第19話 料理の発展はこれからです!

 初めての屋台は、オーソドックスに串焼き。

 それも、態々ワイルドコッカーの肉を使った串焼きの屋台を巡って、買い集めた。

 「さて」

 「さてさて」

 広場の隅、ひっそり目立たない場所のベンチに座り、収納鞄から串焼きを取り出す。

 私達の収納鞄の中は時間が止まっているので、温かい物は何時までもぬくぬくだ。


 「どれから食べる?」

 串焼きは、どれも同じように葉っぱで包まれていて中身は分からない。

 だからだろうか、どれを開けて食べようかワクワクする。

 「では、これにしよう」

 「しようしよう」

 

 コッカー肉は、ハーブらしき緑色の欠片に程好くまみれ、ハーブの爽やかな匂いとこってりな油の匂いに食欲をそそられる。

 「美味しそう」

 「だな」

 「「いただきます」」 

 ぱくっと一口。

 

 「・・・なんかさ、」

 「ああ」

 「なんか、物足りんがやけど」 

 「そうだな」

 不味くはない。

 肉自体は美味しいのだけど、何かが足りない気がしてたまらない。


 「ハーブの匂いが、口の中に入ると薄い」

 「塩が使われていない」

 「あー、これ塩が無いがかぁ」

 減塩食にも程がある。

 「ハーブが素材の味を微妙に邪魔している」

 「肉は美味しいのにねー」

 「ハーブは一種類だけでなく、組み合わせればもっと良くなるだろうに」


 魔物の肉は、動物の肉よりも美味しい。

 何もしなくても美味しいからこそ、料理が発展しなかった事がとても残念。

 「此処の店の人は、本を見ちょらんがやろうか」

 「本の閲覧がタダでは無いとか?」

 「なるほど!」

 商人ギルドなのか、冒険者ギルドなのかが本の閲覧に金を取っているか、写本して売るなりしていそうだ。

 「なら、もっとばらまいちゃる!」

 それはもう、料理本の商品価値が無くなるくらいに。

 ばらまきよ、ばらまき。

 「それは、帰ってからな」

 「ん」

 ダンジョンの外から、設定を弄る事は出来ない。

 料理本を入り宝箱を追加するのは、ダンジョンに帰ってからだ。

 いや、宝箱に態々入れる必要なんて無いね。

 1階層にあちこち設置した安全地帯に平積みしてやる。


 「言葉」

 「・・・気を付けます」


 気を取り直して、自分の収納からハーブソルトのボトルを取り出して串焼きに振る。

 無言で伸びてきたフーさんの手に、ハーブソルトを渡す。

 彼も自分の串焼きにハーブソルトを振りかけ、私の手にボトルが戻ってくる。


 無言で串焼きを胃に収め、次の串焼きへ。

 「醤油か?」 

 「ぽいね」

 この串焼きは、先ほどの物と比べて茶色っぽい。

 串焼きを嗅ぐと、香ばしい良い匂い。

 間違いなく焼けた醤油の匂い。

 ま、使っているのは宝箱から出た醤油ではなく、ダンジョンのあちこちに生やしたショウの木の

実を搾って採った醤油だろう。

 何しろ、宝箱と木じゃ取れる量が違うからね。


 「塩がきつめだな」

 「いっぱい動いた後なら兎も角、今はちょっと塩がきつすぎるね」

 醤油に漬け込んで、更に塩を振っているんだろうか。

 まだそんなに汗をかいていない体でこの塩はちょっと強すぎる。

 「ナナ」

 「ん?」

 「鑑定してみろ」

 「ほいほい」


 「た、宝箱の醤油使っとる!?」

 木の実の方だと思ったのに!

 そっちの方が絶対に安上がりなのに!

 そう言えば、この串焼き他よりもちょっと高かった。

 串焼き1本がだいたい鉄貨3枚だったのに、此処の屋台は1本鉄貨4枚だった。

 

 「冒険者達は、ショウの木の事を知っているのか?」

 「あの本に、調味料になる実は載せちゅ・・・載せてるよ?」

 「そうか」

 なのに何故、この串焼きは宝箱産の醤油を使っているのか。

 ショウの木の実の醤油を使った方が絶対に安いのに。

 

