第29話 焼き鳥屋1日目 2
比較的のんびりとした営業に変化があったのは、冒険者達がダンジョンから帰って来る夕方になってから。
客層が、町に住む一般人から、冒険者へ少しずつ変化していった。
そんな彼らの、頼む量がおかしい。
20、30は当たり前。
50本以上買って行った強者まで現れ、焼き上がるまでの時間が長くなり、それに呼応するように列が長くなる。
終わらない、終わらないよ。
幾らフーさんが焼き鳥を焼いても、私が売っても、終わりが来ない。
列があまりにも長いものだから、いつの間にか見廻りの兵士らしき人に距離を開けて見守られている。
さらに言えば銭湯で会ったお姉さん達が来てくれたのに、ろくに話が出来なかった。
“兄ちゃん、私もう疲れたよ・・・・”
焼き鳥のストックはとっくの昔にない。
列が終わらないおかげで、いつまでたっても忙しい。
水も飲めないし、ご飯なんて食べられる訳がない。
“俺も、もう無理”
肉が無くなる前に、私達が限界を迎えた。
“肉は、今焼いているこれで仕舞いにする”
“喜んでー!”
「ナナ、肉はこれで仕舞いだ」
「あ、うん。あと何本?」
「13本」
さあ、小芝居小芝居。
わざと周りに聞こえるように声に出す。
行列からの不満げなざわめきが怖い。
「すいません、肉が無くなりました。今焼いている物が最後です」
「は?おいおい、ふざけるなよ」
「おふざけで、商売人がお客さんに物が無いとか言う訳ないでしょ!」
「お、おお」
焼き鳥が無いと言えば、文句を言われるのは分かっている。
特に、2番目に並んでいる人はなかなか納得出来ないだろう。
何しろ、待って待ってあと少しって所で、お預けをくらうのだもの。
もし私がその立場だったら、簡単に受け入れる事は出来ない。
ただ2番目にいた冒険者な彼は、厳つい見た目の自分に私が噛みつくとは思っていなかったのだろう。
彼は少し戸惑いながら、大人しくなってくれた。
ありがとう、2番目の人。
心臓ばくばくで、足もぷるぷるだけど、貴方が大人しくしてくれたおかげで、後ろの人も文句を言い辛そうになったよ!
最終手段、見廻りの人に助けて貰うは、使わなくて済みそうだよ。
本当にありがとう、2番目の人!
「この屋台は、明日と明後日。あと2日営業します」
なお、2日しかやらないのかよと言う意見は聞いても、受け入れる予定はありません。
「なので、今並んでいる貴方達、今度買いに来てくれた時に1本サービスする券を渡すんで、ちょっと待っててください」
最後のお客さんの対応をフーさんにお願いして、私はちょちょいと紙を切り、○の中にサとだけ書きながら並んでいるお客さん達に渡して回る。
サービス券目当てに並んだ人がいたけど、そんなもの誤差にもならない。
お客さんになってくれるなら、問題無し!
「そうそう。私、鑑定魔法持ちなんで、偽物は弾きます。ずるっこはヤメテくださいね?」
待たせたのに肉が無くなってしまった事を謝りながらサービス券を渡し、不正はやらないようにと釘を刺す。
待ちきれずに列を離れていった人もいたから、多分、30ちょっとの人にサービス券を渡し終えた。
その頃にはフーさんも最後のお客さんを見送っており、屋台の片付けをしてくれていた。
流石フーさん!
出来る男は違うね。
「おつかれさん」
「あ、お疲れ様です」
屋台に戻ろうと踵を返したら、見廻りの人に声をかけられた。
思いがけず世話になっちゃったからね、向き直ってぺこりと頭を下げる。
「見守ってくださって、ありがとうございました」
「気にするな、これも仕事の内だ」
「それでも、私達には有り難がったですから。ね、兄ちゃん」
「ああ。ありがとうございました」
フーさんも屋台を離れて、こちらにやってきて、一緒に礼を言ってくれる。
「・・・どういたしまして」
私達の感謝を受け取ってくれた彼らは、暗くなる前に宿に戻るよう注意をしてから見廻りに戻って行った。
「疲れたな」
「うん」
19時を知らせる鐘は大分前に鳴った。
夏が近いのでまだ明るいが、直ぐに暗くなるだろう。
疲れたからと言って、まだゆっくりは出来ない。
店の浄化とゴミのまとめと分別はフーさんがやってくれていたので、屋台を丸ごと収納へ入れる。
収納スキル持ちだって知られたって良い。
だって、面倒臭いんだもの。
まだゴミを集積所に持って行かないといけないし、風呂だって入りに行きたいし、ご飯も食べたい。
今日の売上だって、きちんと確認しないといけない。
まだ、やることだらけだ。
「明日は、もっと早くに終わらせようね」
「ああ、そうだな。しかし、あれだな」
「あれ?」
ゴミの袋を分担して持って、集積所を目指して歩く。
「どれ?」
「やってみると案外大変だな」
「そーねぇ。完璧!とか思いよったけど、違ったねぇ」
「ああ。足りないことだらけだった」
あんなに、1人で沢山買うとは思っていなかった。
ストックがあるから、大量購入も大丈夫だと思っていたけど、あれは無理。
「本数制限しない?」
「そうだな。1人、5本」
「少なすぎん?10本は?」
いやー、屋台を出す場所とゴミの集積所、宿が比較的近くて良かったよ。
じゃなきゃ、嫌になってゴミ捨てをさぼっていたと思う。
あ、銭湯が近い事も良い。
「上限10本な」
「りょーかい。張り紙して、1人1人説明する」
「頼んだ」
「頼まれました。あ、こんばんはー。ゴミ出し良いですか?」
集積所到着。
門に立っている門番に声をかけ、中身の入ったゴミ袋を掲げる。
「屋台のゴミ、持って来ましたー」
「ああ、ご苦労様。ギルド証の提示と、帳面の記入をしてくれ。ゴミは此処へ置いてくれ」
「はーい」
「ああ」
「記入よろしくー」
うちの店長は、フーさんだからね。
フーさんの手から、ゴミ袋を奪い取る。
「あ、おい」
「私、ゴミの計量してるから!」
「はいはい」
「燃えるゴミと、その他のスライムゴミです」
うちから出たゴミは焼き鳥の串位の物だけ。
だけなのだけど、表に置いていたゴミ箱には他所の屋台のゴミも入る。
「6㎏か。600ギルいただく」
「はーい」
1㎏あたり鉄貨1か。
処理料は高いのか安いのか、どちらなのだろう。
うん、安いと思っておこう。
その方が、私に優しい。
鉄貨6枚を受付けで支払う。
「兄ちゃん、ゴミは6㎏で処理費は600ギルだよ」
「ああ」
「君も、こちらでギルド証の提示を」
「はーい」
首からぶら下げたギルド証を外し、受付けをしてくれている門番の目の前に差し出す。
「はい、確かに」
私達のやることは、ここでお仕舞い。
「「ありがとうございましたー」」
「おーい、誰か運んでくれ。燃えるゴミとその他のスライムゴミだ」
『はーい!』
元気な子供の応える声が、銭湯へ向かう私達の後ろから聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます