第16話 いつですか?まだ?
フーさんのもっともな意見でぶん殴られ、私も早速自分用の写し身を作った。
物知らすでもある程度許されるように、見た目は成人前の13歳。
目立つ瞳の色を変えようとしたんだけど、この色はダンジョンマスター特有の色らしくて変える事が出来なかった。
あ、町に入る時はフーさんの見た目も若く変えて行く予定。
フーさんの見た目もは成人である15歳。
兄妹って設定でいく予定なので、フーさんの瞳も私と同じ金と黒の斑な色。
髪は一緒の黒なので、元々お揃いなのでいじらなかった。
若い、青少年なフーさんはこれからますます良い男になりそうな、とっても素敵な男の子だ。
私もつい、すべすべな頬を両手でもみもみ揉みこんでしまった。
「おい、そこを持ってくれ」
「はいはい」
で、今?
屋台を二人で手作りしている所。
いや、主に動いているのはフーさんで、私は助手だね。
フーさんの求める物を取り寄せたり、仕分けたり、押さえたり切ったりしている。
「ねー、最初は何を売るつもりなが?」
「串焼きだ」
「屋台の基本やね」
その証拠に、串焼きの屋台は圧倒的に多い。
「豚串、牛串、焼き鳥もあるけど、何の肉焼くが?」
「鳥」
私のダンジョンで、一番狩りやすい肉が鳥だ。
ワイルドコッカーという名前の、大型犬くらいの大きさの鶏。
次が、豚肉のオーク。
牛肉を落とす突撃牛が、一番の大きくて厄介な獲物になる。
「焼き鳥?えいね」
焼き鳥のタレを広める事が出来たら、もっと良い。
「当然だ。その為に、町へ行くのだからな」
「やね!」
「醤油と味醂、砂糖はどうなっている」
「1階層から、果汁が醤油と味醂になる木の実を生やしちゅうよ。搾りカスはお味噌ね」
誰でも使い易くしたいからね、宝箱の物より味は劣るけど沢山生やした。
もちろん、砂糖と塩も植物から採れる。
万全だ。
「そうか」
「うん。あ、それと、こんなん用意してみた」
私が収納から取り出したのは、質の荒い紙で出来た薄い本のように綴じた紙の束。
これは、こちらの世界の人々でも理解しやすいように編集した、子供向けの料理本。
題名は、ゴブリンでも分かる料理のいろは。
包丁の持ち方から始まり、野菜の切り方の種類、下拵えの仕方と意味、簡単な数種類のレシピが載っている。
ついでに調味料の採れる私のダンジョンオリジナル植物も明記!
至れり尽くせりだと思います!
「ほお、なるほどな」
ぺらぺらとページをめくり、フーさんは面白そうに笑った。
「これを、公開するつもりか」
「うん」
場合によっては公開しない選択もあるが、宝箱から出たということにして公開する事は有だと思っている。
これが広がれば、食の革命の大きな一歩になるだろう。
それに、
「妙に突っ込まれた時の言い訳になるやん」
「これを見て、試している間に料理にはまったと言うことか」
「そうそう。で、これ以外にもレシピが出たって匂わせたらどうかなって」
「受け入れられ易そうな言い訳だな」
「でしょ!」
「良いんじゃないか?」
「やったね!」
フーさんに肯定されると、ますます料理本という考えが良いものに思えるので不思議だ。
「我等が町へ行く前に、それをばら蒔くか?」
「アリだと思います!」
私達が突然屋台を出すより、この本を先に送り出した方が誤魔化しが効きそう。
それ以上に、一歩どころか駆け足で食の革命が進みそうだ。
早速本を100冊程複製し、一冊ずつ宝箱へ入れて1階層の安全地帯近くへ設置する。
こうすれば、本の存在を秘匿する者がいたとしても何冊かは世間に出るだろう。
100冊で足りなかったら、世間に広がるまでばら蒔き続ければ良い。
「だが、一つ問題がある」
「問題?」
そんなものがあるのだろうか。
「我の屋台はいったい何時になったら出来るようになるのだ?」
「さあ?」
「「・・・・・・」」
私とフーさんはしばし見つめ合い、屋台の組み立て作業を再開させるのだった。
「そろそろ、良いのではないか?」
料理本を宝箱にぶっ込んでから2ヶ月、フーさんの我慢に限界がきた。
最初の100冊はとうに世に出、更に追加で100冊送り出した。
「じゃあ、明日にでも行く?」
「これからだ」
「・・・これから?」
「うむ」
フーさんは、行く気満々だ。
これでは、止めても止まってはくれないだろう。
「そっかー。じゃあ、荷物と設定の最終確認したら行く?」
「うむ」
「用意するき、ちょっと待ってね」
「ああ」
畳に布団を敷く。
横に私の写し身を並べ、私本人は布団に横になって目を閉じる。
ちょっとした浮遊感を感じて目を開ければ、私は写し身の中にいる。
はい、魂の一部が写し身に宿りました。
うん、なんかちょっと変な感じがする。
さて、準備準備。
私達は、収納鞄(中)を3つ持って行く。
1つは屋台と、フーさんが選びに選んだ屋台で使う調理器具の数々が詰まっている。
この鞄は、フーさんが持つ。
残りの2つには予めタレを付けて焼いた焼き鳥の串と、まだ焼いていない串、持ち帰り用を包む用の大きな葉っぱを分けて入れてそれぞれが持つ。
勿論、私物は収納スキルで別に持ち運びする。
「俺が兄で、」
「私が妹です!」
フーさんは少年らしい闊達なしゃべりを心がけ、私は方言をあまり出さないようにしつつ子供らしく話す。
「両親が亡くなって、孤児になったら色々あって村を飛び出して来た」
「親が冒険者だったので、色々仕込まれました。なので、ダンジョンの浅い所で魔物狩りながら食い繋いできました」
順番に、人間フーとナナの設定を口にして確認する。
「俺は小剣と盾使い」
「私は魔法使いです」
「俺は、宝箱から出てきた本のお陰げで料理にどはまり。自分の作った物を誰かにも食わせてみたくなったと」
「兄が屋台をやりたいと言うので、喜んで手伝う事にしました。うちの兄ちゃんの作る飯は旨いんで!」
「・・・・こんなものか?」
「こんなものじゃないかな?」
これで本当に行けるかどうかなんて、分かんないよ。
何しろ、私は盗聴で得た知識しか持たないこの世界の素人ですから。
でも、この世界には冒険者ギルドの他に、商人ギルドがある事は知っている。
多分、そこに行ってどうにかしたら屋台を開けるようになると思う。
「町に着いたら、門番に聞いてみようや」
「何をだ?」
「この町で屋台をやりたいんですけど、どうしたら良いですか?って」
「成る程。では、任せた」
「えー」
丸投げ?丸投げなの?
「門番と言えばだいたいが男だ。子供とは言え、男よりも女が聞いた方が口が軽くなる筈だ」
「なるほどー」
どうしよう、納得しちゃったよ。
それは、あるかもしれない。
「じゃあ、門番が女性やったらフーさんが聞いてよ?」
「うむ。・・・我の事は兄ちゃんと呼ぶのではなかったか?」
「あっ。って、フーさんもやん!口調!」
「・・・そうだな」
うん、ちょっと私達色々気を付けないといけないかもね。
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