第23話 探し物はありますか?

 此処の店の陳列のやり方は、馴染みがある。

 これは、あれだ。

 「カ○ディ」

 「なんだそれ」

 「元おった所にあったお店」


 うん、間違い無い。

 この、ちょっとごちゃっとした、幾つも区切られた棚にびっしり整然と並ぶ商品。

 目移りするほどの品数。

 見ていてとっても楽しい。


 「ふぅん。そんなに似ているのか?」

 「商品の並べ方がそっくり」

 「へぇ」

 「でも、食べ物の陳列ってなんか少ないね」

 「穀物と豆は見本だけか」

 「嵩張るもんねぇ」

 納得である。


 「で、なんだっけ?」

 「バター」

 「あれは、常温だと溶けるだろ」

 「うん」

 冷蔵庫的は見あたらない。

 衛生に命を掛けているような転生者なら、冷蔵庫は作っていると思ったんだけど、宛が外れた。


 「ナナ」

 「なにー?」

 「これ見ろよ」

 フーさんが何か見つけたようだ。

 呼ばれてほいほい近づく。

 「これこれ」

 「おおー」


 壁に掛けられていたのは、木製の値段表。

 此処には並べられていない高級品の酒や香辛料の他に、バターと牛乳、卵が一緒に並んでいた。

 「「たっか」」 

 バターと牛乳、ついでに卵は高級品のようだ。

 卵1個が鉄貨6枚。

 こちら風に言えば1個600ギルだし、日本風に言えば1個600円だ。

 超たっかい。

 どんな高級卵だっての。


 「これじゃ、あちらのレシピを広げるのは難しそうだな」

 「やねぇ」

 想定外の障害だわ。

 「これは、価値を下げるしかないよね」

 「まあ、美味い物の為だし、仕方ねぇか」

 「仕方ないない」

 ふふ、バター、牛乳、卵は1階層から出す事にする。

 勿論、1階層から出る物の品質は少し落とす。

 とりあえず、忘れないようにメモる。


 「チーズはどうする?」

 「じゃ、3階層目からで」

 全部1階層目から出すのもどうかと思うしね。

 忘れないうちにメモメモっと。

 「あと、なんだったけ?」

 「あー、ジャム?」

 「そうそう」

 ジャムジャム。

 あるかな、ジャム。


 フーさんと手分けして食品コーナーで、改めてジャムを探す。

 ジャムジャム。

 「お、」

 ジャムではなくて、生の果物を見つけた。

 これ、うちのダンジョンから出してるミカンじゃないのよ。

 あ、林檎もある。

 「たっか」


 終わりのダンジョンでしか手に入らない、この世界には無い果物とかいう謳い文句で、びっくりするような高値で売られている。

 えー、果物なんて私、じゃんじゃん出しているんですけど?

 なんでこんなに高いの?

 あ、1階層から出してるドライフルーツまで高い。

 なんで?


 「こっちは無かったが、そっちはどうだ。どうした?」

 「いや、これ」

 フーさんは、ジャムを見つけることが出来なかったようだ。

 まあ、私も見つけれていないんだけどね。

 「ん?・・・たっか」

 「でねぇ。なんでこんなに高いんだろね」

 「貴族の方々からの需要が高いからです」

 果物の前で首を傾げていたら、見かねたらしい店員さんに声をかけられた。

 お手数おかけします。


 「「貴族?」」

 「はい」

 なんでも、終わりのダンジョンの周辺諸国だけでなく、ダンジョンと接していない国の貴族達までもがこの世に無い果物の珍しさの虜になってしまったそうだ。

 なので、あればあるだけ求めるられて、どれほど入荷があっても品薄となり、高値が続いているそうだ。


 “たかが果物なのにね”

 “だな”


 店員には感心している素振りをみせながら、念話では揃ってぼやく。

 私達としては、手を加えていない素材としての果物よりは、料理に注目してほしいのだ。

 「終わりのダンジョンから出る料理はどうなんだ?」

 フーさんの問いかけに、店員は大変良い笑顔で微笑んだ。


 「それはもう、入荷した瞬間に完売する一番の人気商品です」

 「「へえ」」

 いいね。

 一番人気だなんて、出した甲斐があるよ。

 

 それから店員と軽く話をして確認したが、やはりジャムは無かった。

 砂糖も塩も、1階層からある不思議植物の実として採れるので値段は安定しているが、それまでは貴重品であったので、使用法はまだまだ発展途上だった。

 ただ、ここ最近は終わりのダンジョンから出てくる甘いお菓子に影響を受け、試行錯誤が続いているそうだ。


 「パンだけでなく、お菓子のレシピも出すべきかな?」

 「そうだな」

 商人ギルド直轄店を出て、外壁の門を目指して歩きながら小声で相談する。

 「お菓子の基本って、何かな?」

 私、お菓子ってクッキーくらいしか手作りしたことないのよねぇ。

 「クッキー、パウンドケーキ、プリンにゼリーかな」

 「クッキーとパウンドケーキは兎も角、プリンとゼリーって難しくない?」

 「そうか?」

 「うん」

 プリンはこの世界に蒸し器があるかどうか謎だし、ゼリーは寒天とゼラチンをどうするかが問題だ。


 因みに、ライトノベルで良くあるスライムを使ってゼリーを作る事は出来ない。

 スライムからドロップするスライムゼリーは、食用ではない。

 スライムゼリーは、水を通さないことから撥水素材として、または弾力を利用して枕やベッドの素材、車輪の衝撃吸収材として大変重宝されている。

 さらに、簡単に再利用出来て加工も容易な素材なので、使いきりの食器や入れ物にもなる。

 そんな便利な素材のスライムゼリーは、食べても消化できないので、お腹の中が大変なことになる。

 なので、食用不可。


 「寒天か」

 「そう」

 「塩や砂糖みたいに出来ねぇか?」

 塩や砂糖は、植物の実として私でもどれくらい出ているのか分からない程ダンジョンから持ち出されている。

 そんなかんじで、寒天も出せないかと言うことか。

 出せるのは塩と砂糖の経験で確信しているけど、問題がある。

 「寒天出して、この世界史の人は寒天って分かるかな?」

 「・・・・」

 そう、この世界にゼリーは存在しない。

 寒天も、ゼラチンも発見されていない事が原因かのだが、寒天が何かこの世界の人が分からないと意味がない。


 「そのうち俺が作って売るから、レシピは入れておいてくれ」

 フーさんが作って売ったら、使い方が分かって人気が出るかもしれない。

 「オッケー」



 「ダンジョンか?気を付けろよ」

 「はーい」

 「ああ」

 昨日の門番に見送られて町を出る。

 出る時は、入る時とは違ってすっごく簡単だった。

 何の手続きもない。


 「さっさと戻るぞ」

 「おー!」

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