第5話 2日目の朝は掃除から
朝、太陽と共に目が覚める。
「・・・・・」
今日は、日没前に雨戸を閉めよう。
太陽と共に目を覚ますだなんて、健康的過ぎる。
ダンジョンマスターは、もっと不健康で不規則な生活でも良いと思う。
ああ、でも、先代の布団のような生活は許容出来ない。
ご飯を食べたら、布団を干そう。
洗濯もしなきゃ。
あ、洗濯機も替えよう。
ろくな使い方をしていない気がする。
「ああー!お風呂ぉっ」
何て事なの!
昨日、浄化をせずにお風呂に浸かっちゃったんですけど!?
ああっ、気が付いたらサブイボが立つ!
取り敢えず、ご飯の前に洗濯機を新品に変えて、家中に浄化をかけて回った。
「朝から働いたわぁ」
お茶を沸かし、座卓のモニターが良く見える場所に座る。
あ、因みにだけど、お茶の種類はハブ茶です。
煎っても煎らなくても美味しいので、私はずっとご飯の時に飲むのはハブ茶だ。
「やー、パンって色々あるねぇ」
取り敢えず、ネット通販でお高い生食パンとやらをお取り寄せして、オーブントースターへぶち込む。
その間にイ○ンモールのベーカリーのパンを端からお取り寄せしてもぐもぐ。
うん、菓子パンは暴食には向かん。
2、3個食べたらもう食べる気がなくなる。
甘くないおかずパンをひたすら食べ、オーブントースターから出した食パンにバターを塗って齧る。
「おお、今までに経験した事の無い小麦の香りとさっくりふんわり食感!」
お高いだけあるわー。
最後に、デザート替わりのあんパン。
「ごちそうさまでした」
うん、朝から沢山食べた。
昼は何を食べよう。
レストラン街の店舗を1店舗ずつ食べていくのもありだなぁ。
よし、決めた。
「昼は牛タン屋さんにしよっと」
庭に物干し場を用意して、昨日卸したばかりの布団一式を干す。
枕は縁側で干す。
ふと、畳が目に入った。
この畳も、先代の時から使われていた物なんだよねぇ。
「・・・・タブレット」
畳を総取っ替えだ。
ああ、朝から本当に良く働いた。
縁側に座り、庭と村の様子を眺めながら、タブレットに負の魔力を使って獲得出来るスキルを表示させる。
何気に、ダンジョンショップを開くのはこれが初めてだ。
「・・・・・」
それにしても、スキルって色々有りすぎて良く分からない。
魔法とかちょっと気になったのだけど、これだけごちゃごちゃあるとどうでも良くなる。
正直、読むのが面倒臭い。
そもそも魔法を使いたい欲求は、生活魔法をちょこちょこ使っているうちに解消しちゃっている。
「ま、要るようになってからでえいか」
面倒臭いし、今は必要無いしね。
ダンジョンショップを閉じ、後ろに倒れて縁側に転がる。
「・・・・長閑やわぁ」
屋根のひさし越しに見る空は青く、風に流される雲は白い。
「でも、鳥は飛びやぁせんねぇ」
そもそも、ここはダンジョンの100階層目。
地下な訳で、太陽の光が降り注ぐ集落がある方がおかしい。
「まあ、ダンジョンやもんねぇ」
ダンジョンは、不思議な空間。
大概は、ダンジョンだからで説明がついてしまう。
「さて、今日は何しようか」
ダンジョンはこれ以上手を加える必要は無いし、
起こっていた不具合は、宝箱以外何とかした。
「ダンジョンマスターって、暇ながやねぇ」
ダンジョンマスターが、こんなに暇だとは思わなかった。
まあ、こんなに暇なのは先代がダンジョンをしっかりと作り込んでくれていたお陰だ。
家の中、特に布団は最悪だったが、ダンジョンについて文句は無い。
考えるの、面倒臭いし。
「それにしても、暇やわぁ」
あ、此処からだとリモコンに手が届かない。
「リ、リモコン」
リモコンは座卓の上なので、どう頑張っても縁側から手は届かない。
「ダメかー」
仕方がないので立ち上がり、リモコンを持って縁側に戻ってごろり。
リモコンでモニターをON。
「うげっ!?」
いきなり、魔物達の食事シーンが画面一面にどーん。
モ、モザイクは?
