第4話 1日目、最後の衝撃
「うっわ」
負龍を封じている101階層目をまず見てみたら、何も見られなかった。
真っ黒なナニカが充満していて、そこで眠っているはずの負龍の姿が見えない。
あの子供から植え付けられた知識によれば、負龍の全長は約2㎞。
真っ黒で剣のように鋭い鱗に全身を覆う、東洋龍のような見た目をしているそうなのだ。
見たかったのに、全然見えない!
残念すぎる。
でもまあ、私が負の魔力を使いまくっていれば、そのうち見ることが出来ると思う。
たぶん、きっと、恐らく。
だって、私は知っている。
この広い空間の床を埋めつくし、巨大な負龍をいくらか埋めている黒い砂利に見えるナニかの正体を。
これ、砂利じゃないの!
負の魔力を吸いすぎたダンジョンコアから排出された、負の魔力をこれでもかとたっぷり含んだダンジョンコアの欠片なのよー。
これ全部、昇華しなきゃいけない危険物なのよー。
「先は長いわぁ」
溜まりに溜まった負の魔力の量が多すぎて色々不安だけど、希望を持つのは私の自由ですから。
取り敢えず、負の魔力を吸って成長して光る花を咲かす植物の種を階層全体にばら蒔く。
「ま、こんなもんでしょ」
101階層目で今出来る事はそう無いからね。
さて、では他の階層も見てみないとね。
まずは1階層目。
ダンジョン内の地図を表示させながら、モニターに写す階層を切り替える。
「うっわ、森ふっか」
1階層目は立派な森。
「みょーに、広くない?」
いや、広い!
広すぎるよ、この1階層。
ダンジョンがいくら世界を浸食しているからって、広すぎだから!
「半径172㎞って森って考えたら普通かもしれんけど、ダンジョンって考えたら広すぎん?」
端から端まで行くのに、魔物がわさわさ出てくる危険な森を、いったい何日歩かないといけないのよ。
危なすぎ。
しかも、このダンジョン大陸のど真ん中にあるんですけど。
何これ。
もしかして、四方八方からよってたかってダンジョン攻略をし易いように龍達が態々ダンジョン作って封印したとか?
うっわ、有り得そう。
「それやのに、ダンジョンは世界を浸食してってる訳なのねー」
放って置いたら将来滅亡一直線だから、人も真剣に攻略を進めている筈なんですけどね。
その割に、このダンジョンって人が居ないのよ。
「いや、でも此処のダンジョンの半分から下って先代が人を殺しにきちゅうしなぁ」
特に、80階層からヤバすぎる。
溶岩の川が流れる火山階層だったり、空気にまで猛毒が混ざった毒階層だとか、一面大海原の海階層だったり、水場の無い砂漠があり、奥に行かせるつもりはさっぱり感じられない激ヤバダンジョンなのだ。
「まあ、私も死にたくないき、この仕様を変えるつもりは無いがやけどねー」
このダンジョンの完全攻略を目指している人には悪いけど、やらせるつもりは無い。
でも、冒険者達にはある程度魔物を狩りまくって負の魔力を普通の魔力へ昇華してもらいたい。
それは先代も同じ筈で、半分から上はある程度狩りやすいようにしている筈なのだ。
なのに、想定より冒険者が少なすぎる。
「なんでかなぁ」
ぶつぶつ言いながら、タブレットでダンジョンの設定を確かめていく。
最上部なんて、入って直ぐは子供でも頑張れば勝てるくらいの魔物しか居ない。
難易度の上げかただって緩やかだ。
ダンジョンにしては広いから、どの階層にも罠は無い。
「んー」
酒が進むわー。
「んん?」
何かおかしい。
「設定が幾つかoffになっちゅう?」
宝箱と、転移石と安全地帯が機能していない。
どういう設定になっていたのか分からないけど、先代が亡くなって以来、宝箱は出なくなり、5階層毎にあった転移石は消え、安全地帯は名残の水場跡があるだけ。
