第49話
「お、来たな」
「よー、彗星の騎士団さん。遅かったじゃねーか」
「お、ようやく主役のご登場だぜ」
「来たか!待ち侘びたぜ」
「「「「ん?」」」」
ギルドに足を踏み入れるなり、中にいた冒険者たちが一斉にこちらを見た。
何やらニヤニヤしながら俺たちを見守っている。
「おい、お前ら。なんだってんだ?」
「なんなのよ、気持ち悪いわね」
「一体なんなのかしら?」
「…ちょっと不気味だな」
冒険者たちはすでに何かを知っているような顔つきだったが、それを俺たちに教えてくれることはなかった。
仕方なく、俺たちは受付へと進む。
対応してくれたのは、ルーナだった。
「おはようございます。彗星の騎士団の皆さん。今日は皆さんに大切なご報告があって、来てもらいました」
「「「「…っ」」」」
ルーナの神妙な顔に、俺たちはゴクリと喉を鳴らす。
被害請求。
ソフィアの言い出したそんな言葉が頭の中をチラついた。
頼むからいい知らせであってくれ。
そう願う俺たちに向かって、ルーナは言った。
「おめでとうございます!ギルドはパーティー『彗星の騎士団』を、Sランクに昇格させることを決定いたしました!!」
「「「「へ…?」」」」
何を言われたのか、一瞬理解できなかった。
四人して、口をぽかんと開けて固まる。
そんな中、背後で冒険者たちが騒ぎ出した。
「うおおおおおおおお!!!」
「きたあああああああ!!!」
「おめでとう彗星の騎士団!」
「やったな!彗星の騎士団!」
「街の英雄のお前らにこそSランクがふさわしい!!」
「昇格おめでとう!!!」
口々に俺たちを褒め称える言葉を並べる。
それでようやく俺たちにも実感が湧いてきた。
「まじ…かよ…俺たちがSランク…?」
ガレスが信じられないと言った感じで呟く。
「え、本当に…?」
「ドッキリじゃないわよね…?」
ソフィアも、エレナも実感が湧かないようだ。
かく言う俺も、いまだに冗談か何かを疑っていた。
だって…
「本当なのか、ルーナ。だってSランクは…」
「本当ですよ、アルトさん。『緋色の剣士』はつい先日、三回のクエスト失敗及びに、街の防衛戦への加入拒否でAランクに降格しました」
「こ、降格…?あいつらが…?」
「はい。アルトさん。あなたが抜けた後、『緋色の剣士』はクエストを三回、立て続けに失敗したのです」
俺はルーナから、俺が抜けた後の『緋色の剣士』の様子を聞いた。
どう言うわけか、俺を追放した緋色の剣士は、立て続けにクエストを三回失敗。
そして、街の防衛戦にも参加を拒否してとうとうギルドは、彼らを降格させることを決定したのだとか。
「信じられん…あいつらがクエストを三回も失敗するなんて…」
俺にはルーナの話がまるで信じられなかった。
あいつらがクエストを3度も失敗するなんて…
そんなことが果たしてあり得るのだろう
か…?
