第30話 1日目の終わりに
「暗いわー」
「暗いなあ」
あれから、一度銭湯へ行ったものの今日の分の風呂札をもらって居なかったので慌てて宿へ戻り、グレイから風呂札を受け取ってもう一度銭湯へ行った。
今は風呂上がり。
銭湯から出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「ご飯、どうする?」
「今から作るのは面倒臭い。適当に食堂に入ろう」
「んー」
味がいまいちなご飯は余り食べたくないが、フーさんに言われた事がある。
“食わねぇと、美味くなっていっているかどうか分からんだろうが”
全くもってその通りだと思った。
なので、以前は兎も角、今の私に否はない。
でもまあ、発展途中でも出来るだけ美味しい所に行きたいと思うのは仕方がない事だよ。
「あの店、賑わってない?」
店が賑わっていると言うことは、不味くはないのだと思う。
「あそこにするか」
「おー」
はい、お店決定。
お店が決まれば、ぐずぐずしている意味はない。
突入するべし!
スイングドアを押して入ると、からんとドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー」
「「うっ」」
タバコくっさ!
あっつ!
風呂上がりに来るような所じゃないよ、ここ!
思わず店を出ようかと思ったけど、我慢我慢。
「ふたりー?」
「あ、はい」
「相席お願いしまぁす」
問答無用で相席になった。
「・・・・行くか」
「うん」
顔を見合せ、溜め息を吐きながら店員の後を追う。
案内されたテーブルには、二人組の冒険者がいた。
「すいません、お願いしまーす」
「お、お邪魔します」
「おう」
相席は普通の事なのだろう。
店員は軽い感じだし、先客の2人も気安い感じだ。
「うち、食事は本日のおすすめしかないの」
それは、問答無用でおすすめですね。
「飲み物は、果実水で良い?」
「私はそれで。兄ちゃんは?」
「俺も果実水を」
「はーい!」
速攻で色々決まりました。
「1人1500ギルだから、用意しておいてね」
お金は、料理と交換のようだ。
「恋人か?」
気安いのではなく、彼らはただの酔っぱらいのようだ。
「違う」
「私達は兄妹ですよー」
さっき、私はフーさんの事を兄ちゃんって呼んだのになぁ。
「兄妹か。そう言われて見れば似ているな」
「そうだな。ん?あー!焼き鳥屋!!」
男の叫びに波のようにざわめきが広がり、すっとフーさんが腰を浮かせる。
取り敢えず私は、逃げる用意かな?
手荷物なーし!
フーさんの合図で何時でも走りだすよ?
「待て待て、そんなに警戒するな!」
「逃げる用意をするんじゃない!」
「「?」」
あれ?絡まれたんじゃないの?
「違うから!」
あ、口に出ていたみたい。
座れ座れと促されるが、あちこちから注目されて落ち着かないんですけど。
「おい、おまえらこっちを見るな。子供を怯えさせるな!」
彼の所為で注目されているのだけど、視線を散らしてくれるのはありがたい。
フーさんもお尻を椅子に落ち着けて、取り敢えず話しを聞こうかとしとら、店員が片手に一つずつトレーを持ってやって来た。
「お待ちどう様!」
本日のディナーは、オークのステーキと野菜のスープ、黒パン。
「あ、はい」
それぞれ財布を取り出して支払いを済ませる。
うん、良い匂い。
味はどうかな。
武器にもなりそうなナイフで肉を切り分け、もぐっと頬ばる。
隣でフーさんも大口で肉を食べているようなのだけど、向かいの冒険者達に何故かじっと見つめられていて少し居心地が悪い。
あ、何使っているか分からなしちょっと味が薄い気がするけど、これ美味しい。
心なしか、フーさんも嬉しそうだ。
「なあ、旨いだろ?」
「はい」
いかん、この人達の存在を忘れていたよ。
