第37話 時が経つのは早いもの!

 フィスで初めて屋台をやってから半年が経った。

 季節も巡ってもう冬、と言うか11月。

 フィスのある地方では、いつ雪が降ってもおかしくない。


 え?

 時間が経つのが速すぎないかって?

 やー、仕方ないでしょ。

 特に何もなかったんだもの。

 屋台?

 屋台は当然何かもフーさんと一緒にやりましたともさ!

 

 勿論、焼き鳥の次はゼリーをちゃんとやりましたよ?

 酸味の強い果物の果汁に、甘く煮たコンポートと煮汁を加えて寒天ボールで固めた一品。

 朝市で見つけた苺やすもも、リンゴに似た此方産の果物を使用。

 慣れ親しんだ果物を使った目新しいお菓子って事で、見事に初日から完売御礼。 

 まあ、焼き鳥屋じゃ無いことにがっかりされた部分も結構あった。

 でもまあうちの売り物はフーさん次第だから、そこのところは諦めてもらいたい。


 え?

 他に何の屋台をやったのかって?

 ゼリーの後はクッキー屋になって、夏にはかち割り氷屋。

 秋には餃子屋とフライドポテト屋になったよ。


 半年時間があった割に少ないって?

 うちがいつ開店するかは、フーさん次第だからね。

 フーさんったら、あんまり気分が乗らなかったみたいで屋台の出店は少なめだったよ。


 回数は少ないけど、毎回お客さんが沢山来て屋台の売り子は結構大変だった。

 けど、売上がどんどんあがるのはとても楽しかった。

 顔見知りも結構増えたけど、小さな町の中の事だからヤクザとか貴族とかの面倒なのに絡まれた事はない。

 ライトノベル的な出来事なんて皆無だし、態々言う程の事は起こらなかった。


 屋台ばかりじゃないかって?

 そりゃそうでしょ。

 ダンジョンの構造は最初から完成しているから一切いじっていないし、構造物だって安全地帯の復活と転移石を全階層に付けてからいじっていない。

 屋台以外の変わった事ってあんまりないのよ。



 「ねぇ、フーさん」

 「なんだ」

 ただの座卓から炬燵へチェンジした物へ潜り込み、ぬくぬくしながらガラス戸の外を見る。

 ダンジョンの100階層目は、うっすら雪が積もっている。

 「これからの屋台って、辛くね?」

 「辛いなぁ」


 つい最近やった豚汁屋台は、とても良く売れたけど、売っているこちらからすれば足の先から冷えが全身に伝わってきてとても辛かった。

 「春になるまで籠るか」

 「さんせー」

 別に暖かい南にある町で屋台をしたっていいんだけど、あくせく働く必要は私達にはない。


 ダンジョンマスターと同居人よ?私達。

 それに屋台はフーさんの趣味だしね、売り子の私はおまけ。

 はーい、冬の間のお籠りけってーい。

 と言うことで、更に数ヶ月経って季節は春にましたー。

 


 

 部屋の中が、蒸気と熱気で満たされる。

 私達は今、屋台用の食べ物を作るために増設した101階層でじゃがいもをひたすら蒸かして皮を剥いでいる。

 何気に、私が初めて増やした階層です。

 そう、立派なキッチンがどーんとあるだけの台所階層。

 幾らでも無駄遣い出来る負の魔力って、サイコーだね!


 「よし、次はこれだ」

 「あっつ」

 皮を剥いて潰したら、別に炒めておいた具と混ぜ合わせて整形、小麦粉と卵、パン粉を纏わせたら取り敢えず作業はそこまで。


 え?

 何をしているのかって? 

 勿論、次の屋台でやる物の準備ですよ。

 冬も終わりでそろそろ春だからね。

 今年初の屋台のメニューはコロッケ!


 「ねぇ、フーさん。トンカツソースを有料でかけるって、有り無し?」 

 「有りではないか?」

 「じゃ、そうしよ」

 コロッケには、やっぱりトンカツソースだよねぇ。

 トンカツソースはまだ一般に普及はしていないけど、宝箱から出しているから問題ないでしょ。


 「だが」

 「うん」

 「このコロッケは、ソースがなくても美味い」

 「・・・・なるほど」

 分かりました。

 つまりソースは無しって事ですね。

 「了解」

 「うむ」


 「よし、これくらいで良いだろう」

 「はーい」

 手分けして揚げる前の生コロッケを収納して、道具を洗って片付ける。

 その最中、ふっととあるアイディアが涌いて出てきた。

 そして思わずorzな姿勢を取りたくなった。


 「ねぇ、フーさん」

 「どうした」

 「私ちょっとさ、今更な事に気がついたがよ」

 「なんだ」

 「今回の単純作業、100階層の人形に教えたら私ら楽出来たんじゃね?」

 「!?」

 かっと、フーさんの目が見開かれた。


 「「・・・・・」」

 私達は見つめ合い、一体の人形を呼び寄せてコロッケの作り方を教えてみた。

 そして、私達は揃ってorzのポーズをとった。

 頑張って、熱い思いをしなからたくさん作ったのに!

 面倒でも頑張って、たくさんたくさん作ったのにいっ。

 「なんで、なんで餃子の時に気づかんかったがやろう・・・・」

 「言うなっ」


 「次に、次に生かせば良いのだ、次に!」

 「そうやね!次、次はちゃんと人形の手ぇ借りよう」

 「取り敢えず、飯にしよう。晩飯はポテトサラダにでもするか?」

 「じゃがいもは暫く食べたくないです!」

 もうじゃがいもは勘弁してくださいー!

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