「アルトさん。正直に申しますと…これはいたって当然の結果だったと思いますよ」
「え、当然?」
「はい」
頷いたルーナは、『緋色の剣士』においていかに俺が重要な存在であったかを説明する。
パーティーの中では比較的目立たないポジションにいた俺が、実はギルド内では一番評価が高かったのだそうだ。
「お、俺が一番ギルドから買われていた…?冗談だろ?」
「いいえ、本当ですよ。ギルド内での認識は、『緋色の剣士』はほとんどアルトさんに支えられているパーティーで、アルトさんがいなくなれば、Aランクにとどまることも難しくなると言われていたんですから」
「そう…なのか?」
「はい。アルトさん。自信を持ってください。あなたはとても優秀な支援職です。役立たずなんかじゃ絶対にないんですから」
「…っ」
ぐっと胸が熱くなるのを感じた。
ずっと自信を喪失していた。
心ない言葉を吐かれ、『緋色の剣士』を追放されてから、自分の実力を信じられなくなっ
ていた。
だが、今、俺はようやく自分が役立たずなんかじゃなかったことを知れた。
ルーナや、新たな仲間、『彗星の騎士団』の皆のおかげで。
「改めて、アルトさん。Sランク昇格おめでとうございます」
「…ありがとう」
「うふふ。アルトさんが元気になってくれて何よりです。では、アルトさんもあちらへどうぞ」
「ん?あちら…?」
俺が後ろを振り向くと、そこではすでにガレス、ソフィア、エレナを囲んでの冒険者たちによるどんちゃん騒ぎが始まっていた。
「「「彗星の騎士団、万歳!万歳!万歳!」」」
「うおおおお!?やめろお前らあああ!?」
胴上げされているガレスが悲鳴を上げている。
「お、俺はいいかな…」
「あら、勿体無い」
俺は丁重にお断りさせてもらって、他のメンバーに視線を移す。
「きゃあああ、おめでとうソフィア様!」
「エレナ様!あなたはこの街の女冒険者の憧れです!!」
「あ、ありがとう…」
「うふふ…そうかしら…?」
ソフィアとエレナは、たくさんの女冒険者たちにほめそやされて頬を緩めている。
男たちの雄叫びに負けないぐらいの黄色い声援が、ギルド内に響いていた。
そんな中、俺の元に駆け寄ってくる冒険者が。
「アルトさん!!おめでとうございます!!」
「おお!君たちは…確か『英雄の原石』、だったか?」
「覚えていてくれたんですね!」
駆け寄ってきたのは、一度臨時パーティーを組んだ駆け出し冒険者の3人。
戦闘に立つリーダーの少年…ユートが俺にキラキラした視線を向けてくる。
「本当におめでとうございますアルトさん!やっぱりアルトさんは僕の憧れです!」
「あはは…ありがとう」
「あの、アルトさん!一つお願いがあります!」
「なんだ?」
「サイン!サインが欲しいんです!」
「え、サイン…?」
「はい!お願いします!」
「別に構わないが?」
「よっしゃあああああああ!!!」
「ええ、そんなにか…?」
ガッツポーズをして喜ぶユート。
たかがサインでこんなに喜んでもらえるなんて、悪い気はしないな。
「ごめんなさい、アルトさん。仲間が騒がしくて」
「あはは、いいんだよ。ええと…カンナ、だったかな?」
「はい。覚えていてくれたんですね」
「もちろん。そっちはエミリだろ?」
「…」
相変わらずしっかり者ポジションのカンナと、深く帽子を被ったエミリそれぞれの名前を俺は呼んだ。
「改めておめでとうございます、アルトさん」
「ありがとう」
「おめ…でとう…ございます…」
「エミリもありがとう」
「それで…そのアルトさん。私からもお願いがあるんですが…」
「ん?なんだ?」
カンナが近くに寄ってきて小さい声で囁いてくる。
「私たち…実はCランクに昇格しまして」
「え、まじで!?」
「はい。防衛戦での活躍が評価されました」
「おお。それはおめでとう!!」
「はい、ありがとうございます…それでですね…その、ユートをちょっとだけ、褒めてくれませんかね?アルトさんにおめでとうって言ってもらえたら、ものすごく喜ぶと思うんです」
「わたし…からも…お願い…です」
「なんだそんなことか。お安い御用だ」
俺は仲間思いなカンナとエミリの意を受けて、ユートに言った。
「ユート。Cランク昇格おめでとう」
「え…」
「防衛戦で活躍したんだってな?本当におめでとう。上級冒険者に一歩近づいたんじゃないか?」
「…っ」
ギュッとユートが唇を噛み締める。
そして、次の瞬間。
「あるどさあぁあああああああん!!」
感極まった表情でバッと俺に抱きついてきたのだった。
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