第17話 町へ到着です
地味な色の長袖シャツの上に簡素な革の部分鎧をフーさんの手を借りて着込み、その上からフード付きの前開きローブを着る。
収納鞄であるポーチを腰につけ、指揮棒のような杖と短剣をズボンのベルトに装着。
靴を履いたら、私の準備は完了。
フーさん?
フーさんは既に身支度を終えている。
あっ、いけない。
畑の作物を、良い感じに実が成ったら自動で倉庫に収納されるように設定しないと、せっかくの実りを無駄にしてしまう。
「準備は出来たか」
「ちょっと待って」
靴紐をぎゅっと締める。
これで良し。
フーさんの格好は、地味な色でかつ丈夫な服の上に私が着ている部分鎧より丈夫そうな革鎧を着込み、腰には小剣と2つの収納鞄、左腕のは小型の丸盾を装備。
私とお揃いのフード付き前開きローブを一番上に着ている。
更に、似たような見た目の焦げ茶色のリュックを揃って背負う。
中身?
荷物持ってますアピールをしたいだけなので、おやつと布です。
「行くか」
「はいはーい」
地図で回りに冒険者が居ない事を確認してから、1階層の縁に転移する。
ここから3時間程歩けば、ダンジョンに一番近い町に着く。
町の名前はフィス。
私達が情報収集でお世話になっている町だ。
「多分、あっちかな?」
「あっちだろ、多分」
のんびり歩き出す。
私達が使っている写し身は、実は非常に燃費が悪い。
問題なく活動するため、常に魔力が必要だからだ。
使う魔力は負の魔力でも構わないので、効率的な負の魔力にとても重宝している。
しているのだが、ダンジョンの中にいるなら兎も角、外に出た場合は問題なく活動するために必要な魔力が足りなくなる可能性が大きい。
そこで、電池代わりに負の魔力をたっぷり吸い込んだ101階層に降り積もったダンジョン核の欠片を飲み込んでみた。
うん、飲み込んだ。
欠片の大きさは3cm、飲み込むような大きさじゃないよねぇ。
良く飲み込めたと思うよ。
まあ、私の葛藤やらなにやらは兎も角、結果は大成功。
おまけに何となくなのだが、負の魔力が多くある方向が分かるようになった。
だから、町が何処にあるかなんて知らないのにだいたいの方向が分かる。
人が多く居る所はねー。
どうしたって負の魔力が多くあるものだ。
フーさんと顔を見合せ、お互いにお互いの格好におかしな所がないか確認し合い、そろってよしと頷き合う。
「初めての町だな」
「やね!」
「着いたら、商人ギルドか」
「その前に寝る所やない?」
ここから町までは3時間。
今が11時なので、着くのは14時頃だ。
早めに寝床を確保しておくに越したことはないだろう。
「一応、私等って子供のうちやし、野宿して妙なんに絡まれたら面倒やん」
「・・・・面倒だな」
彼がいったい何を想像したのかは分からないが、嫌そうに私の言葉に同意してくれた。
「宿だな、宿」
「やね!で、その後で商人ギルドに行こう」
ま、屋台の管轄が商人ギルドだったら、なんだけどね。
「そうだな。なら、その後はどうする?」
「どうしようねー」
どんな手続きが必要になるのか、どれだけ時間が掛かるのか、全く分からないのよね。
「屋台巡り?」
「微妙な食べ物を態々食うのか?」
「本ばら蒔いて2カ月やし、大分ましになっちゅうがやない?元々素材は美味しいがやき。まあ、知らんけどさ」
「おい」
「しゃーないやん!フーさんもやけど、私も初めての外出で?他所の食べ物なんて食べた事無いのに比べれんし!」
「まあ、そうだな」
「取り敢えず、食べてみようや」
「そうだな。違いが分からんと、進めようもないか」
「そーそー」
「それよりもな、」
「ん?」
「フーさんじゃなく、兄ちゃんな?」
「あっ」
フーさんはちょっとずつやんちゃな話し方にシフトチェンジしているようなのだけど、私にはフーさんを兄ちゃんと呼ぶのは何となくハードルがたかいのよ。
何だか馴れないし、照れがあるの。
私、姉弟の中でも親戚の子供の中でも一番歳上だったから、兄ちゃんだなんて誰かを呼んだこと無いのよ。
「どうした。呼んでみろよ」
私のもどかしさと照れが分かっているのだろう。
フーさんは、ちょっと悪い顔をしてにやにやしている。
「そのうちね」
「そのうちではなく、今だ。練習だ、練習。ボロが出たらどうするつもりだ」
「ぬおおおぉぉ。にーちゃん!」
「うむ」
にやにやしているフーさんの腕をべしべしと叩き、だらだらおしゃべりをしながら町へ向かうのだった。
で、3時間経過。
写し身はすこぶる優秀なようで、速足で歩き続けていたにも関わらず、私もフーさんも息の一つも切らさず歩ききった。
フィスを囲む外壁はもう目の前。
て言うか、フィスって。
「おっきい町やねぇ」
「そうだな」
ダンジョンに一番近い町だから、正直町って言っても村規模だと思っていました。
けど、実際のフィスは立派な石造りの壁に囲まれた巨大城郭都市。
1周10km位あるんじゃないの?
