第7話 ダンジョンの方針 2

 「でもまあ、情報うんぬんは追々考えよ」

 焦った所で外の事は分からないし、良いアイデアがないもの。

 「まずはダンジョンに冒険者を呼び込まんとねー」

 せっかく減った負の魔力を、また増やしちゃったもの。


 まあ、私の自業自得なんだけどねー。


 あ、そうだ。

 負の魔力を無駄遣いするために、転移石を各階層に設置しよう。

 転移石は維持するのにも負の魔力が必須だからね。

 ダンジョンが広すぎて、各階層複数階段があるからじゃぶじゃぶ無駄遣いができるよ。


 はい、仕様変更。 

 転移石は全ての階層の全ての階段出入口付近に設置されました。

 

 結構無駄遣いして負の魔力が減ったのだけど、あっという間に元通り。

 欠片が減った気配も無い。

 どんだけ負の魔力集めてんのよ!?


 「あ、帰還石なんて物もあるがや」

 魔力を流して「帰還」と唱えれば、一瞬でダンジョンに入った所へ戻れる便利グッズ。

 しかも、1個あたり必要な負の魔力は1万。

 コストが地味に高くて、実に良い。

 「あんまり出し過ぎてダブつくのもアレやけど、ほいほい使って欲しいし出現率は10%位でいっか」


 帰還石がドロップ品として出るようにして、宝箱を設置型からモンスターを倒した時出るように仕様変更。

 通常ドロップにプラスして宝箱が出てくるのは五回に一回程度。

 出てくる宝箱は全て木製、中身は食べ物がランダム。

 たまに帰還石が付いてくる。

 「誰が一番に宝箱を出すかなぁ」

 中身は兎も角、宝箱の出現率は五分の一。

 初めて宝箱を出すのは下層にいるベテランかもしれないし、1階層の入口をちょろちょろしている新人かもしれない。

 「楽しみやなぁ」



 「ふぁっ!?」

 いかんわぁ、寝落ちしていた。

 ダンジョンの設定をいじっていたのはまだ朝と言って良い時間だったのに、今はもう夕方。

 涎が出ていたし、枕が無いから首が痛いし、初めての宝箱出現を見逃すしで散々だ。

 

 「結構出たなぁ」

 何がって?

 勿論、宝箱の事だ。

 

 今までモンスターを倒した時に出たことの無かった宝箱の出現に戸惑い、木製の宝箱にがっかりして、中身に首を傾げる。

 そして、食べてがっつく。

 冒険者達はそんな楽しい反応を見せてくれている。

 どうせなら、最初の1人から見守りたかった。

 「惜しいことしたわぁ」

 でも、冒険者達が以前よりも積極的に魔物を狩ってくれているのでよしとする。


 ぐぎゅうぅ

 「!?」

 恥ずかしい!

 ええ、ええ、鳴ったのは私のお腹です。

 寝ていて昼ご飯を食べていないんだから、お腹くらい鳴るよ。

 お昼は牛タンを食べるつもりだったんだけどねぇ。

 仕方ないから、牛タンは夜ご飯にしよう。


 雨戸とガラス戸を閉め、座卓に牛タン屋の料理をを並べる。

 シチューでしょ、タンステーキ、炊き込みご飯、サイコロ状のタンがたっぷりのサラダ。タンステーキをもう2枚追加。

 お酒は赤ワイン。

 

 ああ、幸せ。 

 「・・・・・お酒を宝箱に入れるのもえいかも」

 有りだね、有り。

 大有りよー!

 食材は美味しいらしいからお酒も美味しい可能性は十分ある。

 それでも異世界の酒は珍しさで押せる筈だ。

 「あ、そういやまだ此方の食べ物食べてない」

 今まで、元の世界の食べ物にばかり執着していたから仕方ない。


 駄目だなぁ。

 私は食べ物に執着してダンジョンマスターになったのだから、元の世界のばかり食べるのではなく今いる世界の食べ物もいい加減堪能しなきゃ。

 「ま、明日やね。明日」

 タンをつまみにワインを飲み、モニターに安全地帯の様子を写しながらタブレットをぽちぽち。 

 

 「あ、でもこの人達ってば、割れ物持ち帰れるがやろうか?」

 ふと疑問が湧いた。

 収納スキルを持つ人はそれなりに居るのだけど、ほとんどの人が商人に高額で雇われるので冒険者に収納スキル持ちは少ない。

 収納鞄はダンジョン次第。

 うちのダンジョンはまだ食べ物しか出していないので、収納鞄のような魔道具を持つ冒険者は少ないはず。

 持っていても下層に潜っている者達位だろう。

 なので、多くの冒険者達が割れ物を割らずに持ち帰る事が出来るかどうかは謎だ。

 

 「あれ?もしかして、収納鞄が出ん事も下層に冒険者が少ない原因?」

 あー、あるかも。 

 この世界、回復魔法と攻撃魔法の相性が悪すぎるので、魔法使いは基本回復魔法を使えない。

 回復魔法を使える者の殆どは争いに参加しない神殿所属の神官なので、冒険者と一緒にダンジョンには入らない。

 なので回復のためにポーションの持ち込みは必須。

 携帯食と同じように絶対に減らすことの出来ない荷物なのだ。

 必然的に収納鞄を持たない冒険者は、嵩張る荷物がネックになって下層には行けなくなる。 


 「これもう、収納鞄を出すしか無いやつやん」

 私の理想とする、美味しい食べ物で冒険者を誘き寄せるダンジョンにするためには、必要な準備だろう。

 タブレットをぽちって宝箱の中身に収納鞄を追加。

 出現確率は低くしておいて、見た目はウエストバック。

 時間経過無し。

 10階層目までは小サイズ(1×2×1)。

 10階層以降は中サイズ(2×4×2)。


 はい、これでこの瞬間から収納鞄が宝箱から出てくるようになりましたー!

 まあ、でも冒険者達はダンジョンを出るか安全地帯で休んでいるから、結界は明日以降だ。 

 私のこれまでの行いに、冒険者達は皆良い反応を返してくれた。

 きっと、収納鞄にも良い反応をしてくれる筈だ。


 「良いねぇ、楽しみ。ねぇ、負龍さんはどう思う?」

 「・・・・・」

 反応は無い。

 負龍は絶賛封印中。

 深い深い眠りの中にある。


 でもね、ダンジョンの記録を見た私は知っている。

 この負龍、極々稀にだが眠りが浅くなる時があるのだ。


 人が増えすぎて、負の魔力を浄化しきれなくなって悪堕ちしちゃった負龍さん。

 人が全滅寸前になるまで減るか、ダンジョンの回転を上げて負の魔力を昇華しきるかしない限り、封印され続ける運命の負龍さん。

 封印をどうこうするつもりは無い。

 でもね、起こしちゃいけないだなんて、誰にも言われていない。

 

 私はね、1人も好きだけど、事情を理解しあえる人と、なんのかんのと文句を垂れながらうだうだするのも好きなの!

 人には嫌われる、魔物は話し相手にならない。

 自分の事だもの、私には分かる。

 私は将来、1人である事に嫌気がさす。

 

 そんな私にとって、唯一の希望が負龍!

 

 負龍が彼か彼女かは知らないが、いつか絶対に起こして話し相手になってもらう。

 そうね、私が起こす予定の食の革命を、一緒に楽しむ事が出来たら最高だ。

 だから私は常に101階層と繋がった小型モニターを用意して、ことあるごとに話し掛ける。

 101階層は相変わらず真っ暗で、負龍からの反応は全く無いが、いつかの為に繰り返す。

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