「あー、そりゃ人気無くなるし、攻略も進まんわぁ」
宝箱はダンジョンで魔物を狩る冒険者を呼び寄せる為のもの。
転移石は攻略を効率良く進める為に必要。
安全地帯が無ければ、長時間のダンジョン攻略は出来ない。
更に言えば宝箱と転移石と安全地帯って維持にそれなりに負の魔力を使うから、ダンジョンの意義的にもこの三つがないのは痛い。
「めんどっくさ」
何が面倒臭いかって、宝箱の中身をもう一度決めなきゃいけないって事。
「後回しにしよう」
うん、面倒臭い事は後で良いよ。
安全地帯をもとの位置に復活させ、転移石はちょっとした悪戯心から5と0の付く階層に降りて直ぐの壁に設置。
それぞれに気が付いた冒険者がどんな反応をしてくれるか、今から楽しみだ。
「んふふふふ、ふぁ」
眠い。
風呂に入って寝よう。
此処のお風呂は先代が拘ったおかげで、天然温泉に24時間いつでも入る事が出来る。
「んお?」
脱衣所に入ると、そこにあるのは洗面所。
「なんか、違う?」
洗面所には鏡があるのだけど、そこに写った私の顔に違和感がある。
ずずいっと鏡に顔を近付け、じっくりと観察する。
「・・・頬っぺたにあったシミが無い。なんか肌のキメが細かい気がする」
私は享年35歳。
肌に感じていた衰えが、感じられなくなっている。
「まさか、ダンジョンマスターになったから?」
そういえば、あの子供はダンジョンマスターに寿命は無いと行っていた。
つまりは、ダンジョンマスターとは老いない生き物!
なんて、なんて素晴らしいのか!
見た目は若返っていないけど、肌に感じていた問題が解決されただけで十分です。
ダンジョンマスター、最高!
「あれ?目の色がなんかおかしい」
じいっと、鏡に写る目を見つめる。
ああ、やっぱりおかしい。
私の光彩は、黒に近い焦げ茶色だった。
なのに、今は黒と金の混ざった斑模様になっている。
これも、ダンジョンマスターになった影響なのかな?
「ま、いいや。お風呂お風呂」
石鹸は兎も角、シャンプーとリンスの銘柄が気に入らなかったので、一度全てのお風呂用品をダンジョンに取り込んでから改めてお気に入りを設置。
「ふはぁあ~」
温泉は丁度良い温度で大変に気持ちが良かった。
そう言えば、まともに風呂に入るのは久しぶりで、風呂と言う物の良さを改めて思い知った。
ぐびぐびと水を飲んで水分補給をして、口の中に生活魔法の浄化をかける。
これで、お口の中はすっきり爽快。
本当は体も浄化で綺麗に出来るのだけど、魔法で綺麗にするよりもお風呂の方が気持ちが良い。
口の中まですっきりして、眠気がまたやって来たので布団を求めて押し入れを開ける。
「あ”?」
中にあった物を見て溢れる嫌悪感。
いったいいつ干したのか分からない、ぺったんこで変色した布団。
「・・・・・・・」
ナニコレ
カビやら茸やらが
これが布団?
ゴミだろうが!!
先代は、絶対にコミュ症のキモオタだ!
こんな、湿った布団を平気で使えるだなんて神経を疑う。
絶対、まともな神経していない!
気持ちの悪い物体をダンジョンに取り込ませる。
本当はこんな物ダンジョンに取り込みたくは無いけど、触りたくない。
「浄化、浄化、浄化、浄化ぁ!!タブレット!」
物体の入っていた押し入れを何度も繰り返し浄化をし、ダンジョン作成を使って押し入れを総取っ替え。
「よし」
私、満足です。
あー、さっきの衝撃で眠気がどっかへ行っちゃったよ。
取り敢えず、新品の布団一式を用意して部屋の真ん中にある座卓を避けて敷く。
眠気は何処かへ行っちゃったけど、夜は寝ないとねぇ。
おやすみなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます