第51話


「じゃあ、行くぞ…?」


「お、おう…」


「ええ」


「しっかり見ているわ、アルト」


俺が他のパーティーメンバー三人に確認を取ると、各々、重々しい表情で頷いた。


その日。


俺含む彗星の騎士団のメンバーは、あまり人の寄り付かない森の奥深くに、ピンク髪の少女と共に訪れていた。


「んみゅ?」


不思議そうに首を傾げいているピンク髪の少女は、つい一週間前、魔族に囚われていたところを俺とエレナで協力して保護した子だった。


この少女は、普通の人間ではない。


どう言う原理かはわからないが、体内からモンスターの核である魔石を生み出す。


一週間前に街を襲ったモンスターの大群も、原因はこの少女にあるのではないかと睨んでいた。


「大丈夫。痛かったらすぐにやめるからな」


「んえ?」


俺はキョトンとしている少女の腹に、徐に手を触れた。


「「「…!?」」」


近くで注意深く観察ていていた、ガレス、ソフィア、エレナの三人が喉を鳴らすのがわかった。


少女の腹に触れた俺の手が、ずぶりと飲み込まれたからだ。


「んあー?」


俺は慎重に、少女の体内の中で手を動かす。


側から見たら、俺に腕で体を貫かれている状態だと言うのに、少女に痛覚を感じはなく、依然としてキョトンとしながら俺を見ている。


やがて俺は、自分の手のひらに何か固いものが触れるのを感じた。


ぐっと掌を閉じて、それを掴む。


そして、ゆっくりと少女の体から手を引き抜いた。


俺の手のひらには紫色の魔石が握られていた。


「嘘だろ…?」


リーダーのガレスが目を向いている。


「き、傷は大丈夫なの…?」


「お、お腹に穴が…」


一方で、ソフィアとエレナは少女の腹に空いた穴を心配しているようだ。


俺はそんな二人に言う。


「大丈夫だ。すぐに塞がる」


俺が言うや否や、少女の腹の穴が修復され、あっという間に元に戻ってしまった。


「嘘…何これ…?」


「どうなっているの?」


二人は目の前で起こっていることが理解し難いようだ。


だが、残念ながら俺もこの少女については何も情報をもち得ていないので、疑問を解消することはできない。


「驚くのはまだだぞ。この少女の魔石は、モンスターの元にもなるんだ」


俺は少女の体内から取り出した魔石に魔力を流し、前方に放り投げた。


「「「…っ!?」」」


驚いた俺以外の三人が後ずさる。


俺が投げた魔石がグニャグニャと変形し、やがていっぴきのモンスターへと変化したからだ。


『ブモォオオオオオオオ…』


「ミノタウロス…」


ソフィアがモンスターの名前を口にする。


少女の魔石から作り出されたミノタウロスは、俺たちに向けて殺気を放ってくる。


ガレス、ソフィア、エレナの三人が、思わず武器を構えた。


だが、戦闘にはならなかった。


「めっ!!めええっ!」


『ブモォ…』


少女が突進しようとしているミノタウロスに対して、叱りつけるような仕草をした。


すると突如ミノタウロスから殺気が消え、まるで俺たちに興味がなくなったかのように踵を返して、森の奥へ消えてしまった。


「これでわかったと思うが、この少女にはモンスターの素となる魔石を生み出す力、そしてモンスターを操る力が備わっている。現時点でわかっていることはそれだけだ。原理等は不明。さて、問題はどうやって管理するかだけど…って、ちょっと待った方がいいみたいだな」


俺は三人が口をあんぐり開けたまま固まっているのを見て、彼らが現実を受け入れるまで少しの間待つことにした。




「ひとまずこいつの能力についたは把握した。とても信じられないが…一旦はこういうものとして受け入れよう」


しばらくして。


ガレス、ソフィア、エレナの三人は、一応少女の能力について認識し、受け入れてくれたようだった。


よかった。


三人にこの少女の力を理解してもらえれば、今後の話もスムーズに進む。


「じゃあ、改めて、この少女の今後の扱いについて相談しよう」


この少女はあまりに危険すぎる。


当たり前だが、野放しにしておくわけにはいかない。


「俺たちに取れる選択肢は主に二つ。俺たちの元で管理するか、それともギルドに引き渡すかだ。どっちがいいと思う?」


一応俺の答えは決まっている。


だから、この場で三人の意見を聞いて、すり合わせをしようと言うのが今日この場所にきた目的だった。


「私はもちろん、こっちで管理するべきだと思う。ギルドに預けるなんて冗談じゃないわ」


「ええ、私もそう思う。ギルドに引き渡せば、十中八九王族貴族の手に渡るでしょう?そしたら奴ら、何するかわからない。この子を実験台にするかも」


ソフィアが真っ先にそういい、エレナも同意する。


二人は俺と同意見のようだ。


あとは…


「ガレスはどう思う?」


俺はリーダーであるガレスに水を向けた。


ガレスはしばらく難しそうな表情で考えていたがやがて…



「ああ、そうだな…俺も、お前らの意見が正しいと思う。俺もあまり特権階級の連中は信用してないからな。この少女は俺たちの元で管理しよう。いずれは引き渡すにしても、慎重に時期を見計らってからだ」


「決まりだな」


全員の意見は一致した。


俺たちは改めて、このピンク髪の少女と共に暮らすことになった。


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