第33話 ハンバァァアァアアグッからのぉ

 「相席お願いしまーす」

 「「はーい」」

 人気店なのか、この日も相席。

 一緒き座らせてくれた二人組に礼を言ってさっそ注文。


 「お薦めを」

 「お薦めください!」

 「はーい、オークバーグ2入りまぁす」


 ハンバーグは、料理本に乗せていた料理の一つだ。

 早速取り入れてくれていると嬉しくなる。

 ちょっと口角が上がっているから、きっとフーさんも同じ気持ちだ。

 「お待ちどう!これはまだ試作段階だけど、文句無しのお薦めだよ」

 オーク、つまり豚肉のハンバーグと黒パン、野菜スープのセットで1700ギル。

 さぁ、これが高いのか安いのか、食べれば分かる。

 「「いただきます」」


 オークのハンバーグと言うことは、豚肉のハンバーグ。

 豚肉100%のハンバーグは馴染みは無いけど、オーク肉は美味しい豚肉なのでかなり期待している。

 すっとナイフを入れる。

 どうせなら箸で食べたいのだけど、言ってはいけない。

 柔らかさよし。

 肉汁よし。

 ダンジョン産のスパイスを使っているのだろう、香りはとてもスパイシーで食欲を刺激される。


 「ふぉっ!?」

 「ん?」

 スパイスが、口の中で弾けた。

 とても刺激的で驚いたのだが、オークの肉汁が一瞬で刺激を押し流す。

 「これは、癖になる味だな」

 「うん、すごい」


 凄すぎる。

 私のイメージするハンバーグより大分刺激的だけど、美味しい。

 私、この世界の料理人なめてたわ。


 「黒パンと一緒に食べて、エールを飲んでみろよ」

 「最高だぞ」

 「私、未成年なんですけど!?」

 流石に、この見た目で酒を飲もうとは思わないんですけど!

 私の今の体、13歳!

 お酒は成人してから!


 「エール、追加」

 「兄ちゃん!?」

 「俺は、問題無い」

 「兄ちゃんはね!」


 フーさんは成人しているものね!

 くっそ、双子設定にしておけば良かった・・・。

 失敗したわぁ。


 「はーい、お待たせ!」

 エールはフーさんにだけ運ばれて、私は大人しく果実水ですよ。

 あ、因にエールは一杯500ギル。

 

 フーさんはいそいそとエールを口に含み、眉を下げた。

 「何その反応」

 「・・・・温くて炭酸が物足りなくて、後味フルーティー」

 「フルーティー?」


 え?

 エールって、ビールみたいな物でしょ?

 ビールと言えば苦味でしょ、なんでフルーティーなんて言葉が出てくるのよ。

 私、元々ビールはぬるくなった方が好きだから、生ぬるくて微炭酸な事は全く構わないのだけど、フルーティーなビールって微妙じゃね?


 「ぬう」

 どうやらフーさんの好みに合わなかったみたい。

 すっごい顔して、唸っている。

 そうだよね、フーさんは私が良く飲むビールに口が慣れているもの。

 フーさんの顔を見ていたら、飲まなくて良かったかなって思う。

 因にだけど、私が良く飲むのは伝説の獣マークのK社のビールです。

 

 「何唸っているんだ?」

 「早くパンと食ってエールを飲めよ」

 「あ、ああ」

 黒パンをちぎり、ハンバーグの欠片を乗せてもぐもぐしてエールをあおる。


 「どう?」

 「「どうだ、美味いだろ」」 

 「どうも何も」

 あれ?フーさんの眉毛が下がったままなんですけど。

 「普通」

 「フツーかぁ」

 「おま、舌おかしくないか?」

 「ハンバーグに、エールと黒パン。最高だろうが!」

 「あんたらには最高だろうが、俺には普通だ」

 

 男達とフーさんの間に、不穏な空気が流れる。

 ちょっと、食べ物の為にケンカとかやめて!?

 「食の好みは人それぞれです!」

 「「「・・・・・」」」

 「そもそも、お酒を飲め無い私の前で、お酒を美味しく飲みながらケンカするとは何事よ!?」

 「「「す、すまん」」」


 はい、ケンカ終了。

 ハムスターのケンカを止めるには、注意を反らせる事が一番だと何処かで聞いた事がある。

 ちょっと私の情けないヤケを見せちゃったけど、人にも有効ってことだね。


 へっと、息を吐き、みっしり中身の詰まった黒パンを横に割り、ハンバーグを挟む。

 レタスもトマトも無い素っ気ないハンバーガーだけど、こういうのもありでしょ。

 ほら、私まだお酒飲めないしさ。


 「おっ、旨そうじゃねぇか」

 「俺らも真似していいか?」

 「どーぞー」


 あ、相席の人が真似したら周りの人達も真似し始めた。

 フーさんもか。

 いいよー、真似も料理革命の大事な一歩だからね。

 どんどん真似するが良い!

