第20話 おーふーろー!

 さて、今日の晩ご飯。

 メインは野菜たっぷりサラダうどん。

 おかずとおつまみ兼用でニラチヂミ。

 食後のビールがとても楽しみです。

 でも、私のつまみ食い防止のために、チヂミは即行でフーさんの収納に仕舞われてしまった。

 ちょっと悲しい。


 「ごしゅじーん!」

 「どうした?」

 大声で呼び掛けると、裏からのそのそとやって来た。

 「銭湯に行ってきます!」

 「ああ、風呂札だな」

 「ありがとうございます!」

 主人から渡されたのは、マッチ箱サイズの小さな木札。

 入浴券、と此方の文字で焼印が押されている。


 「なあ、ご主人」

 「グレイだ」

 名前を教えたくれた。

 これはつまり、名前で呼べと言うこと。

 私達が名乗れば、親しくなるための一歩が踏み出されると言うもの!

 「フーだ」

 「ナナです」

 「よろしく」

 「よろしく」

 「よろしくお願いします」

 はい、一歩が踏み出されましたー。


 「それで、聞きたい事は?」

 「銭湯に持っていくべき物はあるのか?」

 「桶と石鹸とタオル。それから着替えだ」

 宿ではお風呂セットの販売もしているようで、グレイは受付カウンター下から小さな石鹸とタオルの入った桶を2つ取り出した。

 1セット1000ギル、銅貨1枚。

 シャンプーとリンスはあるものの別売とのことなので、買わない。

 でもお風呂セットは買った。

 だって、銭湯を知らないのにお風呂セットを買わないなんて不自然でしょ。

 「まいど」

 取り敢えず、お風呂セットをそれぞれの収納鞄に入れて、また出かける。


 現在午後4時。

 銭湯はこの町に複数ヶ所あるので、一番近くの銭湯へ行ってもまだそんなに混んでは居ないと思う。

 「シャンプーとリンス、入れ替えてて良かったよー」

 瓶に移し替えたシャンプーとリンスをフーさんに手渡す。

 うん、標準語って喋り辛い。

 けどまあ、頑張る。

 「タオルは?」

 「くれ」

 「ですよねー」

 セットで買ったタオルは、安いからなのかペラペラでごわごわ。

 水の吸収も良くなさそうなので、彼方産のタオルが断然品質が良い。

 あ、でも変に目立ちそうなバスタオルを渡さないだけの分別はありますよ?

 「何本いる?」

 「2本」

 「はいはい」


 「雑貨屋も見てみんとねー」

 「そうだな」

 品質の違いに気付かれて、変なのに絡まれたら面倒だもの。

 「あの石鹸、ちゃんと泡立つかな?」

 「石鹸は泡立つ物じゃないのか?」

 「あー」

 フーさんは、私が彼方から持ち込んだ石鹸しか知らない。


 「私も石鹸は泡立つ物しか知らんけど、昔の石鹸は泡が立たんあんまり質の良い物じゃなかったらしい」

 「そうなのか?」

 「うん」

 なので私、あの石鹸がちゃんと泡立つのかどうか心配だ。

 「・・・今日使ってみて泡立たんかったら、宝箱から出すようにするわ」

 「ああ」

 明日の私達の予定は、石鹸の泡立ちによって決まると言っても過言ではない。

 

 あ、因みに宿から一番近い銭湯は徒歩3分。

 入口から入れば見た目は石造りなのに、中にはふんだんに木が使われておりなかなかの違和感があった。

 小さく区切られた靴箱に脱いだ靴を入れ、戸を閉じて白い石に魔力を通せば白い石が黒く変わって施錠完了。

 これは魔道具で、脱衣場のロッカーにも同じ魔道具の仕掛けがあるらしい。

 なんとも、ハイテクな仕組みだ。


 「「じゃ」」

 男湯と女湯に別れて入れば、番台越しに目が合う。

 「「・・・・・」」

 仙人のような目をしたおじいちゃんに風呂札を渡し、フーさんと目が合った事を忘れることにした。

 きっと、フーさんも今頃忘れているだろう。


 うん、さあ、風呂だ。

 住人達が入るにも、冒険者達が入るにもまだ早いのだろう。

 妙に筋肉質で体格の良いお姉様や、姿勢の良いおばぁ様が脱衣場や浴場に数人だけ。

 おばぁ様方は兎も角、お姉様方のボディーは素晴らしい。

 眼福だ。


 周りの思い切りの良い脱ぎっぷりの方々に習い、ぺいっと服を脱いで浄化をかけて収納鞄へぽい。

 洗濯は、家に帰ってからしよう。

 浄化で十分綺麗になる事は分かっているんだけど、気持ち的に洗濯機で洗って干さないと嫌。

 新しい服と下着、タオルを用意して桶にシャンプーとリンスを追加して入れ、ロッカーを閉めて鍵をすれば準備オッケー。


 え?セットのタオル?

