第19話
「んう…」
朝、目を覚ますと知らない天井だった。
一瞬だけ頭の中が混乱するが、すぐにここがどこだか思い出す。
「『彗星の騎士団』のパーティーホーム…」
そう。
ここは『彗星の騎士団』のパーティーホーム。
『彗星の騎士団』に加入することになった俺は、昨日から、一等地に建てられたパーティーホームの一室に住ませてもらっている。
「本当にいい場所だよな…」
俺は起き上がってぐるりと部屋を見渡した。
『緋色の剣士』のパーティーホームの倍ぐらいの広さがある。
広々としてストレスがたまらない。
ベッドや机、武器立てなど、置いてある家具や道具も一級品だ。
「ありがたいよなぁ…」
この部屋はかつて、『彗星の騎士団』のリーダーが使っていた部屋らしい。
そのリーダーは、少し前に年齢を理由に引退。
リーダーはガレスが引き継ぎ…そして、その抜けた穴埋めとして、俺が『彗星の騎士団』に入ることになった。
「さて…今日は大型クエストの日だったな…」
俺はぐっと伸びをして起き上がる。
今日はガレスからあらかじめ聞かされていた大型クエストに日だ。
聞けば、かなり遠くにある湖まで向かうとのことで、移動だけでも数日を要するらしい。
「新たな門出だ…頑張るぞ…!」
新しいパーティーメンバーとの、最初のクエスト。
なんとしてでも成功させたい。
俺は拳をぐっと握って、気合を入れるのだった。
『彗星の騎士団』のパーティーホームは、2階にメンバー四人分の部屋があり、一階にはリビングやダイニングやキッチンがある作りになっている。
部屋を出た俺は、廊下を歩き、階段を使って一階に降りた。
すると、ふわりと美味しそうな香りが漂ってきた。
キッチンで、魔法使いのソフィアが朝食を作っていた。
「あら、おはようアルト。寝癖ついてるわよ」
「まじで!?」
急いで自分の髪の毛を撫でつける。
「嘘よ」
「…おい」
無意味な嘘をついてくすくすと笑うソフィア。
俺はため息を吐いて席についた。
「おお、アルト!起きてきたか!」
ちょうど同じタイミングで、バタンと玄関のドアが開いて、外にいたらしいガレスがホーム内に入ってきた。
身体中汗だくになっている。
どうやら運動をしていたらしい。
「汗臭くてすまないな。朝、軽く走るのが日課なんだ」
「なるほど…」
「ちょ、ガレス!臭い臭い!早くシャワー浴びてきてよ!」
バタッとトイレの扉が開いて、中から出てきたエレナが悲鳴をあげる。
「うはは。すまんすまん」
ガレスが笑いながら浴室へ向かった。
ぽたぽたと床に汗が垂れる。
「ちょ…勘弁してよね…」
エレナがすかさず雑巾を手に取った。
一人だと時間がかかりそうだったので、俺も手伝うことに。
「あ、ありがとうアルト」
「おう。任せてくれ」
「あら優しい。はぁ…ガレスにもこれぐらいの繊細さがあったらねぇ」
料理をしながら、ソフィアがため息はく。
「本当よ」
エレナが深く頷き、
「おーいお前ら!聞こえてるぞ!!」
ガレスが浴室から声を響かせる。
「うるさいわね!あんたはさっさとシャワーを浴びなさいっての…………って、何ニヤニヤしてるの?アルト」
「あ…いや、なんでも」
なんだか微笑ましいやりとりだなぁと思っていたら、自分でも気付かないうちにニヤニヤしていたらしい。
エレナに訝しむような視線を向けられ、俺は慌てて顔を引き締めたのだった。
朝食を食べた後、俺たちは今日から数日間にかけて挑むことになる大型クエストについて話し合った。
今回のクエストは、街の近くにあるガラントの森、その中心にある湖でブルー・アリゲーターというモンスターを狩るものだった。
ブルー・アリゲーターを狩るクエストはこの時期にはよく発注されるクエストであり、クエストランクは大抵Bか、C。
しかし、今回のブルー・アリゲーター狩りクエストは少し様相が異なっていた。
「ギルドの調査隊の情報によれば…水面を埋め尽くすほどにブルー・アリゲーターが大量発生していたらしい」
「うぇえ…」
ガレスの言葉にエレナが顔を顰める。
水面いっぱいのブルー・アリゲーターを想像したのだろうか。
「大量発生したモンスターを全部狩るのはBランクやCランクのパーティーじゃ無理だからな。そこで俺たちの出番ってわけだ」
モンスターが大量発生することは稀にある。
大量発生したモンスターは凶暴性を増すことで知られており、放っておくと、移動して村や街を襲うため、討伐の役目が高ランククエストとして冒険者ギルドに回ってくるのだ。
「報酬はなんと金貨150枚。これを逃すてはねぇ」
「わお。凄い金額ね」
ソフィアが目を丸くして驚いた。
無理もない。
金貨120枚というのは、小さな物件を一つ購入できるほどの金額だからだ。
「ギルドも太っ腹ね。でも、それほどまでに数がやばいってことでもあるわ」
「もちろん、そうだろうな。油断は禁物だ。
しかし、ブルー・アリゲーターは陸での動きが鈍いからな。遠くから魔法を打ち込めば危険をほぼ冒さずに仕留められる。アルト。支援魔法、任せたぜ?」
「おう。もちろんだ」
ニヤッと笑うガレスに、自信を持って頷いた。
その後俺たちは各自の役割や、クエストに持っていく武器や食料、ルートなどを確認し、夕方になった頃、いよいよ街を出発し、ガラントの森へと向けて歩き始めたのだった。
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