「ここの店の店主は、ダンジョンから出た本を参考にして料理を改良し始めたからな」
「ここの店主だけじゃねぇ。他の店も参考にしている本なんだが、あんたらも参考にしているだろ?」
「ええ、まあ」
「「だよな!」」
予想が当たったと、冒険者は嬉しそうに笑う。
「「すっげぇうまかった」」
満面の笑みで言われて、悪い気はしない。
フーさんも、知らん顔しているけど満更でもなさそう。
“何か企みゆう訳でも無さそうやね”
“そうだな”
ダンジョンから料理の本が大量に出るようになって、食べ物が美味しくなってきたと嬉しそうな彼らに何かを企んでいるような様子はない。
警戒心を一段階下げ、冒険者達の話しに参加する事にした。
「どうせなら、美味しい物を食べたいですからね」
「良いこと言うな、嬢ちゃん。ああ、全くその通りだ!」
「坊主の焼き鳥は最高だった!」
「良かったね、兄ちゃん」
「ん?ああ、そうだな」
“俺、この世の誰よりも歳上なのだが”
“私やって、この人らぁより歳上やき”
見た目と中身の年齢が違ってると、こういうジレンマもあるのね。
知りたくなかったよ。
私とフーさんは微妙な心持ちになりながら食べ物の話で盛り上がり、夜道は危ないからと宿まで送ってもらった。
「また明日も行くからなー」
「俺達の分はとっておいてくれよ!」
「1人10本制限にする事にしたので、その範囲内でしたらとっておきますよ」
「制限をつけるのか?まあ、あの行列じゃ仕方ないな」
残念だと態度と言葉でしっかりアピールされたが、あっさり受け入れてもらえて一安心だ。
彼らからは、1人10本の予約を受けた。
「明日も頑張らんといかんね」
「本当は今日のうちに済ませるつもりだったんだがな」
「今日は、もう寝ようや」
食堂で長居をしてしまったので、もう22時を過ぎてしまっている。
「帳簿だけ付けて寝るか」
「さんせー」
「おいこら、おまえら。話しがついたんなら、さっさと入れ。いつまでも外で話し込むな」
ドアの向こうから、グレイに怒られた。
「「はーい」」
「グレイさん。これ、差し入れです」
「途中見に来てくれていただろ」
お客さんがたくさんで、声を描けることは出来なかったが来てくれていた事は知っている。
行列が長過ぎて、帰ってしまった事も知っている。
なので、グレイの分はとっておいたのだ。
そう言えば、銭湯で会ったお姉さま方はいなかったな。
私達の屋台は開始時間が遅いから、開店前にダンジョンに出掛けた後だったのかもしれない。
「・・・いいのか?」
「ああ」
「勿論ですぅ」
グレイはちょっと戸惑いながらも、受け取ってくれた。
お土産ですから、受け取ってもらわないと困ります。
「ありがとよ。だが、風呂と飯だけで随分遅い帰りだな」
「あー、すいません、グレイさん。食堂であの人達と話し込んで遅くなりました」
「そうか。次はもっと、早く帰って来い。そうだな、お前達だけ門限を20時にしようか」
「「げっ」」
此処の宿の門限は、23時である。
「子供じゃないんだが」
「そうそう」
「おまえは未成年だろ」
フーさんの突っ込みが、鋭くて辛い。
「そう言うおまえも成人したての大人未満だろうが」
「「・・・・」」
なるほど、おっさんなグレイからすれば私もフーさんもまとめて子供か。
「おまえら、何か失礼な事を考えていないか?」
「・・・いいや?」
「・・・考えてないよ?」
否定する私達に対して、グレイはふんっと鼻を鳴らす。
「まあ、いい。とっとと寝ろ」
「「はーい」」
鍵を投げ渡され、部屋へ追いたてられる。
「ナナ、消臭」
「あいあい」
部屋に入ったと同時に体と服に付いた臭いをなかったことに。
それから2人して売り上げを数え、帳簿に今日の収支を記載。
それ以外は何もせずに速攻で寝た。
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