 ボディーを洗う用ですけど何か?


 「おお」

 浴場への木戸をからりと開けると、むわりとした蒸気と喧騒。

 女湯は兎も角、男湯が妙に賑やかだ。

 良く聞き取れないが、わいわいしている。


 「お隣お邪魔します」

 「あいよ」

 ぺこりと頭を下げながら、洗い場へ。

 転生者の清潔衛生への執念はすごい。

 魔道具で、シャワーや蛇口を完全再現しているんだもの。

 つまみを捻れば温度調整まで出来る。


 「しっかし、今日の男湯わうるさいねぇ」

 頭を洗う私の隣で、女冒険者達が話し始める。

 今日の男湯は、いつもよりうるさいらしい。

 ついでに言えば、体を洗う彼女達は石鹸の泡でもっこもこしている。

 泡がとても凄いので、セットの石鹸ももしかしたら期待出来るのかもしれない。


 「あー、今回の依頼は3パーティー合同だったからね。いつもより男共が多いんだし、仕方ないよ」

 「それでもねぇ、限度ってものがあるわよ。ちょっと、静かになさい男共!一般人に迷惑掛けたら、一物をちょん切るよ!!」

 『へい、姉御!』

 男湯へ女冒険者の怒声が飛び、ぴしっと揃った返事が返ってきた。

 壁の上の方が格子状に開いているので、隣の浴場の声が良く聞こえる。

 

 冒険者って荒っぽいイメージが強いけど、女性が上に立ったりもするがやねぇ


 「うるさくしてごめんよ」

 「え」

 泡を流してリンスを取ろうとしたら、隣の人に謝られた。

 なんで謝られたのか、良く分からない。

 

 「隣でうるさくしてたの、私達の仲間なんだよ」

 「そんな!謝らないでください」

 リンスの瓶片手に、隣を振り返る。

 適度な筋肉でボンキュッボンなナイスバディな大人の女性が3人も並んでた!

 眼福です!!

 年頃は3人共30代半ばから後半位。

 真ん中の人は他の2人と比べて細身だから、魔法使いかもしれない。


 「わいわいしてて、楽しげで良いと思います」

 「それをうるさいって言うんだよ、お嬢ちゃん」

 感じ方はその人次第って事かな?

 「・・・・なるほど」

 「見ない顔だけど、此処は初めて?」

 真ん中のお姉様に聞かれた。

 そう聞くって事は、彼女達はこの町に住んで長いのかもしれない。

 私と同じ新参者なら、見ない顔とか言えないでしょ。

 「はい。兄と一緒に来ました」

 「お兄さんと?まだ10才くらいなのに大変だったのね」

 何か勘違いされた!?

 私、実年齢は兎も角として、この体の歳は10才ではなく13才ですから。


 「あの、私13才です」 

 「あら?」

 3人共、私を10才だと思っていたようだ。

 真ん中の人だけでなく、左右の人まで驚いたような顔をしている。

 「ま、まあ、成長の早さは人それぞれよ!」

 「大丈夫だ、そのうち大きくなる!」

 「13才なら、まだ希望はある!」

 3人共、フォローになってないから!

 少々凹まされながら、何とか頭お体を洗って湯船に浸かる頃には何だか妙に疲れてしまった。

 3人とは、初対面ながら色々聞いたり話したりして、それなりに仲良くなれたと思う。


 「ナナー!上がるぞー!」

 「はーい!」

 「お兄さん?」

 「そうです。それじゃ、お先です」

 フーに男湯から呼ばれて、3人より先に上がる。

 「講習、頑張ってね」 

 「屋台を見つけたらよさてもらうよ」

 「ありがとうございます!」

 顧客ゲットかな?

 さあ、宿へ戻ったらご飯だ。

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