第24話 はいはい、追加ですよっと

 早足で歩いて、戻りの所要時間は行きよりも早い2時間半。

 冒険者や、そうでもなさそうな人に混じって私達もダンジョンへ突入。

 人目を避けて100階層目の家の前へ転移。


 帰宅。


 「ただいまー」

 「戻った」

 「フーさん。その見た目でその口調は合わんで?」

 「こちらの方が楽だ」

 「まー、フーさんはそっちが地やろうけどさー」

 少年の見た目で、口調が爺くさいってどうなのよ。

 違和感しか感じないんですけど。

 いや、聞くの私しかいないけどね。


 あ、フーさんの見た目が見慣れた壮年に戻った。

 見た目と口調がぴったり合いますね。


 玄関前で体や服に付いたホコリをはたきおとし、全身に浄化をかけて改めて家へ入る。

 昨日出だばっかりだからね、何の感慨も無い。

 ただ、倉庫には人形達が収穫してくれた家庭菜園の野菜が幾つか入っていた。


 写し身から元の体に戻ってフーさん手作りのクッキーと、私の煎れた緑茶で取り敢えず一服。

 モニターを付けて好きにいじるフーさんを横目に見ながら、私はタブレットを取り出してぽちぽち。

 砂糖や塩の実がなる草。

 シュガーボールやソルトボールのように、寒天の実がなる草が1階層から生えるように設定する。

 1階層の宝箱から出てくる物に、卵、牛乳、バターを追加。

 ついでに石鹸とタオルを2階層の宝箱に追加。

 

 設置してあった料理本入り宝箱を全て回収して、1階層の安全地帯に1人一冊までと書いた看板を立てて机の上に積む。

 勿論、一回のダンジョンアタックにつき1人一冊しか持ち出せないように設定済み。

 お菓子のレシピは何処に置くか迷ったのだけど、お菓子の出る6階層目の安全地帯に設置することにした。


 「こんなものかなぁ」

 広く、あちこちにレシピが広がればいい。

 そうすれば、微妙な味の料理も更に先へ進む筈だ。

 たぶん! 


 「んー、パウンドケーキはアレンジのしがいがあって良いが、まずは寒天の使い方の実演だな」

 6階層へ設置したお菓子のレシピ本は、既にフーさんに進呈済み。

 クッキー、パウンドケーキ、ホットケーキ、スポンジケーキ、ゼリー、ジャムのレシピを記載。

 プリンは蒸し器があるかどうか謎だったので、やめた。

 それから、必要な道具と使い方、ダンジョンで採れる材料まで載った一品。

 その名も、ゴブリンもうっとり魅惑のお菓子。


 「さて、」

 「おでかけ?」

 「1階層でワイルドコッカーを乱獲してくる」

 焼き鳥用ですね。

 「いってらっしゃい」

 「ああ」

 材料なんて、何時でも好きなだけ出せるんだけど、フーさんにはフーの拘りがあるのだろう。


 「タレの材料の用意だけしちょくか」

 フーさんは肉を手に入れる為に1階層へ行ったのに、私がゴロゴロしているのも外聞が悪い。

 何をどれくらい混ぜているのかは知らないけど、何を使っているかは当然知っている。

 「あと、晩ご飯の用意くらいはせんとねぇ」

 冷蔵庫には何があったかな?



 「狩りすぎじゃね!?」

 フーさんったら、ワイルドコッカーを100羽以上狩って来た。

 ドロップ品になるから丸1羽よりは小さくなるけど、ワイルドコッカーってセントバーナード犬くらいの大きさがあんの。

 何処の部位が残るかによって大きさはまちまちだけど、最低でも5㎏はお肉残るの。

 100羽も狩っちゃったら、最低でも500㎏はあるのよ。


 「無くなるまでは、焼き鳥屋だ」

 「その後はゼリー?」

 「ああ。どんなゼリーにするか、今から楽しみだ」

 「お手伝いするき、味見させて!」

 「良かろう。ただし、焼き鳥の串うちに手は出すな」

 「はーい」

 串うちって、地味に職人技やもん。

 自分の手を串で刺しそうになって、私には向かんと自覚したよ。

 フーさんから串うち禁止令も出たしね。

 私は、肉切り係です。


 「でもさ、串うちよりも先にご飯にせん?」

 今日の晩ご飯は、鯖の塩焼きとオクラのおかか炒め、大根と里芋の味噌汁。

 最近はフーさんが率先してご飯を作ってくれるので、久々に料理をした。

 不味くはないと自負している!

 「・・・そうだな」

 肉と串肉をフーさんに片付けてもらい、私の収納からご飯を出して座卓に並べる。


 「「いただきます」」

 「それで、パンはどうした?」

 「!?」


 はっとしました!

 思わず、箸を落としそうになっちゃたよ。

 「まさか」

 「・・・忘れちょった」

 「おいおい。忘れるなよ、大事な事だろう」

 「ごめんごめん」


 ごちそうさまをしてから、片付けはフーさんがやると言ってくれたので、お礼を言ってタブレットをぽちぽち。

 

 この世界で酵母が認識されているのかどうかは、分からない。

 少なくとも、グレイに味見させてもらったパンに酵母は使われていなかったらしい。

 天然酵母の作り方は必要だよね。

 天然酵母の材料を私はリンゴと干ブドウしか知らないけど、この世界の果物からも出来るかもしれないから、“色々な果物で試してみてね”とも書いておくことにする。


 「ん」

 「ありがとう」

 フーさんが、程好くぬるい緑茶を淹れてくれた。

 「ねー、ちぎりパンってどう思う」

 「どうも何も、なんだそれは」

 「これこれ」

 タブレットの画面を、フーさんに向ける。

 ちぎりパン。

 元の世界でブームになった事のある、フライパンで作れる簡単なパンだ。

 「酵母さえあれば、簡単で良さそうだな」

 「じゃ、採用」


 戻って来たタブレットをぽちっとして、ちぎりパンのレシピを本に採用。

 あとは、フーさんご希望の食パンとロールパン、バゲットのレシピを追加。

 「フーさん、私クロワッサンが好きながやけど。特に、プレーンなのとウィンナーが丸々一本inされちゅうやつ!」

 「良いんじゃないか?」

 「はーい」

 クロワッサン、追加決定。

 「フーさんは何パンが好き?」

 「ガーリックトースト」

 「ガーリックトーストのダンジョンに出しゆうき、そのうちパン屋に並びそうやねぇ」

 「そうだな」

 「楽しみやねぇ」

 「ああ」


 ま、フーさんの好きなガーリックトーストはレシピに載せなくていいでしょ。

 なんなら、後からレシピを追加してもいい。

 「パンのレシピ本さー、何階に置いたらえいと思う?」

 「2階層で良いのでは?」

 「じゃ、それで」

 題名を付けて、本の形にして2階層の安全地帯全てに設置。

 勿論、フーさんにも進呈。

 本の題名?

 『ゴブリンでも捏ねれるふっくらパン』です。


 「お、冒険者らぁが慌てゆう慌てゆう」

 唐突に出てきた台とレシピ本に慌てる冒険者達を見て、にやにや。

 「そなた、ゴブリンシリーズが好きだなぁ」

 「分かりやすくてえいやろ。フーさんは串うちせんが?」

 「手伝ってくれ」

 「はーい」

 肉切りですね?

 任せてください、おんなじような大きさにぶつ切りますとも。

 左手を少し生臭くしながら、大量の生肉をぶつ切りにした。

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