第44話


「まさか…ここまでとは…」


確証があったわけではなかった。


少女がウルフを操った時に頭に思い浮かんだ、思いつきに過ぎなかった。


だが、まさかここまでの効果を発するとは。


「たあっ!!」


どうだ!と。


そう言わんばかりの顔をピンク髪の少女は俺に向けてきていた。


すでに、モンスターは街への侵攻をやめ、森へと向かって帰還し始めていた。


…つまり、こちらに向かって進んでいた。


「あれ?これ、不味くないか?」


「んあ?」


ドドドドドドド。


「…っ」


モンスターの足音が大きくなる。


失念していた。


そうだ。


俺とこの子は今、森と街のちょうど中間地帯にいる。


そこで森に帰るよう命令したら、モンスターがこちらに向かってくるのは必然じゃないか。


「くそ、まずいっ!!逃げるぞ!」


「の?」


小首を傾げる少女を抱き抱えて、俺はすぐさま森の中に逃げ出した。

 



「ここまでこれば…流石に侵攻方向からは逸れたよな…?」


森の中。


俺は肩で息をしながら、抱いていた少女を地面に下ろした。


あれから森の中を全力で走り、随分と距離をとった。


流石にモンスターの大群の進行方向からは逸れたはずだ。


あとは、モンスターたちが通り過ぎるのを待って、街に帰還するのみである。


「とりあえず、お前は一緒に来てもらうからな」


「たあ?」


俺はピンク髪の少女にそう言った。


まさかこの少女をこのまま森に放置しておくわけにはいかない。


魔族に確保されれば、また今回のようなことが起きるかもしれないし、何よりこんな謎めいていて危険な存在を野放しには出来ない。


最終的には然るべき機関に預けるかもしれないが…ひとまずは手元に置いておきたい。


「飯は…食うのか?まさか魔石が主食だったり…?」


「うにゅ」


「…」


俺が気の抜けた表情の少女と見つめ合いながら、頭を悩ませていると。


ガサガサ。


「…!」


近くの茂みが動いた。


急いで探知魔法を発動させる。


気配が二つ。


こちらへと近づいてきていた。


『見つけたぞ、人間』


『それを返してもらおうか』


「魔族…!」


現れたのは、二人の魔族だった。


おそらく先ほど目にした5人の魔族のうちの二人だろう。


全身に莫大な魔力を帯びた状態で、こちらへと近づいてくる。


俺は剣を抜き放ち、魔族に対峙した。


『無駄な抵抗はやめろ人間』


『我らは数が少ない代わりに、一個体の能力値は人間の数倍だ』


『魔力も、そして身体能力もな』


『人間一人に何ができる』


魔族は余程の自信があるのか、悠然と近づいてくる。


『さあ、大人しくそれを渡せ』


数メートルの距離まで近づいてきた魔族が、少女を指さして言った。


『抵抗しなければ、命は助けてやる』


魔族がニヤつきながら、そんな提案を持ちかけてきた。


俺は剣を握る手にぐっと力を込めながら、言い返した。


「嘘だな。渡した後に、俺を殺す気だろう」


『はっ。正解だ。面白くねぇ』


『あーあ。せっかく楽に殺してやろうと思ったのに』


次の瞬間、魔族の体から爆発的な魔力が放出される。


「…!」


俺は少女を背に庇いながら、各種支援魔法を自身の体に施した。


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