第36話 次に向けて

 「ふがっ!?」

 「起きろ」

 「ふぁいー」


 鼻を摘ままれ、息苦しさと共に目が覚める。

 うう、自業自得だけど嫌な目覚め過ぎる。

 「もうちょっとましな起こし方ない?」 

 「ない」 

 「あるやろ!肩叩くとか、揺するとか、大人しい感じの起こし方あるやろっ」

 「それで起きなかったから、ハナを摘まんだのだが?」

 「すいませんでしたー!」

 

 服を着替えて身支度をしながら文句を言ってみたが、撃沈しました。

 肩叩いても、揺さぶっても起きなかったのなら、窒息からのお目覚めでも仕方がないのかなぁ。

 因に、鼻を摘まんでも起きなかった場合はベッドから落とされます。

 昨日の私です、はい。


 「行くぞ」

 「はーい」

 お世話になりましたとグレイに挨拶をして宿を引き払う。

 そして向かうのは朝市、それからスライムの容器を注文しにゴミ集積場だ。

 ゴミを回収してもらわなきゃいけないしね。

 「その前に飯な」

 「そうでした」

 朝市の途中で朝ごはんをそれぞれ購入。

 フーさんは兎肉の串焼きと野菜スープ、私はコッコ肉の串焼きと野菜スープ。

 野菜スープは出汁が入っていなかったので少々物足りなかったが、串焼きの肉は大変美味しかった。


 「よし、ゼリーに合う果物を探すぞ」

 「おー!」



 農家や果物を扱う露天を巡り、今が旬のすももや苺、リンゴに似た果物を大量ゲットした。

 この際に味見もさせてもらったのだけど、その時にちょっとした問題が発覚した。

 果物、美味しいけど酸味が強い。

 フーさんは当初果汁を搾ってそのままゼリーに加工するつもりだったのだけど、想定以上に強い酸味に予定変更となった。


 「コンポートにでもして、粗く潰すか。ふむ、果肉があった方が食べごたえはありそうだな」  

 「コンポート?」

 何だかオシャンティーな響きですね。

 それに、美味しそうです。

 「おまえの世界の調理法なのだが」

 「・・・えへ」


 いや、聞いたことはあるんです。

 それがどういった調理法なのか知らないだけです。

  ほら、作り方知らなくても食べたかったら、買ったり食べに行けば良いだけでしたから。


 「果物を水や薄い砂糖水で煮た保存食だ。ヨーロッパ?とかのものらしい」

 「へぇー」

 流石、フーさん。

 そのうち自分で作る為に調べたんですね?

 「煮汁も一緒に固めりゃ、それなりの物が出来るだろうよ」

 「味見はまかせて!」

 「手伝え」

 「・・・・はーい」 

 残念。

 何もしないまま、美味しい思いは出来ないみたい。



 「「こんにちはー」」

 朝市を一通り回って、昼頃にゴミ集積場に行って門番にご挨拶。

 フーさんはゼリーの容器を注文しに行き、私はゴミ処理の手続き。

 「お願いしまーす」

 「おう。1100ギルだな」

 「はーい」

 「確かに、頂いた」

 「また、お世話になりに来ます」

 「みたいだな」


 おしゃべりに付き合ってくれるお兄さんの目線の先には、事務所で次のゼリーに使う容器の注文をするフーさん。

 それに、私達屋台をやる度にゴミを出しに来るもの。

 これからずっとお世話になるのは決定事項だよねぇ。

 「次は焼き鳥じゃないのか?」


 あ、もしかしてお客さんとして来てくれていた?

 ありがとうございますぅ。

 

 「付にいつ焼き鳥屋をするかはうちの兄ちゃん次第ですねぇ。次は、ゼリーをやる予定です」

 「それもダンジョンのレシピなのか?」

 「はい」

 私達がやらなくても、他の人達が先にやるかもしれないけどねぇ。

 だって、ゼリーって簡単だし。

 寒天ボールだって、1階層の浅い所で採取出来るもの。


 「ダンジョンの恩恵か」

 「そうですね。ダンジョン様々です」

 恩恵かぁ。

 人からすれば恩恵だろうね。

 私からすると恩恵って言うか撒き餌って感じかな。

 美味しい餌で人をダンジョンに誘き寄せて、負の魔力を少しでも良いから使いたい。


 無駄遣いしたい!

 

 なぁんて、負の魔力の無駄遣いをしたいダンジョンマスターだなんて、私くらいのものだろうね。

 何しろ私は負の魔力を無駄に使う為にダンジョンマスターになったようなものだからね。

 ばんばん使わなきゃね。


 「ナナ」

 ありゃ、お兄さんと話してたらいつの間にかフーさんの注文は終わっていたみたい。

 「はいはーい」

 「気をつけて帰れよ」

 「はーい」

 フーさんと手を振って挨拶をして処理場を出る。

 ダンジョンに帰ったら、張り切って味見をしなきゃね。




ストック、切れました。

キリの良い所まで書けたらまた投稿再開します。

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