第35話 屋台3日目、最終日

 2人して胃の辺りを擦りながら宿に戻ると、時間はもう8時過ぎ。

 焼き鳥を焼きながら串に肉を刺していくフーさんの横で、私はせっせと肉を切る。

 今日は最終日だから、張り切って用意する。

 10時半になったら片付けをして、いつもの広場へてくてく移動。


 「うげっ」

 「これはこれは」

 まだ、屋台を組み上げてもいないのに、並んでいる人がいた。

 有難いんだけど、屋台を出す前に並べるのはやめてもらいたい。

 気まずいし、屋台を出しづらいじゃないか。


 「お、来たな、焼き鳥屋」

 「今日が最終日なんだろ?早く食わせてくれよ」

 「はーい、ちょっと待ってくださいねー」

 

 “ねぇ、フーさん”

 “ああ”

 “今日は忙しくなりそうね”

 “そうだな”


 大急ぎで、屋台が出来るように支度をする。

 エプロンと三角巾を身につけて、屋台を収納から取り出して、全体と自分達に浄化をかける。

 フーさんが焼き台を設置して焼き始める横で、私は外にゴミ箱を設置して、看板変わりの黒板に赤いチョークで本日最終日と書き加える。


 葉っぱとトレーよし。

 在庫の保管箱はフーさんが出してくれている。

 つり銭よし、金庫もよーし。


 「ナナ、氷」

 「あっ」

 盥を出して氷をどーん、そよ風吹かして暑さ対策よーし。

 私が定位置にスタンバイしたら、開店準備完了!

 「お待たせ致しました!気まぐれ屋、開店です」



 「や、やっと終わった・・・」

 「まさか、肉が無くなって閉店とは・・・」

 「思わんかったねぇ」

 屋台の最後は、用意した肉が全ての無くなって終わった。

 焼き鳥屋の最終日なので17時に拘らず、全ての客を捌ききろうとしていたのだけど、客を捌ききる前に肉が尽きた。

 絶体に残ると思っていたあの大量の鳥肉が、もう一欠片も残っていない。

 焼き鳥を買えなかったお客には、フーさんと一緒に余ったタレを渡して謝って回ったよ。


 許してもらえたけど、悪いことしたなぁ


 「次はもっと考えねぇとな」

 「だねぇ」

 ただし、次に扱う物はゼリーです。

 更に言えば、うちの屋台はフーさん次第なので次にいつ焼き鳥をやるかは不明です。

 やらないと言う可能性も有ります。


 「そういやさ、」

 「うん?」

 「今日も見回りの人達が見守ってくれてたね」

 「そうだな」

 そうなのよ!

 3日間ずっと、見回り兵さん達が屋台を見守ってくれていたのよ。

 差し入れが効いたのかな?

 うん、次回屋台をやる時も忘れずに差し入れをしよう。


 「よし、ちゃっちゃと片付けてギルドに行くぞ」

 「はーい」

 許可証を返しに行かないといけないし、安いゼリーの器を大量に仕入れたい。

 ばらまいた本の広がり具合や、料理人の反応だって知りたい。

 張り切って浄化をかけ、ゴミをまとめ、丸ごと収納へぶち込む。


 「なんだ、もう終わったのか」

 「「あ」」

 残念そうな声に振り返ると、グレイがいた。

 どうやら、買いに来てくれたようだ。

 大分遅いけど。


 「ごめんなさい、グレイさん」

 「悪いな、グレイ。肉が尽きた」

 「あー、そりゃあどうしようもないな」

 「タレならありますよ」

 「商売道具じゃねぇか」

 タレを渡そうとする私に、グレイは呆れ顔で首を振る。

 うん、タレを渡そうとすると大概の人がグレイと同じような反応をする。

 「この程度、何時でも作れる。それに、焼き鳥は暫くやらないから問題ない」

 「そうなのか?」

 「ああ」

 「私達の扱う物は、兄ちゃん次第なんで」

 「ああ、なるほど。気まぐれ屋か」

 そうそう、屋号通りの屋台なんです。


 「なら、遠慮なく貰う」

 「おう」

 「はーい」

 貰ってもらえると、私達も助かります。

 それからグレイはゴミの片付けまで手伝ってくれて、帰っていった。

 なお、グレイは去り際に飴玉の入った小袋を一つづつくれた。 

 

 イケメンかっ!?

 イケメンなのか、グレイ!

