第56話
「本当に私たちだけでよかったのかしら?」
「問題ない!それよりもむしろ、街の防衛の方が心配だな!!」
「あら、ガレス。ずいぶん強気ね。Sランクに上がったからって気が大きくなってんじゃないの?」
「はっはっはっ。否定はしないぞ」
「あんたねぇ…」
森の中を駆けながら、ガレス、ソフィア、エレナの三人がそんな会話をしている。
俺はそんな彼らを横目に、前方を見据えた。
ガザド村がモンスターの大群に襲われているとの報がギルドへ入ったのが、1時間前。
あの後、ギルド長ガセットと密会中だった俺とガレスは、すぐにパーティーホームへと帰り、ソフィアとエレナを伴ってガザド村へと急いでいた。
ガザド村は街から数キロ程度離れた場所にある人口数百人程度の小さな村だ。
討伐隊が『彗星の騎士団』のみなのは…またこの間のようにこの隙を塗って街が狙われる危険があるからだ。
街の防衛はAランク冒険者たちに。
村の救出は、Sランクである『彗星の騎士団』が担当することになった。
「大丈夫か?どこか痛いところはないか?」
「んにゅっ!」
ちなみにこの場には『例の少女』もいて、今は俺が背中におぶっている状態だ。
この少女の危険度を考えたら、とてもじゃないがパーティーホームで留守番というわけにはいかない。
片時も目を離すべきではないと考え、同行させていた。
「そろそろガザド村だ。皆、気を引き締めろ」
先ほどまで少し砕けた雰囲気だったガレスが、表情を引き締める。
街を出てからここまで、俺たちは俺の支援魔法によって走力を強化して進んできた。
予定ではそろそろガザド村に着く頃だろう。
「この気配か…なるほど。数百はいそうだな」
「アルト。ひょっとして探知魔法?」
ソフィアが訪ねてくる。
俺は頷いた。
「500メートル以内に、数百のモンスターの反応だ。多いぞ…」
「また魔族が関わっているのかしら?」
「わからない。だが、十分考えられるだろうな」
モンスターの大群が村や街を襲うことをスタンピードと言ったりするが、スタンピードはこうも頻繁に起こることじゃない。
それこそ、10年に一度とかそのレベルだ。
故に、今回の大群による襲撃も自然発生的なものではなく、何者かが関わっている可能性が高い。
「もし、魔族なら…今度こそ捕まえる」
前回のように逃げられるようなヘマはしない。
必ず捕まえて、目的を問いただしてやる。
あの少女の存在についても何か知っている可能性が高いだろうからな。
「きゃあああああああああ!?誰かぁあああああ!!!」
俺がそんなことを考えていると、前方で悲鳴が聞こえた。
「今の!」
「ああ!」
「急ぎましょう!」
「おう!」
俺たちは互いに顔を見合わせ、悲鳴の方向に向かって全力で疾走する。
『彗星の騎士団』の四人がガザド村に向けて森の中を疾走する同時刻。
彼らを影から監視する目があった。
前回の街の襲撃の首謀者、魔王復活を目論む魔族であった。
『奴らだ!間違いない!!」
『あの男と女…あの時の冒険者だ!』
『くはは…やはり誘き出されてきたか!』
『見ろ!アルファもいるぞ!!』
『ありがたい!!こちらの手間を省いてくれるとは!!』
『人間どもめ…今度こそその命を貰い受ける…アルファも返してもらうぞ!』
ガザド村をモンスターに襲撃させた首謀者は、彼らだった。
モンスターの大群に村を襲わせ、救助にと誘き出された冒険者を狩り殺す。
それが彼らの狙いだった。
『全ては魔王様のために!!人間の冒険者を血祭りにあげようぞ!!』
『『『『おおおおお!!!』』』』
前回よりも数の多い魔族たちは、瞳を爛々と光らせ、雄叫びをあげる。
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