第15話
「では……アルトの加入を祝して、乾杯!」
「「かんぱーい!!」」
「ほら、アルト。乾杯!さあさあ、飲んでくれ、食べてくれ。ここはリーダーである俺持ちだからな。遠慮はするな!」
「あ、ありがとう…」
ビールのジョッキを持ちながら笑顔を見せてくるガレスに俺は戸惑いながらも頷いた。
夕刻。
『彗星の騎士団』への加入が決まった俺は、歓迎会ということで、ガレス、ソフィア、エレナとともにクエスト終わりの冒険者が集う酒場へとやってきていた。
目の前のテーブルに並ぶ、数々の料理。
太っ腹にも、会計は全てリーダーのガレスが持ってくれるらしい。
「本当にいいのか…?」
「もちろんだ!たくさん食べてくれよ!!」
俺はおずおずと料理に口をつける。
本当に信じられない。
まさか『緋色の剣士』を追放された俺が『彗星の騎士団』へ入ることになるなんてな。
「いやー、それにしても、あなたの実力には驚いたわアルト。支援魔法に回復魔法、挙げ句の果てに近接戦闘まで出来るなんてね。そんな万能のサポーターなんて聞いたことないわよ!」
すでにジョッキの半分ほどの酒を飲み干したエレナが、ばしばしと肩をたたきながら言ってくる。
「本当よね…万能にも程があるわ…はぁ…あんなにすごい魔法が使えるなんて思わなかった…私、アルトが入ることで要らない子になったりしないかしら…?今から心配ね…」
魔法使いのソフィアが、ため息を吐きながらそんなことを言った。
「はっはっはっ。ずいぶんネガティブだな、ソフィア」
それをきいたガレスが豪快に笑う。
「確かにアルトの魔法はすごかったなぁ。俺なんて、剣を振っただけで、斬撃が起こったからな!おいソフィア。頑張れよ!お前、モタモタしていると、アルトに魔法使いの地位を奪われるかもしれないぞ!」
「ちょ、そういうこと言わないでよ!!怖くなってくるじゃないっ!」
ガレスが冗談を言い、ソフィアが頬を膨らませておくる。
それを見ていたエレナが横から。
「あら〜?人のことが言えるのかしら、ガレス〜?アルトはオーク・キングを瞬殺するほど近接戦が得意なのよ?立場を奪われるのはソフィアじゃなくてまずはあんたなんじゃないの?」
「ぐ…そ、そういうこと言うなよ…俺はリーダーだぞ…?」
「一ヶ月後にはアルトがリーダーになってたりして…」
「なっ…」
エレナの冗談に、ガレスがみるみる青ざめ出す。
そんなことあるはずないのに、演技が上手いなぁ…
「みんなありがとう。俺を歓迎するために、そんなこと言ってくれて。でも俺は本音で語ってくれたほうが嬉しいよ。もし俺に至らないことがあったらなんでも言ってくれよ。実力不足でまた追放されるのは嫌だからな」
『緋色の剣士』にいた頃の二の舞はもうごめんだ。
彼らは現在、歓迎会ということで俺を持ち上げてくれているのだろうが、もし、俺に足りない部分があればすぐに言って欲しい。
またあのように心ない言葉を吐かれて、追放されるのだけは避けたいのだ。
そう思って言ったのだが…
「「「…」」」
俺の言葉をきいた3人が、なぜか無言になった。
あれ…?
俺何がまずいこと言ったか…?
「なぁ、アルト」
やがて徐に、ガレスが口を開いた。
「もしかしてなんだが…お前、自分のことを大したことないサポート役だなんて思ってないか?」
「ん?思ってるぞ。だからこれから3人の足を引っ張らないように頑張ろうと…」
「はぁ…」
ガレスが深くため息をついた。
それから救いようがないというように首を振る。
「え…?」
「頼むぜ、アルト。お前、あれだけの実力を見せておいて、自身なさげにしないでくれよ。こっちが凹んじまう」
「はい…?」
「この際だからはっきり言っとくが…アルト。今日見せてもらったお前の魔法や近接戦闘の技術は申し分なかった。はっきり言って完全に予想外で、むしろ俺たちの方から大金を払ってでも新メンバーになってくれと頼み込むレベルだ」
「え、そうなのか…?」
俺は揶揄われているのかと思い、彼らの反応を伺う。
すると、ソフィアもエレナも真面目な表情で頷いた。
「あんたみたいなサポーター見たことないわよ。あたらしい仲間として申し分ないわ」
「あなたがサポーターとしていてくれれば、本当に心強い。これからよろしくお願いするわね」
二人してそんなことを言ってくる。
「そ、そうか…」
3人の言葉に、じわっと温かいものが心の中に広がった。
多分、俺は嬉しかったのだ。
実力を評価されたのが。
『緋色の剣士』を追放された時、3人は俺に対して散々な言葉を浴びせ、それで俺は自信を無くしていた。
だが、今、新たな3人の仲間の励ましによって、俺は多少なりとも自信を取り戻すことができた。
「ありがとう…すごく自信になったよ…その、なんだ…これから、よろしくな」
俺が頭をかきながらそういうと、無言でガレスが拳を差し出してきた。
俺は自分の拳を、当てる。
横から、ソフィアとエレナも拳を合わせてきた。
こうして俺は正式に、Aランクパーティー『彗星の騎士団』の一員として迎え入れられたのだった。
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