 因みに飴玉は私のダンジョンから出た物です。


 「よし、俺達も行くぞ」

 「うん」

 フーさんの後を追いかけて、小走りに先を急ぐ。

 もう、空が暗い。

 家々の明かりと街灯のおかげで十分明るいが、子供だけで出歩くのはあまり宜しくない。

 ゴミの処分は明日!

 何しろ、ゴミの集積所周辺は治安が余り宜しくない。

 私達は見てくれが子供と成人したての子供なので、真面目な衛兵に補導されていまう可能性が高いのだ。

 避けられる面倒は、避けて通るってのが私達の方針なので、後回し。

 

 「こんばんは、いらっしゃいませ」

 人はまばらに居るものの、昼間とは違って静かな商人ギルドで私達を迎えてくれたのは、登録の時に対応してくれたエルフ。

 確か、名前はジルだったはず。


 「「こんばんは」」

 受付には彼1人しか居なかったので、挨拶を返してよって行く。

 「許可証の返却に来たんだが」

 「迅速な返却、ありがとうございます。ですが、時間も時間ですのでこういった場合は明日の返却でも問題ありませんよ?」 

 「そうなのか?」

 「はい」

 ジルは真面目な顔をして、頷く。


 “私達が子供やからかな?”

 “それほど急いで返す必要も無いからだろうよ”

 “なるほど、”


 「なら、次からはそうする」

 「うん」

 「はい、お願いいたします」

 大人しく頷く私達に、ジルは満面の笑みで答え許可証の返却手続きを開始する。


 「私は行けませんでしたが、お2人の屋台はギルドでも噂になっていましたよ」

 お、手続きしながらおしゃべりですか?

 屋台の評判は私達も知りたい事なので、大歓迎ですよ。

 「うわさ?」

 「ええ」

 

 曰く、終わりのダンジョンのレシピを上手く取り入れた絶品ソースが堪らない。

 酒のつまみに最適。

 理解出来るけど、本数制限が辛い。


 「他にも、営業日が短すぎるとか、次の営業日はいつなのかとか」

 「「へえー」」

 まあ、概ね好評のようで一安心だ。


 「でも、商品の内容はその時次第で、営業も貴方次第なのですよね?」

 「ああ」

 「そうなります」

 全ては、うちのフーさん次第なのです。

 「なので、もし良ければなのですが」

 真面目な顔をして、ジルは私達に提案してきた。


 「焼き鳥ソースのレシピを登録しませんか?」

 「「?」」

 タレのレシピ?

 

 “あれって、本のレシピそのままでね?” 

 “ああ。手は一切入れていない” 

 フーさんと顔を見合わせて首を傾げる。

 レシピを商人ギルドで登録するという事は、誰かがタレを作って売る度に私達に利益の一部が入る事になる。

 

 「貴方達の焼き鳥が、大変に人気でして。屋台が次にいつあるのか分からないのなら、ソースのレシピを登録して欲しいという要望が来ておりまして」

 「そう言われてもな。あのタレは、ダンジョンから出たレシピそのままなんだが」

 「ダンジョンから出たレシピそのまま?」

 「ああ」

 ジルは、フーさんの説明に動きを止めた。

 きっと、レシピそのままだと信じられないのだろうが、残念な事にそのままなのだ。


 「兄ちゃんが使ったのはこのレシピです」

 私もレシピ本をインべントリから取り出して、照り焼きソースのページを開いてジルに見せる。

 醤油に味醂に砂糖。

 全部私のダンジョンから出てくる物です。

 醤油に味醂は、宝箱からだけでなく植物の実からも搾れます。


 「確かに」

 「ギルドで作って、好きに売れば良い」

 「よろしいので?」

 「ああ」

 私達は焼き鳥屋ではないので、全然オッケーです。

 むしろ、焼き鳥の屋台が増えると嬉しいです。


 「ありがとうございます」

 と言うことで、商人ギルドで照り焼きソースの製造販売が決定しました。

 「そんなことよりも教えてくれないか?」

 「なんでしょうか?」

 「スライムの容器の大量注文は、此処で良いのか?」

 

 あ、ゼリーの容器ですね?

 まあ、フーさんにとっては一番メインで知りたい事ですよね。

 「スライムの容器ですか?」

 「ああ。次の屋台で使いたい」

 「なるほど。でしたら、ギルドで注文するよりも、直接集積所で注文した方が良いですよ」

 「あそこか」

 ゴミの集積所、確かスライムの加工場も併設されているって話でしたね。

 「助かった。明日にでも行ってみる」

 「ありがとうございました」

 「はい、どういたしまして」

 と言うことで、商人ギルドを後にした。


 「風呂行って、飯食って寝るぞ」

 「異議なし!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る