第18話 商人ギルドへ登録します

 「商人ギルドへようこそ。御用件を承ります」

 物珍しげに建物の中を見回していたら、私達に声が掛かった。

 「「?」」

 揃って振り返ると、そこにいたのは商人ギルドの制服を着た青年。

 でも、彼はエルフ。

 見た目が若いからといって、実年齢が若いとは限らない。


 「商人ギルドへ登録しに来ました」

 「・・・冒険者ギルドではなく?」

 エルフは、不思議そうに首を傾げた。

 彼の疑問は当然だろう。

 私達、見た目だけで言えば商人じゃなくて冒険者だもの。

 「何か問題があるのか?」

 「ちょ、兄ちゃん!」

 不快だと隠さないフーさんに、私はびっくりだよ。

 慌てて隣にいたフーさんの口を片手で塞ぐ。

 “何をする”

 “何をする、じゃないの!いきなり喧嘩腰にならんとって”

 こんな時、印象って大事だと私は思うのよ。


 「うちの兄がすみません。私達は屋台を出したいので、冒険者になるつもりは無いんです」

 黙っておけと、目でフーさんに言ってから手を口から話し、エルフに向けてぺこりと頭を下げる。

 「商人ギルドに登録するには、何処のカウンターに並べば良いですか?」

 カウンターは沢山あるけど、人の並んで居ない所がないのよね。

 どこも、3人は並んでいる。  

 

 「屋台、ですか」 

 「ええ、屋台です」

 「もしかして、あの本を?」


 確信を持った問いかけ。

 ええ、ええ、あの本の存在が広がっているんですね?

 持ってますよ。

 何しろ、私達が出しましたから!


 でも、どういった扱いをされているのか知らないので、明言は避ける。

 エルフの目を見つめて、にっこり笑ってやった。


 ちょっと、何故そこでフーさんが残念そうに溜め息を吐くのよ。

 笑顔での交渉は似合わないとでも言いたいの?

 ちょっと位良いじゃないの。

 似合わないのは分かっているけど、やってみたかったんだもの。


 「・・・なるほど。では、此方へどうぞ。登録と、屋台出店のための手続きを致しましょう」

 と、受付が居ないカウンターへ案内される。

 彼が対応してくれるようだけど、良いのだろうか。

 「どうした」

 「いや、ほら。他の列は並んでるのに、えいのかなって」

 「ギルドの職員が来いと言うんだ。文句があるなら、職員に言うだろ」

 「なるほど」

 ギルドに文句ほ言えないと思うけど、職員が言うんだもの。

 私達は悪くない。


 「お二方、どうぞ此方へ」

 「あ、はい」

 「ああ」

 カウンターへ座ったエルフに笑顔で招かれ、いそいそと彼の前へ座る。

 いつの間にか、椅子が2つ並べられていてびっくりだ。


 早速登録かと思ったのだけど、まずエルフがした事は自己紹介と、商人ギルドに登録する為の一連の流れの説明。

 エルフな彼の名前は、ジルと言うらしい。


 商人ギルドへの登録は、1日では終わらない。

 まずは、商人ギルドへ登録するにたる計算能力があるかどうかを調べる為の筆記試験。

 筆記試験に合格しても、食べ物を扱う屋台をやりたい私達は衛生教育を兼ねた特別講習を2日受けてからやっと登録完了となる。


 因みに、受験料と登録料は1人銀貨1枚。

 日本円に換算して1万円だ。

 結構する。


 「此方の用紙に必要事項の記入をお願いします」

 代筆が必要かどうかは聞かれない。

 商人ギルドに登録しようとしているのに、字が書けない訳がないという事なのだろう。

 ま、私もフーさんも言語に対するスキルは所持していますから、問題ないんだけどね。


 用紙を見ると、書く事は思った以上に少ない。

 名前と年齢、商売の種類と規模このくらい。

 「はい、これで登録試験の受け付けは完了です。試験は今からでも可能ですが、受けられますか?」

 「はい」

 「ああ」

 「・・・そうですか。では、二階へどうぞ」

 「「?」」

 妙な間は気になる。

 気になるが、フーさんと顔を見合せて慌ててジルの後を追いかける。


 私達は知らなかった。

 この世界、町は兎も角田舎は識字率が実はまだそれほど高くなかった。

 田舎から出てきたばかりと思わしき私達に計算が出来るとは、彼は思っていなかったのだ。

 なら試験を受けるかと聞くとか、このエルフ性格悪いって?

 まあ、否定はしない。

 けど商人ギルドにはそんな人達への救済処置があって、彼はそれを進めるつもりだったらしい。

 


 そんなこんなで登録試験。

 私達が挑むのは算数の問題100問。

 まあ、足し算引き算は商人の基本だし、かけ算割り算は出来た方が便利だろう。


 私、暗算って苦手なんどけどなぁ


 フーさんは手を一切止めずに、ガリゴリ紙にペンを走らせている。

 私は手を止めて考えながら、時間をかけて100問解き終わる。

 

 解き終わるとジルにさっさと問題用紙を回収され、その場で採点され結果を発表される。

 思っていた以上に早くて有難いのだけど、目の前で採点されるって緊張する。

 どきどきしながら出た結果は、2人共合格。

 フーさんってば満点合格で、どや顔がムカついたから思わず脛を蹴っちゃったよ。

 私?暗算は苦手なんですぅ。

 合格したから良いんですぅ。


 まあ兎も角、講習の日程を聞き、講習が修了までの仮ギルド証を受け取る。

 仮ギルド証ではまだ商売は出来ないが、身分証としての機能は十分なので門の通行料は必要ないそうだ。

 私達の、と言うか次の衛生の講習は3日後。

 講習が終わって正式なギルド証を貰えたら、直ぐに屋台出店の申請が出来るように申請用紙をもらって、商人ギルドを出る。


 「・・・結構、時間掛かるがやね」

 「そうだな。甘く見ていた」

 「うん」

 歴代転生者、衛生に五月蝿すぎん?

 や、臭く無い清潔な生活が当たり前なのはとても有難いんだけどさ、清潔である事への拘りが半端ない。

 さすがに、ちょっと引いちゃう。

 

 「じゃ、屋台巡りする?」

 「ああ」

 「あの本が結構出回っちゅうみたいやし、楽しみやね!」

 「元々素材頼みなんだろ?期待は半分だけにしておけよ?」

 なるほど、期待が大きすぎると期待外れだった時にがっかり感が大きいってわけね。

 「はーい」

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