 ああ、でもお酒が飲めないって辛い。

 味は微妙そうだけど、飲んでみたかったな、エール。

 よし、酒屋でフーさんに買ってもらおう。

 

 おう、口の中の水分が黒パンにむっちゃ持っていかれる。

 あと、黒パンってば主張が強いわ。

 んでもって、固い。

 顎が疲れる。


 「黒パンは、ハンバーガーには向かんねぇ」

 「そうだな」

 果実水で水分を足して飲み込む。

 フーさんはエールだけどね!

 あ。でも、美味しい。

 野菜とチーズがあれば、もっと良いと思う。

 「何か挟んで食うには、ちょっと黒パンはかてぇな」

 「だな」

 「ですねぇ」

 

 黒パンはハンバーガーには向かない。

 それが、全員共通の評価だった。

 どんなパンが合うかと食べ終わるまで語り合い、相席していた者達より先に店を出る。


 「美味しかったね」

 「そうだな」

 「そのうち、ハンバーガーをやってみるのもえいんじゃない?」

 「そうだな。あのハンバーグは、衝撃的だった」

 

 銭湯へ向かう道すがら、話題はさっき食べたばかりのハンバーグ。

 今まで食べたことの無い、スパイシーさだった。


 「なぁ、ナナ」

 「なにー?」

 「取り寄せてくれ」

 「任せて」


 何を?なんて、私は聞かない。

 何をかなんて分かりきっている。

 ハンバーガーだ。

 お取り寄せはとっても素敵なスキルで、ありとあらゆる物を手に入れる事が出来る。

 ジャンクフードの代表格のようなチェーン店のハンバーガーから、1個数千円の高級なハンバーガーまで食べる事が出来る。


 うん、私も食べたい

 超食べたい


 「兄ちゃん」

 「あ?」

 「酒屋でエール買って」

 「はいはい」

 酒屋でエールの小樽ゲット。

 いや、ほら、フルーティーってのはちょっと引っ掛かるけど、味は気になるんですよ!


 「「じゃ」」

 銭湯で別れ、

 「明日の朝ごはんさ」

 風呂上がりに合流しても、話題は食べ物について。

 今回の議題は、明日の朝ごはんについて。

 「ああ」

 「屋台に行ってみん?」

 「その心は?」

 「本の広がり具合と、料理人の探求心が予想以上で屋台飯がむっちゃ気になる!」

 「朝の屋台は、パン屋くらいじゃなかったか?」

 「あっ」

 そんなことをグレイが言っていた気がする。

 「そうやった。や、でもさ!」

 「?」

 「さっき、料理の変わりようにびっくりしたやん!」

 「まあ、そうだな」


 そうなの!

 前は薄いかったり物足りなかったりとかで、あまり美味しいだなんて思わなかったのに、さっきのハンバーグはとても美味しかった。

 

 「料理人達は、あの本を思った以上に有効利用している!」

 だから、私は思ったのだ。

 「パン屋も思わん発展をしちゅうかもしれんし、もしかしたらパン屋以外もおるかもしれんで?」

 「・・・それもそうだな」

 フーさんの目が輝く。

 「明日は早起きだな!」

 「な!」

 

 焼き鳥屋は、明日で最後。

 明後日にはダンジョンに帰る予定なので、朝の屋台を巡る機会は貴重だ。

 ま、朝の屋台があるかどうか分からないんだけどね。


 「楽しみやね」

 「パン屋以外に屋台が出ていれば、だがな」

 「あー、そうね」

 それ、結構な問題よね。

 屋台が無かったら、屋台巡りなて出来ないし。


 「屋台があった所で、それが妙な店だったら微妙だな」

 「あ、ちょっとフラグ立てるのやめて」

 「ふらぐ?なんだそれは」

 「嫌な事は口に出したら本当に起こりそうってこと」

 「ああ、言霊というやつか」

 「それそれ」

 本当の所はどうか知らないけど、私はフラグと言霊は似たようなものだと認識している。

 どちらも声に出した言葉だしね。


 「まあ、屋台があるかどうかは商人ギルドに聞きゃわかるだろ」

 「そーねー」

 はい、寄り道決定。

 宿に向かう道をそれ、商人ギルドへ。

 時間的に業務はほとんどやっていないけど、人は常に居るから朝に屋台をやっているかどうかくらいは聞ける。


 結果、朝から営業している屋台は、あった。

 最近、レシピ本に刺激を受けた料理人が、朝市に訪れる客を目当てに、屋台を出すようになったそうだ。

 明日、屋台目当てに朝市へ行くことになった。

 

 「「ただいま」」

 「おう、お帰り」

 「これ、差し入れ」

 「今日中に食べてくださいね」

 部屋の鍵と物々交換するように焼き鳥の包みを押し付け、止めるのも聞かずに部屋へ駆け込んだ。

 手分けして売り上げを数え、支出と収入を帳簿へ書き込む。


 「「おやすみー」」

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