第20話


「はぁー、むし暑い〜。ガレス〜?まだつかないの?」


「文句を垂れるな、ソフィア。もうすぐで着く」


「はぁーい」


「こら、ソフィア。クエスト中なんだから、もうちょい緊張感持たなきゃダメよ」


「そうやいうけどさー…ってか、アルト。あんた全然汗かいてないのね…一体どんな体力してんのよ…」


四人の冒険者たちが森の中を進んでいる。


ガレス、ソフィア、エレナに俺を加えた、『彗星の騎士団』の四人のメンバーだ。


俺たちが森に踏み入ってすでに二日が経過している。


予定であれば、あと数時間ほどでブルー・アリゲーターが大量発生した湖に到着するはずだった。


「体温を少し下げる魔法があるぞ。使ってみるか?」


森の中の暑さに文句をいうソフィアに、俺はそう提案してみる。


「え!?そんな魔法があるの!?」


ソフィアが食いついた。


「使ってみて!」


「オーケー。待ってろ」


「おいおい、ちょっと待て」


俺がソフィアに、体温を下げる『クール・ダウン』という魔法を使おうとすると、ガレスが止めに入った。


「俺たちはこれからモンスターと戦うんだぜ?こんなところでアルトの魔力を消費させてどうする。自重しろ、ソフィア」


「う…それは確かに…」


ガレスの正論に、ソフィアが項垂れる。


しかし、俺は別に構わないと思っていた。


『クール・ダウン』は魔力消費の少ない魔法だからだ。


俺の総魔力量から考えると、ほとんど誤差の範囲である。


「いや、ガレス。この魔法はほとんど魔力を消費しない。だから大丈夫だぞ」


「ん?そうなのか」


「ああ。むしろ少ない魔力でソフィアのコンディションを上げられるのなら、儲けものじゃないか?」


「それもそうか…よし、その魔法とやらを使ってやれ」


「やったっ!」


ソフィアがガッツポーズして、俺に期待するような眼差しを向けてくる。


俺はそんな彼女に『クール・ダウン』の魔法を使った。


「うわっ!!涼しい!!」


ソフィアが目を丸くして驚いた。


「凄い!!ひんやりして気持ちいい!なにこれ!凄い!!本当にすごい!」


興奮したソフィアがすごいすごいと連呼する。


そんな彼女の様子をみて、他の二人も興味を持ったようだ。


「そんなに凄いのか…」


「わ、私も体験してみたくなりましたね…」


物欲しそうにこちらをみてくるガレスとエレナ。


「あいよ」


俺は苦笑しながら、二人にも『クール・ダウン』の魔法を使った。


すると…


「うおおっ!?」


「ふわぁ…」


ガレスが声をあげて驚き、エレナは気持ちよさそうな表情になる。


「なんだこれ!?こんな快適な魔法があるのか!?」


「凄いですね…驚愕です…というか、こんな凄い魔法があるならもっと先に言って欲しかった…」


ソフィアと似たような反応の二人。


「ははは、すまんすまん。あんまり使うタイミングがないから忘れてたんだ」


俺はメンバーたちに『クール・ダウン』が気に入ってもらえて満足だった。




その後、俺たちは歩みを再開させた。


「すっごく快適だわ!!生き返った気分!」


「本当ね。ありがとう、アルト」


「感謝するぜアルト!これで、全力で戦えそうだ!」


先ほどよりも足取りが軽やかになった3人がそんなことを言ってくる。


まさか『クール・ダウン』の魔法でここまで喜んでもらえるなんてな…


その気になれば誰だって習得できる簡単な魔法なんだが…まぁ直接戦闘に役に立たないから敬遠されているのだろう。


そうして、湖に向けて進むことしばし。


ふと、先頭のガレスが足を止めた。


「ん?どうした、ガレス」


俺が尋ねると、ガレスが後ろを振り返っていった。


「なんか妙じゃねぇか?」


「何がだ?」


「モンスターが少なすぎる」


唐突にそんなことを言い出したガレスに、俺は首を傾げる。


「これだけ森の中を進んだってのに、昨日から数えるほどしかモンスターとエンカウントしていない。しかも出会うモンスターは全員Bランク以上の高ランクモンスターばかりだ。一体どうなってるんだ?」


ん?


