第21話


「…っ」


その『異常なまでに密集したモンスターの気配』を感じ取った時、俺は思わず顔を顰めて立ち止まってしまう。


「なるほど…こう言うことか…」


確かギルドから派遣された調査隊からの報告では、水面が埋め尽くされるほどに大量発生した、と言う表現だったらしいが…


俺はその言葉が的を得ていたことを、他の3人より一足先に、身をもって知ることになる。


「ん?どうかしたか、アルト」


俺が立ち止まったのをみて、ガレスが首を傾げる。


俺は首を振って、歩みを再開させた。


「別になんでも。まぁ、多分もう少しでお前らにもわかる」


「…?」


俺のはっきりしない物言いにガレスが首を傾げた。


「うわぁ…」


あれから半時間後。


ついにブルー・アリゲーターが大量発生しているという湖にたどり着いた俺たちは、そこの広がっていた光景に、みんなして唖然となる。


「うげぇ…気持ち悪い…」


エレナが吐き気を催したように顔を顰めた。


「これは酷いな…」


ガレスは口をぽかんと開けながら呟き…


「あまり長くみていたい光景ではないわね…」


ソフィアはすぐに湖から視線を逸らした。


3人それぞれの反応を横目に、俺も改めて湖を見た。


「…これは…確かに異常だな…」


まさに、水面を埋め尽くすほどの、と言う表現が正しいだろう。


ガラントの森の中心に位置する湖は、信じられないほどの数のブルー・アリゲーターで埋め尽くされていた。


「どーやったらここまで繁殖するんだよ…」


ガレスがぼやいた。


確かに、明らかに異常な現象。


自然に起こったものとは思えないような光景だ。


何か良くないことが起こる予兆として、モンスターが大量発生する、なんてのは言い伝えの類では良くあるのだが…


「ん…?あれは誰だ…?」


ふと、ガレスが前方を指さした。


俺はその方向を見る。


「ん…?あれは…」


湖の反対側に、一つの人影が見える。


フードを深く被っていて顔は見えない。


その人物は、手に持った袋の中から何かを取り出して、湖の中に投げ込んでいた。


「…」


怪しい。


直感的にそう思った。


そして、それは他のメンバーも同じだったらしい。


「なんか怪しいよね…」


「ええ…こんな異常現象が自然に起こるとは思えないし…」


「ちょっと話を聞いてみる必要がありそうだな…おーい、お前!!!」


ガレスが突然大きな声を出して、人影を呼んだ。


「そこでなにやってるんだ!!さっきから湖に何を投げ入れている…って、あっ!!」


ガレスが話しかけたのと同時、フードを被った人物は一目散に森の中へと逃げていった。


「おい、あいつっ!くそっ…待てコラっ!!」


ガレスが走り出した。


湖をぐるりと回って、フードの人物を追いかけようとしているらしい。


「ちょ、ガレス!?」


「モンスターの討伐は任せたぞ!ソフィアとアレンの支援魔法があれば事足りるだろ!!俺はあいつを捕まえてくる!!」


そう言い残してどんどん遠くなっていくガレス。


「ちょ…き、気をつけなさいよー!!」


「お前らもなっ!!」


あっという間にその背中は見えなくなってしまった。


「はぁ…いつもすぐに突っ走るんだから…」


残れたソフィアがため息をついた。


しかし、俺はそう悪くない判断だと思う。


先ほどの挙動からして、あのフードの人物がこの異常発生に何か絡んでいると考えるのが普通だし、ガレスならヘマをすることはない。


また、この場はガレスの言った通り、俺とソフィアさえいれば十分だ。


万が一、ブルー・アリゲーターが地上に上がってきて近接戦をやることになっても、ブルー・アリゲーターは動きが鈍いため、エレナひとりで十分対応できる。


「さて…任されたことだし、俺たちはブルー・アリゲーターどもの討伐に集中しようぜ」


「そうね」


俺は腕まくりをして、湖を蠢いているブルー・アリゲーターを見据えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る