食材になっている方にモザイクを掛けられないの!?
あ、無理だわー。
どうにかならないかとリモコンをいじっても、どうにもならなかった。
と言うか、こんなグロ映像を見せ付けられて、私は良く吐かないでいられるなぁ。
私、グロ映像って苦手な筈なんだけどなぁ。
ああ、これもダンジョンマスターになった影響なのかなぁ。
ま、困らないから構わないけどね。
「あ、この、魔物はコボルトって言うのね」
モニターを見ていたら、鑑定が発動した。
レベルが低いからか、モニター越しだからなのか分かった事は魔物の種類のみ。
大きさは130㎝、毛むくじゃらな人型で頭は野性的な犬。
お食事中だからかもしれないが、少しも可愛く無い。
食い散らかされた冒険者の死体
「いやいや、そっちは見えんでえいから!」
食材の正体は、詳しく知れなくて良い。
精神的には平気だけど、視覚的には遠慮したい。
グロい物が苦手だと思う気持ちは、健在なのです。
「1階層やし、殺られたのは初心者かな?」
1階層目でうろついている魔物は単独なんだけど、この人も単独行動みたいだし、調子に乗って1人で奥の方へ行っちゃったのかな?
魔物の弱い1階層でも、奥の方のはそれなりに強くなっているから、パーティー推奨なのになぁ。
「冒険者は、出来るだけ死なんと魔物を狩り続けて欲しいがやけどね」
まあ、なんにしろ朝から見るようなものではない。
モニターに写し出される場所をチェンジ。
「むさ苦しいわぁ」
次に映ったのは、ごつい5人組の冒険者達。
「あれ、此処」
此処、安全地帯だ。
この人達、私が設置し直したばかりの安全地帯を、さっそく利用してる!
しかもこの人達、きちんと安全地帯だと理解して利用しているっぽい。
何故って?
この人達が迷宮の中で火を使っているから。
迷宮の安全地帯以外で火を使うと、魔物を寄せてしまうと人の間では思われているから。
ダンジョンマスターの私から言わせてもらうと全くのデマなんだけど、人にとって迷宮の中で火を使わないのは常識だ。
だから火を使っているこの人達は、此処が安全地帯だと理解している。
「あー、でもなんかしょぼい」
冒険者達はこれから朝ご飯なんだろうね。
でも、主食は固そうなビスケット、汁物の具は安全地帯に生えていた草と削った干し肉。
飲み物に至ってはただのお湯。
正直に言って、全く美味しそうにない。
でも、これが普通なんだよねぇ。
この世界、私のいた世界や他の世界から魂をちょくちょく呼び寄せている。
その多くが人として生まれ、ダンジョンマスターとなる者はほとんど居ない。
転生者がそれなりの数いる割に、食事が微妙な世界なのだ。
勿論、理由はある。
この世界、魔法がある所為で、何でもかんでも魔法で片付けていて、その弊害か衛生状態が最悪だった。
魔法は誰でも使えるが、万能ではない。
異世界からの転生者が初めて現れた大昔、人の住む村や町は糞尿やゴミだけでなく、生き物の死体までもが転がる有り様。
劣悪な衛生環境では体調を崩す者が多く、出産は命懸け。
無事生まれた所で、新生児の死亡率は7割以上。
平均寿命は本来の寿命の半分以下。
転生者は生まれても直ぐ死ぬか、不衛生が原因で滅びへ向かっていた人を立て直し、環境を整える事に精一杯。
とてもとても、食を良くしようなんて余裕は無かった。
それになにより、魔物由来の食材は美味しい。
態々手を加えなくても素材が美味しいので、料理が発展しなかった。
煮ると焼く、このどちらかである。
「あ、」
良いこと思い付いた。
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