第38話 一大イベントが、増殖しました

 「「討伐祭?」」

 フィスの商人ギルドに行くと、ジルから討伐祭に屋台を出してみないかと誘われた。

 でも、討伐祭ってなんですか?

 「討伐祭とは、一斉討伐の後で行われるお祭りの事です」

 「「へえ」」


 一斉討伐って、あれですよね?

 ダンジョンの周りにある国が、一階層の魔物を狩り尽くしてくれるとても有難いあの行事の事ですね?

 あの行事の後で、冒険者達をねぎらう為のお祭りが行われていただなんて!


 でもさ、ちょっと突っ込みたいんですけど!

 「一斉討伐は、秋の行事じゃなかったか?」

 そう、それ!

 私は一斉討伐を二回しか見学してないけど、二回とも秋だった。

 なんで、春に討伐祭とか言っているの?


 「それはですね、」

 「「それは?」」

 ジルは、少し嬉しそうな顔をしながら教えてくれた。



 本来、終わりのダンジョンの一斉討伐はすればするほどダンジョンに打撃を与えられて良いとされている。

 けれどもこれまで終わりのダンジョンは宝箱も無く、ドロップ品も激ショボ。

 転移石もなければ安全地帯もない。

 難易度の割りに実入りは期待出来ない鬼仕様。

 一斉討伐をすればするほど、各ギルドも周辺諸国連合も赤字になる始末。

 けれども、生存のために一斉討伐をやらない訳にはいかず、周りの大国にも頼る訳にはいかないジレンマ。


 その状況を変えたのが、終わりのダンジョンの突然の仕様変更。

 見たことも聞いたこともない美味しい食べ物や、便利な道具の出てくる宝箱。

 充実のドロップ品。

 明らかに質の良くなった薬草と、未知の植物資源の数々。

 お陰で各ギルドも周辺諸国連合も、懐事情が大改善。

 三ヶ月に一回、各季節毎に一斉討伐を行える事になった。



 なんて、素晴らしい!

 一斉討伐が年に複数回行われるだなんて、大歓迎ですとも。

 負の魔力をじゃんじゃん使えるじゃないか。

 これは、これはもう是非とも祭りに参加する必要があるのではないだろうか。


 “フーさん!”

 “参加したいのだろぉ?分かっておる、分かっておる”


 さっすが、フーさん!

 分かってるぅ。


 「構わねぇけど、その討伐祭ってのはいつあるんだ?」

 「一斉討伐が終わった当日から3日間です」

 「「・・・・・」」

 「正確な開催日は、分からねぇって事か?」

 「その通りです」


 おおう、それはちょっと困るぅ。

 祭りが始まるまでずっといなきゃいけないとか、チョー困る。

 屋台をするには、準備が要るんですよ!

 準備!

 前もって色々やっとかないと、当日自分達が大変なんですから!

 それになにより、討伐の様子を見ながらドロップ品の調整とかしたいんです。

 高みの見物って、素敵なんです。

 わたわたして、一喜一憂する冒険者達を見物したいんです。

 でもなぁ、屋台はフーさんの楽しみだし。

 

 “諦めが肝心だと思うが”

 “ううっ、ですよねぇ”

 両方とかって、無理ですよねぇ。


 「こちら、討伐祭の出店申し込み用紙です」

 随分、用意が良い。

 私達に出店させるつもり満々だったんだろうねぇ。

 私は一斉討伐の方が比重が重いんだけど、フーさんはどうなんだろう。


 「因みに、一斉討伐の開始は3月15日です」

 今日は、3月7日です。

 準備期間短すぎじゃないですか?


「えっと。一斉討伐って、だいたい何日位かかるものなんですか?」

 「だいたい十日から十五日ですね」

 おや?案外時間がある?


 “祭り用の料理を慌てて作るのは嫌なんだが”

 “ですよねー”


 いけるかな?って思ったけど、フーさんが嫌なら屋台をもう一度やるという選択肢は無い。

 屋台をするのは一度だけ。

 では、その一度をいつやるかが問題になる。

 今か、それとも一斉討伐の後か。

 商人ギルド的には一斉討伐後だろうけど、一番大事なのは私達がどうしたいかです。


 “どうする?”

 “そなたの一番大事な事を優先すれば良い” 

 “えあー。フーさんは?”