 あとこの串焼き、醤油と肉以外の味もほんのり感じる。

 「なんや、なにかな?」

 「葱だな。醤油に漬け込んでいる筈だ」

 「へぇ」

 良く分かるものだ。

 「流石料理人」

 「お前も、一応料理はするだろうが」

 「私は、ただするってだけだもの」

 その程度の者が、料理人な訳がない。

 「私は売り子ですから」

 「出来ない訳でもないのに、この面倒臭がりめ」

 「はーい、面倒臭がりです!」

 「ちっ」

 「なんで!?」

 何故、フーさんの言葉を肯定しただけなのに、舌打ちをされなきゃいけないのよ。

 

 「次だ」

 「あ、はい」

 それから、ひたすら串焼きを食べ続けた。

 味はどれも少し物足りなかったけど、きっと、今はまだ何処の屋台も試行錯誤の最中なのだろう。

 見た目は同じようの串焼きでも、微妙に味や匂いが違っていて面白かった。

 これからに期待だね。



 「「せんとう?」」

 ぶらぶら散歩しながら宿に戻ったら、宿の主人から声をかけられた。

 此処の宿の主人は、妙にがたいが良くて人相が悪い。

 ライトノベルで良くある元冒険者の宿屋の主人なのかもしれない。

 「ああ。風呂札を渡すから、銭湯に行く時は声をかけてくれ」

 ふろふだ?

 せんとう?

 あっ、風呂と銭湯か!

 この町、銭湯があるの!?

 「なんだ、それ?」

 私が飛びつく前に、フーさんが不思議そうに首を傾げた。

 あ、そっか、私達は訳あり村の出身って設定だった。

 訳あり村に風呂とか銭湯があったらおかしいよね。

 フーさんナイス。

 私はその設定を忘れていたけど、フーさんは普通に知らなかったからの反応だよね。


 「銭湯を知らないのか?。よっぽどじゃない限り、どんな辺鄙な村にもあるはずだが」

 「あー、私達の村、よっぽどだったみたいで」

 「ほお」


 “ほら、フーさん。話し合わせて!”

 “お?おお”


 「外壁の門のとこの人で知ったんだが、俺達の生まれた村はよっぽどだったらしい」

 「おいおい、訳あり兄妹かよ」

 宿の主人に呆れ顔をされてしまった。

 「言っておくが、犯罪はしてねぇぞ」

 「そもそも、村を出て此処に来るまで、うちの村が訳ありって知らなかったもんねぇ」

 「だなぁ」

 「安心しろ。あんたら兄妹は門番の紹介で来ただろ?その時点で、犯罪の可能性は少ないと分かっている。訳ありの可能性はあるがな」

 「「なるほど」」

 納得しました。

 犯罪者とは思われていなかったけど、訳ありかもとは思われていた訳ですね!

 「銭湯も無い村の出身だとは思わなかったがな」

 主人は呆れたように鼻を鳴らし、銭湯と風呂札について説明してくれた。


 終わりのダンジョン周辺諸国連合では、国王や領主には国内や領内の町や村に銭湯を設置する義務がある。 

 銭湯は公営で運営され、住民証を持つ住人は格安料金で入る事が出来る。

 住人証を持たない冒険者や旅人であっても、宿屋組合所属の宿であれば、風呂代が宿泊費に組み込まれているので宿が渡してくれる風呂札を番台で渡せば問題無く風呂に入る事が出来る。


 「「へぇー」」 

 毎日風呂に入っている私達からすれば有難い情報だ。

 でも、銭湯の設置義務があるとか、本当にどれだけ清潔衛生にうるさいのよ転生者!?

 有難いよ?

 有難いけどさ、ちょっとやり過ぎじゃね?


 「夕方は住人で混むから、早めに行くか遅く行った方が良いが。あんたらは早めに行っておけ」

 分かります。

 遅い時間に行って、柄の悪いのに絡まれないようにですね!

 「「はーい」」

 「あと、調理場の使い方は分かるか?」

 此処の宿、部屋は綺麗なのだが安いのだ。

 その理由が、部屋が狭くて食事が出ない事。

 「勿論」

 「ああ、そう言えばあんたらは屋台を出す為に来たんだったな。で、どうする?」

 主人は顎で壁掛け時計を示す。

 歩き回ったとは言え、まだ3時前。

 風呂に入るのは早すぎる。

 「銭湯には、晩飯を作ってから行く」

 「うん」

 銭湯は、晩ご飯を作ってからの方が都合が良い。

 だって、汗かくし。

 「そうか。調理場はそこだ、好きに使え」

 「「はーい」」

 と言うことで、帰って来て早々に晩ご飯を作る事になった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る