第28話 焼き鳥屋1日目

 ゆっくり起きて、ゆっくりご飯を食べ、しっかり準備を整えて、10時半には私達の割り当てられた場所ヘ来た。

 「ほんっと、端っこやねぇ」

 「そうだな」

 人通りの余りない、言われた通りの外れな場所。


 ご飯前の時間だけあって、出歩く住民の姿は少ない。

 冒険者達もダンジョンに行っているか、宿に籠っているかなのだろう、歩いている者は少ない。

 「あー、なるほど」

 「どうした」

 のんびり屋台を組み立てながら、おしゃべり。

 「ギルドのお姉さんとか、グレイさんが微妙な顔した理由が分かったかもしれん」

 「理由?なんだ」

 「朝と比べて、お客さんになってくれる人の分母が少ない」

 住民は基本お仕事中だし、冒険者も朝からダンジョンに行っていて町には居ない。

 「ああ、なるほど。だが、時間はずっとこのままだ」

 「異義なし!」

 早起きは嫌でごさる。

 

 組上がった屋体に焼き台や、備品が揃っているかを確認。

 ゴミ箱を表と裏の所定の位置に設置し、看板を屋根に掲げる。

 私達の屋号は、気紛れ屋。

 やるかやらないか、何をどれだけの期間売るのか、全てフーさんの気持ち次第なの気紛れ屋。

 ぴったりでしょ。


 「よし、一発かませ」

 「はーい」

 かますのは魔法なので、可笑しな想像はしないように。

 「浄化」

 屋体だけでなく、私とフーさんの全身も一気にキレイにする。


 「あ、エプロン」

 「あっ」

 すっかり忘れてたよ。

 白くてまっさらなエプロンと三角巾を身に付ける。

 私もフーさんも着慣れていなくて、お互いの姿を見て苦笑い。

 うん、早いところ白くないエプロンを買いに行きたい。

 「終わったらギルドで店を紹介してもらって、明日にでも買いに行くか」

 「行く行く!」

 行きますとも。

 真っ白って、着慣れないから落ち着かないのよ。

 

 それから焼き台に炭を入れ、着火の生活魔法で手早く火を付け、フーさんの指示に従って団扇で扇いで火を全体に広げる。

 「よし、もういいぞ」

 「はーい」

 フーさんは料理に拘りの強い人なので、彼が望まない限り私はノータッチ。

 焼いてはタレを付けてを繰り返すフーさんを見守りながら、魔法を使ってタレの匂いを広げる。


 「くっそ暑い」

 「火の側やもんねぇ」

 フーさんの後ろに盥を起き、魔法で氷の塊をどんっと出し正面に向けて微風をそよそよと吹かせる。

 勿論、私も暑いから私の方にも風が行くように調整している。

 「どう?」

 「良いな、だいぶ涼しい」

 「そ、」


 良かった良かった


 「なあっ」

 「はーい」

 お客さんかな?

 11時半にはまだなっていないけど、誤差だよ誤差。

 お客さん第1号は、少年の域を越えたばかりの若い冒険者達。

 おそらく、町の中の依頼をこなしていたのだろう彼らの目は、フーさんの焼く焼き鳥に釘付けだ。


 はい、匂いで誘き寄せ大成功!

 買わせて、食わせれば、こっちの勝ちは確実だ。

 フーさん、私接客頑張るよ。


 「いらっしゃいませ!」

 「なあ、この焼き鳥って何?」

 「鳥の串焼きです」

 「小さくね?」

 「これが焼き鳥の適正サイズです。まあ、小さい事は確かなので、その分他の店より少しお安くなってます」

 

 串焼きはたいがい鉄貨3枚だけど、うちの焼き鳥は鉄貨2枚ですから。

 「すっごい良い匂いなんだけど!」

 「ダンジョンから出た本を参考にして、うちの兄が作った特製のタレを使ってますから」

 なので、良い匂いがするのも、美味しいのも当然なんです。


 「ダンジョンがばら蒔いたあの本か!」

 ばら蒔いたのは確かだけど、そんなにはっきりばら蒔いたとか言って欲しくない。

 「どうします?1本、いっときます?」

 『くれ!』

 「はーい、お一人様鉄貨2枚になります。兄ちゃん、あつあつ4本!」

 「おう」

 

 焼きたてを皿に乗せ、お金と引き換えに冒険者の手へ。

 4人は邪魔にならない所へ移動して、小さいだの匂いは良いだのと言いながらそれぞれ焼き鳥を噛る。

 素知らぬふりをしながら、私達の注意は4人組に釘付けだ。

 だってさ、美味しいとは分かっているけど、彼らは初めてお客さんなんだ。

 彼らの反応が、とても気になる。


 「なにこれ!?」

 「うっま」

 「鳥?鳥ってこんな味だったか?」

 「違うだろ。これは、タレだ!」 


 「くふっ」

 「んふっ」

 横目でちらりと目を合わせて、笑い合う。


 うん、流石フーさんの焼き鳥。

 やっぱり食わせたら此方の勝ち確定なのよ!

 ほら、匂いに誘われたけど、こちらを伺うだけだったお客さん候補がざわざわし始めた。


 もっと寄っておいでよ、美味しいよ?


 「焼き鳥、10本くれ!」

 「俺も、俺も」

 あ、お客さん候補じゃなくてさっきの4人組がまた来た。

 いらっしゃいませー。

 大量買いも大歓迎です。


 「ちょっと時間かかりますけど、大丈夫ですか?」

 『勿論!』

 良いお返事です。

 「お一人様2000ギルになります。兄ちゃん、焼き鳥40本!」

 「おう」


 はははは、念のためのストックが早速役に立ったね。

 収納箱のストックはまだまだあるから、大量購入は大歓迎だよ。

 「「ありがとうございましたー」」


 2人してにこにこ4人を見送る。

 「さて、頑張るか」

 「頑張ろー」

 タレの匂いに誘われて、あの4人がわいわいしてくれた事がとどめになったのだろう。 

 こちらを見ていたお客さん候補が動いた。

 おかげで、5人という小さいが立派な行列が出来ている。


 「おませいたしました!」

 「15本ちょうだい」

 「はーい」

 フーさんが焼き上がったと判断した焼き鳥を、私がスライム製の受け皿に乗せて葉っぱで包んでお金をいただく。

 「3000ギルになります」 

 「取り敢えず、9本。1本はそのままくれ」

 「はーい」


 タレの匂いとわいわい店を宣伝してくれた4人組のおかげで、私達の屋台は順調に稼働を始めた。

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