上が街に残るよう調整する』が、受理された。


会議終了後、冒険者たちはガセットに一例をして、応接室を出て行った。


そして、2名の冒険者だけがその場に残った。


『彗星の騎士団』のガレスとアルトだった。


アルトはパーティーのリーダーではないが、今回の事件に深く関わった重要参考人としてこの場に呼ばれていた。


「ではガレスくんにアルトくん。君たち『彗星の騎士団』は、今回のモンスターの大群による襲撃から街を救い…そしておそらく元凶である者たちとも関わった。そう聞いている。詳しく聞かせてもらおうか」


ガセットが真剣な表情で二人を見据えた。


その後、ガレスとアルトは、自分たちが知り得る情報をガセットに明かした。


森で魔族を見たこと。


モンスターの大量発生は、おそらく彼らが原因だったこと。


アルトは魔族と交戦し、戦いには勝ったが取り逃したこと。


二人はあらかじめ決めていた通り、『例の少女』の情報は伏せ、それ以外のことをガセットに話した。


全てを聞いたガセットは、表情を険しくする。


「まさか、魔族が関わっていたとは…」


魔族。


他のどの種族よりも、高い身体能力と魔力量を有する種族。


繁殖能力に欠けるため、絶対数は少ないのだが、一個体の戦闘能力はずば抜けている。


また、魔族と人間との間には条約が結ばれており、互いの領地には侵入してはならないことになっている。


しかし、今回、魔族が人間領内で発見され、あろうことかモンスターの大群をけしかけてきた。


これは一種の戦争行為にも等しかった。


ガセットには、このことを王族に報告しなくてはならない義務があった。


「確認するが…確かに魔族だったのだな?」


直接戦ったアルトに対して、ガセットが問う。


アルトは首肯した。


「間違い無いです。あれは魔族でした。外見の特徴は魔族と完全に一致しています。魔力量も、普通の人間と比べれば明らかに上でした」


「そうか…」


ガセットは重々しく頷いた。


アルトの真剣な表情が、嘘でないことを物語っていたからだ。


「大変な事になった…魔族め。人間領に踏み入って、一体何を…奴らの狙いは一体なんだ?分からん…現時点では。だが、このことは上に報告せねばなるまい」


ガセットは決心がついたようにそう言った。


「ところで…魔族は一体どのようにしてあそこまで大量のモンスターを操り、街を襲撃させたのだ?何か心当たりはあるか?」


「いいえ」


「それは我々にもわかりません」


ガレスとアルトは共にかぶりを振る。


本当は、もちろん知っている。


大量発生の原因は『例のピンク髪の少女』

だ。


彼女の体内に秘められた魔石を使い、魔族はモンスターを生み出していた。


それが今回の事件の原因だった。


だが、『彗星の騎士団』はまだそのことを明かすべきではないと判断していた。


もし全てを洗いざらい話せば、間違いなくあの少女は彼らによって捉えられ、王都へと連行されるだろう。


そうなれば、十中八九、少女は実験台となってしまう。


それは『彗星の騎士団』の望むところではなかった。


使い方によっては、あの少女は兵器にもなりうる。


あの少女を王族に引き渡した挙句、人間同士の戦争などに利用されたら目も当てられない。


全てを加味した上で、『彗星の騎士団』はしばらくの間、少女の存在を秘匿することにしたのだ。


「そうか…まぁ、それに関してはこちらで調査する。何かわかったら、また報告を頼む」


「わかりました」


「仰せのままに」


「では、また」


「ええ」


「失礼します」


ガレスとアルトはお辞儀をして、応接室を後にしようとする。


だが、その前にバァンと扉が勢いよく開いた。


「た、大変です!!ガセット様!!」


「ん?どうした。騒がしいな」


慌ただしく入ってきたのは、一人のギルド職員だった。


その顔は、すっかり青ざめている。


「何があったのだ?」


ガセットが尋ねる中、職員は震え声で言った。


「たった今早馬で…ガザド村がモンスターの大群に襲われているとの報告が入りました…!」


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