ガレスは一体何を言ってるんだ?


「あ、確かに!私もおかしいなって思ってたのよ!モンスターとの遭遇が少なすぎるわ!」


そりゃ当然だろう。


だって…


「そうね…偶然かと思ったけど…そうでもないみたい。もしかしてこれもモンスター以上発生がなんらかの作用を及ぼしているのかしら…?」


いやいやいや、どうしてそうなる。


「ちょ、ちょっと待て3人とも。いったい何を言ってるんだ?」


俺は勝手に話を膨らませていく3人に待ったをかける。


「モンスターと遭遇しないのは、俺が探知魔法で避けているからだ」


「ん?」


「はい?」


「え?」


3人が首を傾げる。


いやいや、首を傾げたくなるのはこっちだよ。


「ほら、時々ガレスにちょっと進む向きを変えるように指示を出しただろう?あれは道の先にモンスターがいることを魔法で探知して方向を変えていたんだよ」


「なんだと!?」


「ええ!?」


「そうだったの!?」


当然のことだと思っていたが、3人に驚かれた。


「なんでそんなに驚くんだ…?」


「いや、だって普通探知魔法ってせいぜい数メートル先しか索敵できないんじゃ…」


「なんだそれ。そんなの使い物にならないじゃないか」


数メートルしか探知できない探知魔法なんて、ほとんどないも同然じゃないか。


かろうじて一寸先も見えないような暗闇なら役に立つかもしれないが…


「な、なるほど…アルトがあらかじめモンスターを探知して避ける道を選んでくれていたのか…それで納得したよ…」


ガレスがちょっと恐れ入るようにそう言った。


「ち、ちなみになんだけど…アルト。あんたの探知魔法、どのぐらい先まで探知できるの?」


「…そうだなぁ…せいぜい500メートルぐらいだと思う。その先になると、かなり曖昧な探知しか出来ない」


「500メートル!?」


ソフィアが目を向いて驚いた。


「ん?それぐらい普通じゃないのか…?」


「ふ、普通じゃないと思う…500メートル先まで索敵できる探知魔法とか聞いたことないわよ…」


エレナがなんか怖いものを見る目を俺に向けてきた。


いや、何故そのような視線を向けられなければならんのか…


俺の常識がおかしいのか…?


「いや、だが、ちょっと待て。それでも不可解な点がある」


ガレスが俺に詰め寄ってきた。


「いくら探知魔法で避けてたとはいえ、ここまでCランク以下の雑魚モンスターに一度も出くわしていないのはいくらなんでもおかしいだろう。これはどう説明するんだ?」


「ん?なんでそんなこと聞くんだ?」


そんなの決まってるだろう。


「もちろん俺が出会う前に始末してるからだ」


「「「はい…?」」」


そういうと3人とも同時に首を傾げた。


俺の言葉を理解できていないと言った表情。


あれ?


説明不足だったか? 


「一応説明しとくと、俺たちの半径20メートル以内に、生命力減衰の魔法をかけていてな。効果範囲内に入ると生命力にデバフ効果がかかるんだ。上級冒険者である俺たちにはほぼ影響ないんだが、しかし雑魚モンスターだと、効果範囲に入ると数秒で死にいたる。だから、雑魚モンスターは俺たちのところまで来ないんだよ」


俺は詳しく説明をして、もう一度3人をみた。


「「「…」」」


3人は口をぽかんと開けたまま無言だ。


一体どうしたというのだろうか。


俺、何かおかしいことを言ったか?


俺が仲間達の反応に首を傾げる中、3人は何も言うことなく、何かを悟ったような顔で歩みを再開させた。


「おい、3人とも…?」


俺が声をかけるが、なぜか無視。


「忘れてた…そうだこいつは、化け物なんだった…」


「なんなのこの人…もはや人外…」


「理解不能だわ…いえ、理解しようとしたことが愚かだったのかも…」


3人がそれぞれ何か呟いたような気がしたが、小さすぎて俺には聞き取ることが出来なかった。


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