いや、適当な予想だけどさ。
「結構人がならんじゅうがやね」
「意外だな」
「意外やねぇ」
のんびりだらだら話しながら、列の最後尾に並ぶ。
モニターの画面越しではない生の冒険者達の後ろ姿に、テンションが上がる。
「くふっ」
「おい」
つい漏れた笑いに、フーさんから突っ込まれ表情を引き締める。
でもさー仕方ないやん!
今までモニターでしか見てなかったファンタジー世界の住人が、目の前に居るのよ?
それだけでもう、テンション上げ上げでしょ。
「まぁ、私のテンションは兎も角さ、凄いね」
「・・・・そうだな」
何が凄いかって?
負の魔力です!
ダンジョンを出てからじりじり減っていた欠片の魔力が、減らなくなった。
それどころか、増えているような気がする。
うん、欠片の魔力でいったいどれくらい動けるか分からなかったけど、これで動けなくなる心配は無くなった。
人の発する負の魔力って、凄いね。
「おやぁ、あんた等は始めましてだな。身分証の提示をお願いします」
そんなこんなしている間に、私達の番です。
一目で分かるとは、流石門番。
「あ、すいません。私達、身分証持ってません」
人外ですから!
何ては言えない。
最初に声をかけてくれた門番に促されて列を離れて詰め所へ案内され、フーさんと話して決めた設定を交互に話す。
冒険者だった両親を亡くして、住んでいた村を飛び出して来ました。
森に隠れるような村で、そこにいた人は全員身分証は持っていません。
終わりのダンジョンの縁を雑魚狩りしながらここまで来ました。
「あんた等は、逃亡者達の隠れ村の出身って事か」
「「多分」」
「ま、そこで生まれたのなら分からんか」
真面目に聞いてくれるこの門番さん、多分いい人だわ。
大嘘ついちゃってごめんね?
私達が犯罪者かどうかを判定する魔道具を触らされて、2人分の通行料の鉄貨2枚を払い、図々しくもお勧めの宿と、屋台について聞いてみた。
やっぱりこの門番さん、真面目ないい人なんだろうね。
嫌な顔一つせずに宿を勧めてくれ、屋台についても教えてくれた。
お勧めしてもらった宿で2人部屋を確保して、早速町へ繰り出す。
門をくぐって直ぐもそうだったのだが、通りにゴミは一つも落ちておらず、嫌な臭いもしない。
行き交う人々も、服は古い感じでも妙に小綺麗。
これが、これまでの転生者の成果なのだろう。
「まずは登録だな」
「だねー」
屋台は私達の予想通り商人ギルドの管轄で、屋台を出すためには商人ギルドへの登録と、専門の講習を受ける必要があるそうだ。
「専門の講習ってなんだろね?」
「なんだろうな」
「「・・・・」」
所々にある食べ物の屋台に興味を引かれながら、たどり着いた商人ギルドの建物。
周りと同じ石造りの建物なのだが、一際大きく要所に施された彫刻が繊細で美しい。
中大きな窓と明かりを灯した間道具のお陰で中は明るく、整然と並んだカウンターにまるで銀行のような印象を受ける。
ただ、商談のためのスペースは銀行にはなかったし、銀行と違ってここはとても活気がある。
「商人ギルドへようこそ。御用件を承ります」
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