第6話 ダンジョンの方針

 良いこと思い付いたよ。

 これまでこの世界に来た転生者達は、衛生状態を良くする事に手一杯で、食まで手が廻っていない。

 では、今はどうだろう。


 歴代転生者のお陰で衛生環境は整い、町は綺麗になり、出産の危険性と新生児の死亡率は下がった。

 平均寿命も、本来の寿命に近づいた。


 今なら、人々が食へ目を向ける余裕もあるだろう。

 私と同じような転生者も、人の中に居るだろう。 

 私と同じ、元日本人だって居るかもしれない。

 異世界から来た彼らが、特に元日本人が、心配事も無いのに焼くと煮るだけの料理に我慢出来る訳がない。


 美味しい食べ物が宝箱から出るようになれば、このダンジョンに来る人が増えるかもしれない。

 沢山魔物を狩ってもらって、負の魔力を昇華し続けていたら、此処のダンジョンの世界への浸食を止められるかもしれない。


 あんまりやる気は湧かないけど、私がダンジョンマスターにされた一番の目的が、世界への浸食を止める事だからねぇ。

 それに調味料を出せば、転生者達が頑張って料理の美味しい世界になるかもしれない。

 でもまあ、問題は何を何処で出すかだよねー。


 1階層から良い物を出してたら、安全第一でお金の欲しい冒険者は下に行かない気がするんだよねぇ。

 弱い冒険者は兎も角、強い冒険者達にはダンジョンの下の方へ行ってもらいたいから、1階層で止まられると困る。


 「ま、まずはあのクソ不味そうな携帯食からかなぁ」

 携帯食と言えば、乾パンだと私は思う。

 美味しいしね、乾パン。

 私、乾パン好きなのよねぇ。

 後は何かな?

 カロリーなメイト?

 あれ、個人的にチーズ味以外は微妙なんだよねぇ。


 「ジャーキーは携帯食って言うより、おつまみって印象が強いしなぁ」

 でもまあ、此処の人達も干し肉は食べているしジャーキーは受け入れられ易いかも。

 よし、入れよう。

 ジャーキーの旨さと胡椒の刺激に戦くが良い!


 乾パンとカロリー○イトとジャーキーは、1階層に出す宝箱の中身にする。


 他はどうしよう。

 ドライフルーツ?

 ああ、良いね。ドライフルーツって確か登山の行動食になっていた気がする。

 一番の行動食はチョコレートだと思うけど、此処の人達には早いでしょ。

 そもそも、1階層から出すには勿体ない。


 でもねぇ、これだけじゃ足りないでしょ。

 冒険者って、重い装備を身に付けて動き回るんだから、消費カロリーは多い筈だ。

 「パンも出すか」

 うん、そうしよう。

 柔らかいパンじゃなくて、ライ麦とか雑穀を使った、噛めば噛むほど味の出てくる表面がばりばり硬いパン。

 1階層の中間から奥は、くるみとかチーズを混ぜたパンも出そう。

 あー、だったら2階層目から下はもうちょっと良い感じのパンも出さなきゃね。

 ベーコンエピとか、ガーリックトーストも良いなぁ。

 サンドイッチとかも有りかも。

 食パンのサンドイッチじゃなくて、バゲットのサンドイッチ。 

 どっかで飴ちゃん出すのも良いなぁ。

 「6階層目にしよう」

 5階層目には転移石があるからね、その下の階層にしよう。


 タブレットをぽちぽちとつつき、宝箱の設定を決めてゆく。

 中身は設定した物がランダムで出るようにする。

 サンドイッチは3階層から。

 飴ちゃんを6階層から出すのなら、他の甘い物を出しても良いよね。

 クッキーと、ビスケットも追加。

 低確率で板チョコも出そうか。


 あ、そうだ。

 6階層はちょっとした甘い物コーナーにしようかな。

 マドレーヌとかフィナンシェを出して、クッキーもバタークッキーだけじゃなくて、色々出そう。

 とは言えまだまだ6階層、一度に数は出さない。

 

 よし、転移石のある階層の下はお菓子の出る階層にしよう。

 下に行く毎に宝箱に入っている数を増やして、出てくるお菓子の種類も増やそう。   


 ふふふふ、あの子供が私に求めた役目はダンジョンの浸食を止める事だけど、ダンジョンをどうするかは私の自由だものね。

 歴代転生者がこの世界の衛生環境を良くしたのなら、私はこの世界の食に一石を投じたって良いじゃない。


 まあそれ以上に私、そのうち何とかしてダンジョンを出て、食べ歩きの旅とか観光旅行とかしてみたいのよ。

 その時に料理が焼くと煮るだけじゃ物足りないじゃない。

 だから、その時の為にこの世界に食の革命を起こすのだ。

 そのうち、レシピを出すのも良いだろう。

 町の情報も仕入れたい。

 人々のニーズを分かった上でばらまいた方が、広まりそうな気がするからね。

 

 でもねぇ、情報が欲しいからって小型の魔物を町に放っても、欲しい情報を得ることが出来るかどうかは運次第だし、直ぐに討伐されてしまう。

 ええ、既にやりました。

 やって失敗しましたとも。

 そもそも、魔物が町に着くかどうかも分からないし、それが何処の町なのかさえ私には分からない。

 私が分かるのは、ダンジョンの中の事だけ。


 森を広げないようにして、こっそりダンジョンの領域を町まで広げようかとも思った。

 ほら、私はダンジョンから出る事が出来ないじゃない。

 だから、ダンジョンの領域に町を入れちゃえば好きに町へ入れるし情報も得ることが出来ると思ったんだけどね。


 「そうそう上手くいかんよねぇ」

 ダンジョンの領域をこっそり広げてもみた。

 

 いや、ちゃんと分かっている。

 私の一番大切なお仕事はダンジョンの浸食を止め、ダンジョンの範囲をせばめる事。

 正反対ですよねー。

 でもね、好奇心が抑えきれなかったのよ。

 後悔はしていないけど、色々大変だった。


 「町は、ダンジョンの領域へは入れれんわぁ」

 人には分からないようにダンジョンの領域を広げていたら、ダンジョンコアの欠片なる物が畳の上にコロンと落ちていたのよね。

 真っ黒で、最初は何か分からなかったのだけど、鑑定して戦いた。

 ダンジョンコアの欠片って、負の魔力が核の容量から溢れたら出来る物だったのよね。

 領域を広げている間、負の魔力は調子良く減っていたのに、ある時減った筈の負の魔力がどんどん増えて点眼突破してしまった。


 びびったよ、超びびった。

 まさか、こんなに早く私がダンジョンコアの欠片を作ってしまうとは思わなかった。


 何故、減った負の魔力が増えて天元突破までしてしまったのか。

 理由は簡単。

 町に近づいたから。

 町に住む人々が、日々生み出す負の魔力をダンジョンと負龍が呼び寄せてしまったのだ。

 

 私、これで分かったよ。

 ダンジョンの領域に町を取り込むとか、無理。

 自滅確実。

 でもねぇ、ダンジョンの外の情報欲しい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る