 “我は屋台がやれたらどちらでも良い”

 “そっかー”


 私の一番って言われたら、ダンジョンに決まってるじゃないですか。

 けど、私のしたい調整って、お気に入りへの依怙贔屓えこひいきが主な目的なんです!


「ちょっと待ってください」

 “お話ししましょ!”

 “うむ”

 ささっと、受付を離れてこそこそ念話で話す。


 “フーさんは、屋台がやれたら一斉討伐の前でも後でもかまんが?”

 “ああ。そなたはどうなのだ” 

 “私は、負の魔力を無駄遣いするのが一番で、美味しい物を広げるのが二番よ”


 なので祭りで屋台をすることに拘りはない。

 どちらかと言えば、一斉討伐を最初から最後まで見守りたい。

 そしてなにより、


 “お気に入りへ優遇したい!” 

 “そなた、また依怙贔屓をするつもりだったのか”


 フーさんの呆れたような思念が私に突き刺さる。

 良いじゃん、依怙贔屓。

 ダンジョンマスター特典だって。


 “別にえいやん。わたわた慌てゆう姿が面白可愛いやん” 

 “そなたは。・・・いや、ダンジョンマスターらしくて良いのか?冒険者共が哀れになるな”

 “まあ、ダンジョンマスターですから、私”


 どうでも良い会話をして、結論をだす。

 屋台はこのまま出して、祭りに屋台は出さない。

 一斉討伐は高みの見物をしながらお気に入り達に依怙贔屓して、祭りには1日だけ客として参加する。

 なんて完璧な計画!

 ジルには何だかとても困った顔をされたけど、知らんがな。


 とある国の、とある町の冒険者ギルドの一室。

 四人の男達が密会していた。

 商人ギルドのサブマスター、冒険者ギルドのギルドマスター、領主の軍を取り仕切る軍団長とその副官、町の治安維持を担当する衛兵隊の副団長。

 一斉討伐に深く関わる者達。


 「例の二人、討伐祭には参加しないようです」

 「そうか」

 議題は、屋台を賑わすとある兄妹について。

 彼らが討伐祭で屋台を出すか出さないかで彼らの対応は大きく変わっていたので、参加しないと言う知らせにホッと胸を撫で下ろした。

 

 「話題の屋台が出店しないことは残念だが、懸念事項が減ったことは喜ばしいな」

 「まったくです。目的の者が居なければ、馬鹿共も何も出来ませんからね」

 「言っておきますけど、あなた方も呉々も手出しは無用に願います。あのお二人のお陰で、ダンジョンのレシピの普及が滞りなく行われているのですから」

 「分かっている」

 「限りなく黒だろうが、我々軍も出来れば干渉せずこのままの状態を保ちたいと思っている」


 あの二人に関わりを持ちたいと思っているのは国、というよりも一部の馬鹿貴族。

 馬鹿で愚かな貴族達が自分達の妄想を垂れ流して、蠢いていた。

 大多数の考える頭のある貴族は、関わる事を避けて今の恩恵を感受するべきだと思っているのだが、馬鹿は違う。


 ダンジョンが変化してから、この町に現れるようになったあの兄妹をダンジョンとの繋がりがあるものと断定し、良いように利用しようとしているのだ。

 馬鹿を言うのも大概にしろと、彼らは言いたい。

 人にとって利益のあるダンジョンに変わったとは言え、ダンジョンはダンジョン。

 利用価値があろうが、ダンジョンは人類の敵である。

 ダンジョンにどんな意図があるのか分からないが、今のところ二人の行動は悪意あってのものとは思えない。

 なら、関わらずに放っていたい。

 それが彼ら共通の思いである。

 なので、彼らが討伐祭に屋台を出さない事は彼らにとってとても都合が良かった。


 「領主様に馬鹿を言って来た者は捕縛済みだが、隠れた馬鹿は把握しきれん」

 「ダンジョンが、美味しくなりすぎましたからね」

 「「うむ」」

 「はい」

 「衛兵隊は、一応祭りが終わるまでは、見回りを強化いたします」

 「討伐祭には参加しませんが明日から2日屋台を出されますので、よろしくお願いいたします」

 「そうですか、了解です」

 「宿はグレイの所だろ?腕利きを何日かいれておく」

 

 

 彼らは、限りなくダンジョンに近い者と確信している兄妹に、これからもなるべく関わらずに済むように考えを廻らせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る