第59話
「疲れたわね…体力回復ポーションとかないわけ?」
「すまん…今、ちょうど切らしててな」
「魔力回復ポーションは?」
「それもない」
「はぁ…そう。使えないわね」
呆れたようにミシェルがため息を吐いた。
そんな彼女の態度に、三人はもはや取り合わない。
三人とも、ジャイアント・フロッグのクエスト討伐でミシェルの無能さをまざまざと見せつけられ、馬鹿馬鹿しくて相手にすることすらしなくなっていた。
あれから…
四人はジャイアント・フロッグ20体の討伐を終えて、街への帰路を歩いていた。
20体のうち、ミシェルが討伐したのはたった2体だった。
あれだけ力を見せてやるだのと豪語して見せて、結局、2体を倒したところで魔力が尽きたのだ。
Bランクパーティーの魔法使いでも、もう少し魔力量は多いぞ。
というのが三人の感想だ。
到底、自分たちのパーティーに入れられるようなレベルではない。
流石に彼女も、ここは身の程を弁えて、自ら身を引いてくれるだろう。
三人はそう思っていた。
だが…
「おい、ミシェルさん?いつまでついてくるんだ?」
街へ入っても、変わらずに三人について行こうとしているミシェルに、リーダーの男は思わず足を止めた。
「ん?どこっでギルドまでよ。これから向かうんでしょう?」
「まさかギルドまで来るつもりか?」
「当たり前じゃない。まだわけまえも貰ってないし、これからパーティー加入の手続きもしなくちゃいけないでしょう?」
「「「…」」」
3名は絶句した。
ミシェルの正気を、本気で疑う。
冗談で言っているのかと、三人はミシェルの顔をマジマジと見つめる。
だが、ミシェルの表情にふざけている気配は微塵も感じられない。
やがて、徐にリーダーの男が口を開いた。
「ま、まさかとは思うが、あんた、俺たちのパーティーに入るつもりなのか?」
恐る恐る尋ねる。
ミシェルはコクリと頷いた。
「ええ、仕方なくね。感謝なさい」
躊躇いもなくそう言い放つミシェル。
むしろ、私が入ってやることをもっとありがたがれ。
そのような声のトーンだった。
ここへきてリーダーの男は、ミシェルが自分の力を過大評価しているただの無能だということを完璧に理解した。
「ミシェルさん…悪いが俺たちはあんたとは…」
パーティーを組めない。
そう言おうとした瞬間、背後で二人が爆笑し出した。
「ぎゃはははははっ!!!」
「ひーっ、ひーっ、おもしれぇ!!!」
二人とも腹を抱えて、耐えきれないと言ったように笑っている。
「はぁ?急にどうしたわけ?」
何も分かってないミシェルが訝しげに首を傾げる。
二人は涙目になって笑い続けている。
「こ、この女!面白すぎるだろ!!!」
「感謝なさい!だとよ!!ジャイアント・フロッグの討伐に十分もかかったくせに!!まじかよ!!こんなやつ初めてだ!!」
「なぁ!?冗談だよな!?冗談だと言ってくれ!!!」
「ぶははははっ!!滑稽すぎるだろ!!頼むからネタだと言ってくれ!!!」
地面をのたうちまわり、笑い転げる二人。
ミシェルはようやく自らが軽んじられていることに気づいた。
「はぁ!?なんなのよその態度!!この私がパーティーに入ってあげるって言ってんのよ!?ちょっとは感謝しなさいよ!!」
「入ってあげる?ぶふふっ…てめー、ろくに魔法も使えない雑魚だろうが!!なんだその態度は!!!」
「あんなに魔力量の少ない魔法使いとか見たことねぇ!!!お前には駆け出しのDランクがお似合いだよ!!」
「お、おい…二人とも言い過ぎだぞ…ぷっ」
リーダーの男が二人を宥めるが、しかし、自身もミシェルの態度があまりに未分不相応で、堪えきれず少し吹き出してしまう。
そんな彼らを見て、ミシェルはため息を吐いた。
「はぁ…ま、しょうがないか。あなた方のような雑魚に私の強さがわかるわけないもんね」
踵を返し、反対方向に向かって歩き出す。
「せっかくのチャンスを台無しにして御愁傷様。私がいれば、このパーティーをSランクにしてあげられたのに」
「はいはい、妄想乙」
「お前まじで病気だよ。治癒術師に診てもらえ」
二人がそういうが、ミシェルは取り合わない。
彼女の中では、未だ自分が彼らよりも強者であり、自分の価値判断が全て正しいことになっていた。
故に、Aランク冒険者が何を言っても、彼女は真剣に取り合わなかった。
「さよなら。お馬鹿さんたち」
勝手にやり込めたつもりになったミシェルはひらひらと手を振ってその場から立ち去った。
後に残された冒険者たちは舌打ちをする。
「なんだあいつ!?俺らは命の恩人だってのに、礼のひとつもなかったぞ!!」
「というかあんな雑魚なのに、どうやったらあそこまで増長できるんだ?」
「病気か?それとも貴族とか特権階級のお嬢様か?」
「あり得るな。蝶よ花よと育てられたら、人間あーなっちまうのかもしれねぇ」
二人は立ち去って行くミシェルの背中を見ながら、そんな推測をこぼす。
リーダーの男が二人の肩にポンと手を置いた。
「まぁ、いいだろう。クエストは無事に終わったんだし、さっさとギルドへ換金しに行こう」
「そうだな」
「行こう。あいつはもうどうにでもなっちまえ」
三人はミシェルのことを忘れ、ギルドへ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます